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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第1部 第6章
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【第54話:とりかえしのつかない事】

アイカの放った霊子の咆哮は、ヴェスタもジュノも他のアイ達も受信した。

共通チャンネルとして定めた周波数は常に受信を開いている。

「どうしたの?!」

「アイカ?!どこ?すぐ行くよ」

ヴェスタとジュノが返信しながらアイカの元へ向かう。

「アイが!‥‥アイ02がいないの‥‥クスン‥‥ええぇええん!!」

アイカはついに泣き出してしまう。

登山口から下って行きながら簡易センサーを設置していたジュノが驚くほどの速さで戻った。

アイカの元に駆けつけたジュノが、ぎゅむっと抱きしめる。

「落ち着いてアイカ‥状況を教えて‥‥すぐに見つけ出すよ」

ぽんぽんと、泣いているアイカの背中をたたくジュノ。

「か‥カメラを二人で設置していたの‥‥別れたほうがやりやすくて‥‥わたしが‥‥」

「アイカ‥‥いい子ね‥反省は後にしよう。今はアイちゃんを見つけようね」

「うん‥‥あっちの外輪山の上でわかれた‥‥右回りにアイ02は進んでいって、わたしは左に‥‥」

ジュノの脳裏に悪夢が蘇る。

それはヴェスタを見失ったあの時と同じではないかと。

とんっとヴェスタも到着する。

「アイカ!!状況はわかった。手分けして直ぐに探すよ!時間が一番貴重だわ!!」

拠点内で作業していたヴェスタが飛ぶように駆けつけたのだ。

「そうだね!ヴェスタは右回り外側、アイカは内周りで右から、わたしが左に!」

ジュノの端的な戦闘指揮が入り、頼もしく二人は頷いた。

「絶対みつける‥‥いそぐよ!」

言うなりジュノは左回りに走り出す。

一度ぎゅっとアイカを抱きしめてヴェスタも走り出した。

アイカも涙を拭って走り出す。

(泣いていてもアイは見つからない‥‥アイ02‥ごめんね‥‥クスン‥‥)

それでもアイカの涙が止まってくれることはなかったのだった。




「どうして壊しちゃったの?よく調べたかったのに‥‥」

リステルは部下の戦士から2つになったその人形を受け取った。

上下に分かたれてしまったそれは、すでに動作していないとリステルには判る。

スポーツ用サングラスのように装備されるデバイスは、捕らえた電磁波や霊子波すら可視化する。

その人形からはすでに電波も電磁波も出ていなかった。

アイ02の変わり果てた姿だった。

「ひどいわ‥‥こんなに可愛いのに‥‥」

リステルは可哀想に想いそっと抱きしめた。

(あとでちくちく縫って大事にしよう)

そんな事も考えていた。

アイタイプの義体はアルミフレームの本体に、布の外装を被せて作ってあった。

首で2つになったそれから、本体を抜き出すリステル。

外装の部分は薄いコットンの布なので、あとで綿を詰めようとカバンにしまった。

「‥‥すごい技術だわ‥‥こんなのあたしには作れない‥‥」

しゅんとなった戦士の男がひざまずいて待っている中、リステルは中身を確認する。

「おそろしく軽い‥‥金属なのに‥‥これも持ち帰ってよく調べよう」

中身もカバンにしまうリステル。

「‥‥いったん下りるよ。少し下にキャンプを設置して」

「はっ‥‥」

アイ02を壊してしまった部下の戦士はしょんぼりしながら、残りの10名程の戦士と合流して斜面を下る。

リステルの指示で山頂付近から90度ほど移動して上ってきたのだ。

山道は当然警戒していると想像したから。

その場に一人残ったリステルは考える。

(これを作った者が上にいる‥‥会いたい‥‥話しをしたい)

リステルは目的がなくても知識欲が高かった。

そして、今それは目的にも関連が強かった。

(領主に味方する者ならば‥‥残念だけど最優先で排除しなければ‥‥)

その瞳には合理的行動指針と欲求の間にゆれる学者の苦悩があった。




その日予定していた全てをキャンセルしてアイ02を探したが、見つからなかった。

アイカが最後には皆を説得して撤収した。

「ありがとう‥‥ジュノ、ヴェスタ‥‥一旦拠点にもどろう‥‥アイ02はあきらめます」

そういった後また涙をながすアイカをぎゅっと二人で抱きしめた。

「アイカ‥‥明日明るくなったらまた探してみよう。今日はちょっと暗くなって見落とした事があるかも」

ヴェスタが励ますようにそういって肩を抱き拠点に向かった。

ジュノは立ち尽くし、くるりと外輪山を見渡す。

(わたしのせいだ‥‥何も学ばなかったの?あの時‥‥戦闘指揮官失格だ‥‥)

ジュノも悔しい涙が滲んだ。

それはヴェスタを見失った痛みを再度胸にえぐられる痛みを伴ったから。


朝から拠点でヴェスタが作業していたのは給水排水の設備だった。

幸い騒ぎが起きる前に仕上がっていたので、今日はお風呂もトイレも使えるようになった。

拠点の2階にあたる部分に湖から取水してタンクを満たすようにした。

前の拠点から持ってきた500Lの水タンクだ。

ポンプは今回ティアの上昇に合わせて再設計したもので、高性能になった。

地中を掘り進め、直接水面下から引いたので、外から取水口は見えない。

直径30cmほどの穴が垂直に下り、直角に曲がり水平に湖水までつながる。

これはアイ03にマインビームを持っていって掘ってもらった。

最後の湖水に貫通してから垂直の竪穴を戻るまでが、アクション映画さながらの迫力だったとアイ03は興奮して語った。

よしよしとして笑顔でヴェスタは愛でた。

ちょっと汚れてしまった外装をぽんぽん払って、もう一仕事お願いねと頼んだ。

今度は排水用の水路を掘ってもらう。

拠点内は露出でU時型の溝をヴェスタが掘り、蓋をした。

後で掃除も可能だし、設置も簡単だからだ。

出口付近からまたアイ03に活躍してもらい、今度は湖面よりぎりぎり上に出るように掘ってもらう。

そこから今度は立体MAPを見ながらトイレに直通の排水路を引く。

下水と汚水を分ける仕組みだ。

アイ03にトイレを任せながら、ヴェスタはカモフラージュできるように排水口に覆いを被せる。

拠点の入口と同じ、地面と似た色のカバーだ。

こうして午前中の間に完成させていたので、アイカは無事に一人お風呂で泣くことが出来たのだった。

(アイ02‥‥ごめんね‥‥ママを赦して‥‥クスン‥‥)

アイカはもうアイ達を一人で外には出すまいと、心に刻み込む。

アイ達、アイカに作られたAIにはバックアップは取られていないのだ。

電源が落ちればそれまでなのだと、その儚さと惰弱性に悲しみ悔やむアイカ。

やり場のない怒りと悲しみもそこにあった。

それを設計したのも作ったのもアイカだったのだから。



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