【第554話:ただいま】
そこに現れたのは純白のヴェスタ。
ベル型に引いた大きなスカートは長い裾を引き、真珠と黄金に縁取られたきらめく白いドレス。
純白の長手袋にまでこだわった刺繍や細工がつく。
カットは艶めかしくもそれでも最大限に清楚に。
銀のティアラには控えめながら美しい色とりどりの宝石たち。
中央には瞳とおそろいで大粒のエメラルドが輝く。
広げた両腕の中に塵が集まる。
それは輝く光で変化してジュノになっていく。
ユーノを抱きとめたヴェスタは高貴なるプリンセスの姿。
薄っすらと化粧までを施されたその姿は、ユーノをして初めて見る美しさだった。
(お、おひめさま?)
一度は塵に還った体が再構築される。
指先までが塵から光に、そうしてジュノの形に戻っていく。
がしっ
形を取り戻したジュノを力強くヴェスタが抱きしめた。
(いってはなりませんジュノ‥‥わたくしは愛しているのです‥‥失うことなど出来ませんよ)
言葉遣いまでがお姫様になったヴェスタは、どこから見ても王族の佇まいだった。
(ヴェスタ‥‥なの?)
答えはなく、ただ強く抱きしめられる。
顔はヴェスタにしかみえないのに、その気配は位階の差を感じさせる。
その仕草もまたプリンセスの所作。
ユーノは知っていた。
ヴェスタは最初から高貴だったと。
(もう言葉は要らないのです‥‥ジュノこちらに来て、わたくしのそばにいるのです)
ニッコリと微笑んだヴェスタに手を引かれるままにユーノは自分の義体に戻された。
(お聴きなさいジュノ=ラウミナス‥‥)
その名はオリジナルのジュノ=アウレリアスではなく、ヴェスタと過ごしたジュノという家族を指した。
ひざまずくジュノの前に凛として立ち、手を握ったまま神託のように言葉を落とすヴェスタ。
(ヴェスタ=ラウミナス=レガリア=エル=セレスの名において命じます‥‥今後許可なく命を投げ出すことはなりません)
きりりと険しい目でいわれて、しゅんとするユーノ。
(はい‥‥姫様)
ニッコリとヴェスタが笑い手を離す。
ユーノが体を起こすと、ヴェスタが抱きついたまま意識を失っていた。
(いったい‥‥今のは‥‥)
すやすやと眠るヴェスタは、どこか満足気に微笑んでいた。
とても自然な美しい微笑みだった。
突然ゆらっと何かが揺れ動いたのをユーノは感じ取った。
それはスパイラルアーク全体を軋ませて駆け抜けた。
「な‥‥なにがあったの?」
抱きついて離さないヴェスタをそっとアイカ達の横に寝かせる。
そこには黄金の髪を絡ませ合うように二人になったルクールとルニーアも絡み合うように横になっている。
アイカもユーリアも呼吸と動悸に乱れがないと、ユーノの高感度なセンサーは捉えていた。
アイカがするように、スパイラルアークのコンピューターに無線で接続し、一瞬で承認させるユーノ。
もともと乗員として登録のあるジュノのコードなので、抵抗は少ない。
「ああ!!スパイラルアークⅡがいる!!」
外部カメラとレーダーは懐かしい姉妹の姿を捉えていた。
そしてスパイラルアークⅡの後ろには真っ白な巨大な月。
その脇につつましやかな青い宝石が灯っていた。
「あ‥‥ぁ‥‥アルドゥナが‥‥」
ユーノはふるふると感動に震え、涙がこぼれる。
こんなにも恋い焦がれていたのだと、今になって実感したのだ。
ここが帰るべき場所なのだと。
(アウステラが消滅したから‥‥因果が切れたんだ‥‥)
そもそもあの打ち上げに引き寄せられてシフトしたのだなと、ユーノは想像していた。
ぴーぴーと着信がなり、遠隔でユーノが受ける。
『アイカ!!』
真っ先に通信してきたのはマナミだった。
「アイカはスリープちゅうだよ、大変だったんだから。ちょっと手伝いに来てよ‥アイ達もこれるならこっちに来て。私一人で後は全員ダウンだから」
「はぁあ?!」
マナミは非常に驚いたのだろう。
変な声だったのが面白くてサンプリングするユーノ。
あとでマナミ用の呼び出し音にしてやろうとほくそ笑む。
「ジュノは大丈夫なの?!」
マナミはジュノのことも心配してくれる。
そこで自分はユーノなのだと説明しようとして、それができないことにユーノは気付く。
(あぁそうか‥‥ヴェスタに再定義されていた‥‥)
ログを確認して、あはっと笑ってしまうユーノ。
(そうか‥‥ヴェスタはわたしをジュノだと言ってくれた‥‥ユーノだと理解した上で)
