【第44話:こころをそえて】
「ねーぇ‥そろそろ交代してよぉ‥‥」
「えぇ‥もうちょっと‥‥」
ヴェスタがアイカを抱えるジュノに代われという。
アイカを前抱っこして、よしよしと可愛がるジュノ。
ここのお風呂はそもそも三人一緒に入れるようにと設計したので、お湯をしっかり張ると三人でも余裕がある。
「ずるいよジュノ、もうずっとアイカを抱っこしてるわ‥‥私も抱っこしたい」
「うん‥‥じゃあちょっとだけね」
アイカを受け取ってむぎゅっと胸に抱くヴェスタ。
「なんでちょっとなのよぉ‥‥」
そういいながらもニコニコでチャポンとまた浸かるヴェスタ。
アイカはまだデバイスチェックをしていて、動けないようだ。
すりすりと頬ずりするヴェスタ。
くんかくんかと匂いも確認している。
「あぁ‥‥アイカの匂いだ‥‥安心するなぁおうちに帰ってきたってなる」
「アイカってちょっと甘酸っぱいよね」
「うんうん!」
くすくすと話しているとアイカが復帰してじろっと半眼になりヴェスタとジュノを見る。
「動いてませんでしたが、ちゃんと見えてて聞こえてますよ!ひどいです二人ともアイカをぬいぐるみのようにして~」
ぐいっとヴェスタのホールドから逃げ出すアイカ。
「あぁんまだちょっとしか抱っこしてないよぉ」
「もう時間切れです!」
真っ赤になったアイカが二人に背中を向ける。
「ごめんてえ、アイカかわいいんだもん」
よしよしと頭をなでるジュノ。
「‥‥つぎの義体に更新したら大きくなってジュノを抱っこします」
じろっとジュノを見返すアイカ。
ジュノは淋しそうに眉をさげる。
「えぇ‥なんかそれいやだな」
「私も‥‥アイカは妹みたいに思うんだもの‥‥」
ヴェスタもこまり眉になった。
アイカはちょっと考えて答えた。
「じゃあ‥‥二人よりちょっとだけ小さくしようかな?」
にこにこで、うんうんうんとうなずく二人だった。
「しょうがないので‥‥そうしますよ!」
頬をそめたアイカも満更でもないのだった。
「結論は真っ黒です‥‥心拍や血圧などのバイタルを指標にする、いわゆる感情判定ですね。そこから妨害ルーチンが組まれてました。巧妙なのが、状態を学習する仕組みもついているのです。それらが状況に応じた妨害をしていました。」
「どゆこと?」
アイカの説明にジュノの質問。
「簡単に言ってしまえば‥‥AIが仕込まれていました‥‥」
不本意そうに告げるアイカ。
「‥‥むむ」
考え込むジュノを、アイカが心配そうに見る。
「アイカのことは信じてるよ‥‥」
肩に手を置くヴェスタ。
ほっとした顔で、とんとおでこをヴェスタにつけるアイカ。
ちょっとうれしそうにしている。
顔を上げて二人に告げる。
「すでに取り除きましたし、同様の動作をしていないかチェックする項目を足しましたので、安心してください」
そこで二人はデバイスを立ち上げる。
「あそっか‥‥いまはアイカも声帯で話しているのね?」
ヴェスタが聞く。
「はい、前もそうでしたよ?近くに居る時は」
にっこり笑うアイカ。
「気持ち悪いかもしれないけど‥‥どうかな?アイカは変化ない?接続切ってみて」
ヴェスタが尋ねる。
「そうですね‥‥二人のデバイスを最後にわたしがチェックしたのは出港前でした。仕込み方をみるとツギハギだったので、メンテの度に忍ばせたのでしょう。航海中にやたらメンテあたりましたよね?」
「あったあった、毎日有った日も何度かあったね」
ジュノがアイカにくっつきながら答えた。
仲間外れをかんじたのだろうか、くっつくとにこにこだ。
結果、広い湯船の中央に3人が集まる状態。
「わたしも再起動したので、不審なモノはチェックして取り除いてあります‥‥気になってさっきログをチェックして驚いたのです‥‥」
