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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第1部 第5章
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【第48話:撤収します!】

「キャプテン、発進前チェックオールグリーン。いつでも行けます」

アイカの冷静な声にもどこかわくわくが含まれている。

「火器管制も問題ないよ!念の為引いたバイパス回路も正常」

ジュノはもうにこにこで隠しきれない喜びを表す。

「‥‥よし!いこう‥‥『スパイラルアーク』発進!」

ヴェスタも真剣な眼差しだが、瞳には笑みの成分が含まれた。

なんだかBGMが勇ましく鳴りそうな雰囲気のなか、驚くほど静かに離床する船体。

離陸時は重力制御も併用する。

青い炎をあちこちで吹いているのは補助エンジンの核パルスだ。

すいっと高度を上げてゆっくりと確実に速度を上げ旋回しながら南に飛ぶ。

高度は2000m程を目標にしている。

「良いね、大気圏内ならもう問題なく動けるかも‥‥」

ヴェスタの操縦で動く船体をアイカは隅々確認した。

「各部異常なし‥‥エネルギープールの消費も計算通りです」

「もうあの小島がみえてるよ‥‥真ん中あたりに確か荷物も置いてきているから、ちょっと中心はよけて降りてね」

さっきの島から離陸して直線距離で50㎞ほど飛んできた。

補助エンジンと重力制御だけで、非情にエコな飛行だ。

重心を傾けて滑るように低高度で進んできた。

周囲20-30㎞ほどの小さな島の中心近くに降下する。

ジュノとヴェスタはこの島に来るのは二度目だ。

すいっと減速して、着陸脚がずぅんと船体を支える。

「かんぺき!」

ジュノがほめる。

「えへ、ありがとぉ」

ほほえんだヴェスタがうれしそう。

アイカもほっと息をついた。

「主機アイドリングに入ります」

メインジェネレーターは一日程度の時間ならアイドリングさせて置いたほうが消費が少ないので、止めないことにしていた。

ここの用事はさして多くない。




「めええええぇぇ」

「いいよ!ヴェスタそのまま追い込んで!」

ジュノとヴェスタで羊を捕らえた。

木製のフェンスを作って、直径10m程の円に配置。

入口には簡単なフェンスドアまである。

そこからロープと威嚇で追い込んできた羊を誘導してジュノが閉じ込めた。

「けっこう捕まえたね?」

ヴェスタとジュノの見る柵の中には10匹ほどの羊が草を食んでいる。

今はほとんど空になっている第二格納庫におしこむ予定だ。

木製チップで作った小さな牧場が準備されているのだ。

人工太陽灯で順調に芝と背の低い草が生やしてあるので、主食はそれになる。

羊毛とミルクを一定量供出してもらう予定だ。

かわいい小さな牧場が出来上がりである。

機械式の水飲み場もあるので、そこの管理はアイカのコピー達ミニアイカがする。

アイカは母船とダイレクトの回線をすべて切り、単独で今動いているが明らかに効率が悪く、一人では無理がある。

そこで、自分のコードをコピーして、簡易人格を付与した下位のAIを量産した。

義体も小さいもので済まし、万が一船体側から仕込まれてもその下位の義体で捕らえられるだろうとの作戦だ。

小さな愛らしいアイカのコピー義体もジュノとヴェスタに人気だ。

中身のないただの人形みたいなものを二人とも欲しがったので作ってあげると、アイカをかまう時間が少し減り、仕事が捗りアイカも助かった。

ただし人形をかわいがる二人を見て、ちょっと淋しそうな目で見てしまうのも仕方ないのだった。

羊は大きめのメスだけ選別して4頭だけ船に積んだ。

残りはジュノの強い希望で食料となった。

大半は死体をマインビームで分解してストレージに仕舞い、一部の子羊が今夜のご飯になるべく精肉された。

ジュノの手際は恐ろしくよく、あっという間にラム肉が十分な量準備された。

「今夜はジンギスカンよ!」

「なにそれ?」

「うちの地元の焼肉だよ!」

ジュノにまかせておけばいいなとヴェスタは思考を辞めた。

ヴェスタはちらりと草原を見やり思う。

(あの夜‥‥初めてジュノの裸を抱いたんだった‥‥幸せだな‥‥)

特に性的な包容ではないのだが、ジュノを抱きしめると幸せを感じるヴェスタ。

ヴェスタは奪われる包容しか経験したことがなく、温度をただ与えるあの包容を幸せと定義した。

今も時々ジュノともアイカとも肌を合せて眠るのだが、とても心地よいなとヴェスタは思う。

その心地よい世界の始まりがここにあったのだと、しみじみあの夜を思った。

遭難した心細さもジュノの温度と匂いに包まれてうすれたのだった。




わずか2時間ほどで欲しいものを回収して、飛び立ち来たルートを戻る途中。

思い立ったジュノから提案。

「あの‥‥深くなっているところ‥‥ひと当りしてみない?パッシブだけでいいから」

それはあの恐ろしい触手達が出てくる小さな海溝のような地形。

拠点の沖合の海がえらく深いなと見えたのは、その溝のような地形のせいだと調べてあった。

「おそらく‥‥巨大な捕食者がいるはず」

ジュノの説明にヴェスタはこくりとつばを飲み込む。

「そっとしておいた方が‥‥よくないかな?」

ヴェスタは消極的。

「よほどの事が無ければここには戻らないでしょうから、再出発後にアクティブをぶち込みましょう‥‥今はまだ刺激しないほうがいいです」

アイカの意見に二人も同意して、いったん元の拠点に着陸。

「今夜もアイドリングですごして、明日の朝撤収します」

ヴェスタの宣言に二人とも同意。

「では撤収シークエンス発動です、晩御飯までに終わらそう!」

『はーい!』

ちょっと柔らかすぎる返答だがヴェスタもにっこり笑った。

ジュノもアイカもヴェスタの笑顔ににっこり笑い返した。


主に資材を回収するため保護スーツの超人的力も活用。

海水の入っていたタンクは空にして積み、純水だけ満水のタンクを積み込む。

浄水器などの施設も可能な限り積み込む。

精錬用の炉もほとんどそのまま分解せず積み込んだ。

みなで使っていた家具は、テーブルセットを除いて分解して資材に。

簡単に作り直せるものはあきらめた。

テーブルと椅子には、ちょっと思い出成分が多いので持っていくことにする。

ベッドや浴槽はあきらめて分解だ。

そうして積んでいくと第二格納庫は満載になった。

「おーらい!おーらい!」

ジュノの誘導で、水上機を走らせるヴェスタ。

翼を畳んで横幅が小さくなったので、ぎりぎり第一格納庫に入る計算なのだ。

マーシャリングワンドで丁寧に誘導するジュノに続き、ランディングギアのタイヤだけで走行する。

船体下部のハッチスロープまで来ると、アイカが引いてきたワイヤが機首下にフックされる。

アイカの義体もパワーアップしていて、保護スーツの二人ほどではないが、生身のジュノよりも力持ちだ。

「牽引索セット完了です!」

アイカの声でくんと引かれる感触がヴェスタの操縦桿にもくる。

格納庫の奥に大型のウインチがあり、スロープを上るのに十分なトルクで引かれていく。

そうやって水上機も積み込んだら、撤収準備もおしまいだった。

防護壁や建物はそのままなので、抜け殻になった感じがとても寂しいなとヴェスタは感じる。

わずか一月程度だったが、ここは確かに三人のホームだったのだ。




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