それは声が漏れてしまうほどおかしくて、幸せな事だった。
「平気よ!ジュノはいつも元気なんだから!!」
自然に名乗れることは、こんなにも気持ちがいいのだと、ジュノはたった今理解した。
わたしはジュノなのだと。
そっと心の中でだけオリジナルのジュノに詫びた。
(ごめんねジュノ‥‥名前をもらうよ)
今日からは自分の名前なのだと。
最初に目を覚ましたのはアイカだった。
消耗は一番激しいはずなのに、アイ達の声でぴょんと目覚めた。
「アイ!!」
『ままぁああ!!!』
少し大きくなった娘たちに包まれて、わんわんと泣くアイカを、リーベとマナミがなでている。
騒ぎが大きかったので、ユーリアとルクール・ルニーアも目覚めた。
ユーリアは消耗していて起き上がれず、そのままベッドで休ませて、ジュノに髪を撫でられていた。
大きくなった胸も元通りしぼんで、髪も肌も元通りだ。
(不思議な仕様の義体だな‥‥)
ジュノはあとでちゃんとお風呂で調べてやろうと心に刻んだ。
ぶるると寒気を感じたのか、ユーリアが身震いした。
ルクールとルニーアは特に調子が悪いことはなくて、ふたりとも裸だったので、保護スーツの予備をジュノが出してあげた。
ルクールがルニーアに使い方を教えてしゅるんとくるまれた。
これで衣服まで一緒で、完全な双子に成った。
とりあえず識別のためとして、ルニーアの髪は右を、ルクールは左の髪を結んでおいた。
パーソナルカラーが同じ黄色なので、あとでじゃんけんで決めて変えてもらわないとなと、ジュノは鼻歌交じりにお茶を淹れていた。
オリジナルのジュノが大好きで趣味にしていたので、ユーノも見様見真似で覚えた作法。
今思い出してみれば、現在のジュノの方がはるかに腕前は上だなと解る。
(研鑽したからね!)
ひとつひとつの言葉。
動作の意味。
それらが全て演技ではなく、自分なのだと再認識する。
もう演じなくていいのだと思っても、何一つ変わらないのだと気付いた。
(はやくヴェスタも起きないかな!)
この新しいジュノの気持ちで抱きしめたいと想うのだった。
温かさと柔らかさを思い出しながら。
どうやらアーク姉妹は月のL5に居ることが解った。
あの転移事故に巻き込まれたポイントなのだろう。
月もアルドゥナも位置は変わらずそこにいたが、何しろ4か月も経っているので記憶は曖昧だった。
不思議なことに船体を覆っていた外側部分は無くなっていた。
ここを出かけた時の姿に戻されたのでわ?とアイカが推測し、なるほどと皆で一定の納得を得た。
メーナが行きたいと騒いだらしく、リーベと二人で月に行くという。
ついでに月拠点の様子を見てきてもらうようにお願いした。
移動にはコレを使ってと、ジュノはティア8軌道往還機を貸し出した。
スパイラルアークⅡには航空機が残っていなかったから。
メーナがアイカに聞いていたより思いがけず可愛いのでジュノは甘々だった。
優しくすると役立つ人間をメーナも敏感に嗅ぎ分けるので、ベタベタとジュノにも甘えた。
きっと掃除もしないで4か月も経っているので、大変かもと二人が飛び立った後になってジュノは思い出した。
「ごはんよー!」
マナミの声がして、はーいと騒がしく乗員たちの声が響いた。
アークの方に全員来ているので、なかなか大人数だ。
狭いのも久しぶりでなんだか楽しいジュノだった。
(あとはヴェスタが起きてくれればいいのにな)
ジュノはまだ目覚めないヴェスタの側に座っていたが、そっと髪を撫でておでこを出した。
ちゅ
ヴェスタの白いおでこにキスをすると、ダイニングに行こうとジュノは立ち上がった。
ぱちっ!
長いまつげが縁取るヴェスタの瞳が開かれて、キョロキョロする。
「ヴェスタ!」
ジュノはもう我慢できず、その胸に飛び込んだ。
「ジュノ!!」
ヴェスタも抱きとめて力のかぎり抱きしめてくる。
「じゅのじゅのぉお!!」
あーんと泣き出すヴェスタ。
なんだかわからないが泣かれたので謝るジュノ。
「ごめんねヴェスタ‥‥もう泣かないで‥‥」
「どこにもいかないで!」
ぎゅうっと抱きしめながらヴェスタは言う。
「ずっとそばにいるよ」
ジュノはそう言って優しく抱きしめ返した。
(ただいま)
そっと心でつぶやくジュノ。
ほんの束の間だったが、永の別れを告げたのだったと思い出したから。
※AIの仕上げを取り入れてみました!これはすごいですね。みてみんがAIだらけになるのも解る。




