【第52話:見つからないのが良いですね】
リステルはまだまだ油断できないと考えていた。
鉱山を抑えたので、これ以上領主側の戦力は増強できないとは思われる。
なにより、試してみたがこのタイプの小口径ライフルの、5mm程度の弾丸は防護膜を貫通できない。
リステルの着ているスーツなら拳で殴られた程度の衝撃だけで、死ぬようなことはないと解ってはいる。
まあ、殴られたくはないのでできれば無血で勝ちたいと思っている。
ここまでにも南の戦闘部族を従えるのに、なんどか決闘騒ぎがあったが、全て勝ち上がって来たリステルだった。
たまたま鉱山の視察をしようと外に出た時、空から光りが山に下りるのを見た。
(な!?なんなの?!空から青い火の玉が?!)
麓から見上げたそれは火口に逆噴射の核パルスジェットを叩きつけたスパイラルアークなのだが、距離も有り光だけを見たのだった。
この時代の通常の人間がそれをみれば神の御業か悪魔の仕業かと恐れるだろう。
リステルは考察していた。
青い炎は高温の炎だと、神の知識に有る。
リステルは領主の城で殺した白服の女を神の使徒だと定義していた。
その女から奪ったスーツとサングラス型のデバイスから、色々な知識を吸い出していた。
まず1日でスーツとデバイスの使用法を総当りで調べ、3日かけてデバイスから神々の言語と思われるその言葉を習得した。
そして一月をかけてデバイスから知識を吸い出した。
神の世界で使徒には与えられた使命が有るようだった。
「すぱいらるあーくは、うちゅうせんらしく、空を移動すると想定されていた‥‥あの青い炎も空から降りてきた‥‥可能性がある」
こういった発想が天才なのであった。
すぐに拠点にしていた町長宅に戻り、戦士を募り山を上ることとした。
この山の上が湖になっているのは、わりと昔から知られている。
ただし登頂が困難なので、実際に見たことが有るものは稀だ。
リステルももちろん未登頂なので見ていない。
選りすぐりの戦士10名を連れ、その日の内に登山を開始した。
山頂の火口は直径が10㎞程度で、直径300m程の火口湖があった。
平均水深は30mほどだが、深いところは100m程度まである。
スパイラルアークは丁度中心あたりに下りて、そこは水深30m弱だった。
着陸脚を縮めれば水面下に機体を隠せた。
人が住んでいるのは北から北東にかけた沿岸部、及び北の裾野に住んでいると調べてあった。
そこで南東部の火口が変形して凹んでいるところに洞窟を一つ掘った。
掘削はマインビームで割と簡単にできるし、石材の補充にもなった。
高さ2m幅2mの正方形型にくり抜き進み奥で広げた。
入口は同じ色にカモフラージュした扉で塞ぐので、相当近くまで来なければ見つけられないだろう。
船内にアイ01を留守番に残した。
アイシリーズの義体には新たに霊子通信装置を内蔵し、多少離れていても連絡がつく仕様になった。
「いってらっしゃーい」
元気にちいさなアイ01が手を振っている。
話もできるように小型のスピーカーを内蔵した。
本気を出せば人間と変わらない音量を出せる。
アイカは4人の義体を更新し、一人ずつ順番に抱きしめて詫びていた。
「ごめんね‥‥ママが悪かったの‥困ったら何でも言ってね」
アイカは一人づつ頬ずりしていた。
また仕事もローテーションで不公平の無いようにしようと決まり、02は今アイカ当番だ。
03と04でヴェスタとジュノにくっついていって、それぞれの手伝いとデバイスの監視をしている。
スパイラルアークからは大気を取り込む直径50cm程のダクトが水面下ギリギリに出され、そこから湖水と、中心が2重管になり大気を取り込む。
変換して取り込むのでさほどの量は必要ない。
太陽光線は水面下10cmあたりに船体上面があるので、日中は普通に取り込めた。
月のある日の夜間は浮上して月光からも光をもらえる。
この状態で10日ほどすぎればまた飛行できる予定とのことで、その間にこの島でもらえる素材を集めようと、方針が決まった。
差し当たって今日は拠点となる洞窟を完成させる予定だ。
船に残したアイ01は8時間に一回アイカと連絡を取る約束となり、1週間で仕事をローテーションする。
01は次にまたアイカ当番で、03がジュノ04が船当番だ。
02がしばらくよしよししてもらえるように配慮したアイカの差配だ。
手が空けばよしよしとアイ02を撫でるアイカはなかなか可愛いのでジュノもヴェスタもご満悦だ。
今回の拠点開発コンセプトは『見つからない』である。
ステルス性を第一に考えてある。
母船も湖に隠し、拠点自体は火口の外輪山内側から地中に掘り隠した。
この島はかなり人口があると、事前の霊子波レーダーで解っていた。
襲われないように隠れて採掘・精錬を済ませ、次は北の大陸を目指そうと計画されている。
精錬用の溶鉱炉などは火も使うので、給気設備と排気設備が必須だ。
さすがにこれを母船の艦内では出来ないので、作業室を作るのが本来の目的。
そして、事前の打ち合わせのように拠点をデザインしていく三人だった。
「うん‥‥会心のできだわ‥‥」
作業室に持ち込まれた、持ち込みの作業台や溶鉱炉を設置したら、早速ヴェスタがベッドを作る。
個人用のは後回しで、いちゃいちゃ用ベッドだ。
ダブルの大きめベッドは、ヴェスタの(邪な)魂を込めて作成した会心の出来だった。
なんなら今夜はどうせこれしか使わんまで考えているヴェスタ。
作業室の隣に個室を3室と、いちゃいちゃルームそしてダイニングキッチンを作った。
寝室それぞれにベッドとサイドテーブルくらいは欲しいねと考えている。
今夜はベッド以外要らないが、とジュノも言う。
ちなみに給水設備は明日になるので、お風呂もトイレも実装していない。
アイカはキッチンとダイニングを整える。
新しくティア5の設備でコンロとシンクを設置。
コンロの下には電子レンジ・スチーム調理機能付のオーブンもあるので、調理のレベルも上がる。
そしてテーブルセットは引き継いで持ってきたものを設置。
かるく拭き上げてにっこりするアイカ。
「ふふ‥ここでまたごはんを食べるのですよぉ」
なんだか楽しそうなアイカを見て不思議そうなアイ02もお手伝い。
椅子をふきふきしながら聞く。
「ママたのしそうです!」
にっこりアイ02が笑うのはアイカがにこにこするから。
「楽しいのですよぉ。また楽しく食事をするのです」
そう言ってテーブルの小さな傷をなでて、アイカは笑う。
その傷一つにも、もう思い出が有るのだ。
アイ02にはよく解らないが、なんだかあったかいなと感じるのだった。