アイカは不安そうにする。
「2人のデバイスに入れられたものと似た仕組みをいくつか削除しているのです‥‥恐ろしいことに削除の記録にまで細工してありました。普通のバグっぽく消されるウイルス‥‥」
キリっと表情を引き締めるアイカ。
「アイカは危機管理を一段階上げました!」
ふむっと気合の入るアイカ。
ふんふんと聞いていた2人はぱちぱちと拍手。
「‥‥調べなきゃいけないことが多すぎる‥‥何から手を付けよう」
「できることも増えているのです!」
「あぁアルミがあるしね‥‥ちなみに船は動かせるの?」
アイカとヴェスタが顔を見合わせた。
アイカから先に報告。
「船体のジェネレータープールは48%まで戻しています‥‥」
「なるほど‥‥じゃああとは信頼できるかどうかね‥‥移動できたら一気に色々片付く」
ジュノの意見。
「ちなみに、船体のメインフレームから調べるとしたら?どれくらいかかるの三人で」
アイカが試算する。
「お二人を私と同じ技量で計算したら‥12800時間くらいですね!あ、もちろん24時間体制です!」
「。。」
「・・」
ジュノとヴェスタが目を点にする。
「アイカ‥‥まず私もジュノも、あなたの半分も技量はないわ‥‥あと人間は24時間働けないのよ‥‥」
アイカがまた考える。
複雑なプロセスを経て答えをだす。
「アイカ一人なら‥‥10年くらいかかりましゅ‥‥」
本来この規模のものを総ざらいするなどあり得ないし、あってもAIを30-40人+専門家の人間数人とかのチームで当たるだろう。
ジュノの発想転換。
「でも逆に仕掛けようとしてもそんなに広範囲には出来ない‥‥私ならクリティカルなところに絞る」
ジュノの意見にアイカもヴェスタも顔をあげる。
「そうか‥目的から推察する‥‥‥‥敵は私達を殺す気がない‥殺したくない?」
「‥‥事例をみればそうです!」
アイカが乗り気になる。
「ということは操縦系と生命維持系に致命的なことはしない‥‥」
ジュノが直感で言う。
「ちがうよ‥‥最も効率よくいじれるのは‥‥‥‥アイカだ」
はっと二人がジュノを見る。
「だから‥‥リブートした今がチャンスなのよ!」
ジュノの明るい声。
「そうか‥‥どう考えてもそれが効率よく、間違いがない‥‥」
ヴェスタも肯定に傾く。
「だから慎重にわたしに仕組んだ‥‥異常に丁寧に仕組んであった‥‥」
アイカが泣きそうになる。
ぎゅっと左右からジュノとヴェスタが抱きしめる。
「アイカを守りたい」
ジュノがささやく。
「そうよ‥‥大切なアイカを好きにはさせない」
ヴェスタもアイカにぐりぐりしながら守ろうとする。
「わ‥‥わたしのせいで‥‥」
『ちがう!!』
アイカを二人が声を揃えて否定する。
ジュノの声は湿ってしまった。
「‥‥ここからだよ」
ヴェスタも目は潤んだが声に力を込めた。
「そうだわ‥‥やられっぱなしじゃない‥‥アイカあなたの力が必要よ!」
アイカはついに泣き出してしまう。
「クスン‥‥ありがどうぅ‥‥ふえぇぇ」
ぽろぽろと泣きながらも笑顔になるアイカ。
それは義体の年齢に影響を受けたとかではなく、確かにアイカの心がふるえて流れた涙だった。
二人の愛に触れて。
>>Core Directive Registered:
「Šī balss nekad nepazudīs.」
「Arī šī sirds nekad nepazudīs.」
(わたしの‥‥こころをそえて‥‥)
不思議なコードがアイカの中に流れていった。
それはアイカのしらない言語なのだが、どこか懐かしい響きをもって心に響くのだった。
アイカは声をあげてわんわんと泣いた。
二人が微笑みながら、いつまででも抱いてくれたから。




