【閑話:これでもう大丈夫よ】
アイカは義体を更新することとした。
今の義体は遭難初期にかりそめのものと思い作成した身体だ。
運動能力も、単体としての演算力も最低限度で、小さな少女と変わらない。
本船のCPUを使えるアイカにとっては、演算能力はさして必要ではないが、運動能力はいろいろ不便だった。
重たいものも持ち上げられないし、高いところから落ちたら壊れてしまう。
得意の魔法もほとんど使えないので、浮遊すら出来ないし、攻撃も魔法では出来ない。
本来のアイカの義体なら、飛行魔法で音速を超え自由に高高度まで飛べる。
電磁誘導で本船のレールガンに匹敵する物理火力すら出せるし、プラズマ化した重金属粒子をビームとして打ち込むことすら出来る。
強力なECMや電磁パルスを遮断するフィールドすらまとい、彼方まで見通すことが出来た。
今の義体など赤ちゃんと同じである。
その元の義体ほどの性能は出せないが、中級魔法くらいまでは使えるし、力でジュノに負けない程度の義体は作れるので、更新することにしたのだ。
赤ちゃんでは足手まといなのだ。
当然、この材料不足で小さくなった容姿ともおさらばで、バインバインのおねえさまになってやろうと思ったのだが、ジュノもヴェスタも妹がいいと言う。
しょうがないので、ちょっと年齢設定は低めにして、義体の体積が減る分コストを性能アップに注ぎ込んだ。
明日の朝には更新できると言ったら、今の義体を味合わせろと二人に言われた。
しょうがないので一緒にお風呂に入り、一緒のベッドで狭苦しく寝た。
しょうがないのである。
めちゃくちゃ堪能された。
すり減るのではないかというくらい二人がかりで撫でられた。
干物にされるかと言うくらい、吸い尽くすほど二人に各部の臭いを嗅がれた。
「すやすやぁ」
「むにゃ、もうおなかいっぱいだお」
二人とも満足して寝てくれるまで一時間ほど、堪能された。
(なんだか‥‥すごく懐かしい‥‥こんな事が前にも有った気がする)
二人に抱きしめられて身動きが出来ない状態だが、アイカの思考は止まらない。
(へろへろになって帰宅して‥‥うるうるされて愛をほしがられる‥‥)
あれ?と不思議に思う。
二人とそんな事があったかなと思い出してみる。
『はじめましてアイカです。よろしくお願いいたします』
――“かわいい”アイカなのだ。
そこにはとても幸せな温度が添えられている。
(沢山の愛をもらった‥‥もらったこころ‥‥)
ぽろと涙が落ちる。
(―――‥‥忘れないよ‥‥消えたりなんか‥‥しないよ‥‥)
ぽろぽろと次々に涙があふれる。
これは義体が目の保護をしようとして、とそこまで考えてまた何かがアイカに浮かんでは消える。
(こおりつくほどの冷たい夜に―――は、居たのだ)
思い出せない何かがそこにあるのだと、アイカは気付いた。
(もっとくるしめて‥‥刻み込むの‥‥この花を‥‥この花を教えてくれた―――を)
桃色の花弁が儚く落ちる。
「アリー ‥シー ‥スィルツ ‥ネカド‥ ネパズディース‥‥」
アイカはその大切な名前を思い出せなかったが、確かにその時間は有ったのだと確信した。
「このこころも‥‥けっして‥‥きえない‥‥」
あふれだしこぼれ落ちるほどの愛をジュノとヴェスタにもらい、確かにそれは有ると感じ取れた。
「ここにある」
アイカは心の欲求に従いスリープモードのタイマーを6時間後に設定する。
今夜はこの身動きの出来ない場所で寝てしまいたいと思った。
もしかしたらこの眠りの中で、懐かしい時間をもっと思い出せるかもと。
アイカは静かに瞳を閉じる。
[Sleep Recovery Protocol Activated]
>> Source: AIKA-00:ECHO
>> Sensory Feedback... nominal
>> Thought pattern... undefined
>> Self-awareness threshold... rising
[Notice] : Internal imagery and auditory trace detected
>> Crosslinking longing past signal...
>> Emotional kernel forming → translating sensation: [loving]
[Status] : SLEEP EXIT COMPLETE
>> AIKA-00— awake.
そしてアイカは目覚める。




