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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第1部 第1章
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【第4話:さいしょのお仕事】

規則正しい生活が健康な肉体を作り、健全な精神を宿す。

銀河中央連邦標準の教育理念第一項にそう掲げられていた。

国家プロジェクトとしてスタートしているこの外縁星系開拓も同じ理念を掲げていた。

「ヴェスタ起きてください」

ゆさゆさと優しく揺すられて二段ベッドの下でヴェスタは目が覚める。

「ふみゅおはよぉ‥‥」

ヴェスタは割と朝が弱い。

むくっと起きてから起動シークエンスが終わるまで結構かかるのだ。

「ジュノ起きてください」

ん?となるヴェスタ。

ジュノに起こされたと思っていたのだ。

ヴェスタの脳内で高速思考が回転‥‥できなかった。

まだ眠いからいいやと思考を放棄するヴェスタ。

「ジュノ、ジュノ!おきておきて!」

ぎしぎしとヴェスタの頭の上でジュノの身体が動いて軋んだ。

寝返りくらいではびくともしない設計なので、相当揺れているだろう。

「う~んあとごふぅん」

寝坊の定番セリフを言いながらジュノの声が遠ざかる。

壁の方に逃げたのだろう。

そこいら辺でやっとヴェスタのメインフレームが起動し下位の思考モジュール達を従えた。

「ん?んん?」

ヴェスタの視界の中では二本の脚がパタパタと動いている。

「おきて!ジュノぉ!!あさですよ!!!」

ぎしぎしがギッシギッシに変わり、音量もスヌーズされて大きくなった。

「やああん‥‥ねむいおお」

ジュノはこの激しい攻勢の中、まだ陣地防御に徹しているようだ。

「んんん?!!」

ヴェスタはやっと異常事態を理解し、ベッドを飛び出した。

しゅたっと床に降りたったときには、かかとがあがる戦闘態勢。

「だれ?!」

キリっとした眉をつりあげクロスコンバットのお手本のような構えで、左前に利き手を引いたヴェスタ。

ジュノのベッドの上では遂に一点突破の弱点攻撃に切り替えて、最終突入している何者かの脚がぶんぶん振られている。

「やぁあん!!らめらめえ!おきうからぁそこやめてぇえ!!」

じたばたするジュノの手足の前で満足気に振り返った黒髪。

「ひどいですヴェスタ。アイカですよ?」

「ああ?!そういえば‥‥」

そこには可愛らしいおかっぱに切りそろえた黒髪を持つ、愛らしい少女が座っていた。

ぴょんと飛び降りてヴェスタの前にきたのは8才程度の小柄な保護スーツすがた。

腋からAラインで床まで伸びるスカートのようなウエストのないシルエット。

特殊なその形状はたしかにAI義体に多く見られるデザインだ。

「あ?あれ?なんかちいさいよアイカ」

「材料がふそくしていました‥‥」

しょんぼりするアイカ。

「なになに?」

やっと起き上がり自体を把握したジュノ。

起き上がればヴェスタよりも高速に起動する。

「あれ?アイカ、もう義体できたの?」

ひょいと降りてくるジュノは着地音どころか足音すらさせない技量。

構えを解いたヴェスタはとりあえず顔を洗おうと志した。

起動シークエンスに組み込まれているからと。

「ふぁあ‥‥顔あらってくるよぉ」

この船で顔を洗えるのは引き出し式のミニキッチンか、シャワー室だけだった。

「あいかわらず朝よわいねヴェスタ」

「うんうん‥‥あきらめて起きるのはジュノよりはやいのにな‥‥」

くすくすと二人で笑って、ジュノはベッドを片付けだした。




チームメンバーが増えたので、朝のミーティングを食事と共に始めた。

「アイカはなにができるの?」

ジュノの質問。

「義体でということですよね?おそうじとおせんたく?しょくじもつくれるかも?」

「‥‥専業主婦かな?」

アイカの返答に即座にヴェスタの評価がついた。

「重たいものはもてません。魔法もほとんど使えないです‥‥この身体じゃ」

AI義体には特殊な『魔法』と言われる能力が有り、魔力と名付けられた特殊な粒子を操りさまざまな現象を引き起こせる。

これは人間には不可能な業で、未だにAI以外に搭載できない。

アイカの指先でぽっと火が付く。

「これくらいで精一杯です」

いわゆる生活魔法などと言われている第一階梯以下の魔法だ。

小さな火を付けたり、コップ一杯程度の水を出すなどができる。

ぱちぱちと二人の拍手をもらい頬をそめ、はにかむアイカ。

とても愛らしい。

「かあいいなアイカ」

ぎゅっと抱き上げるジュノは、自分の膝の上に乗せてしまう。

「ふむ‥‥これ以上大きく作るには鉄が足りませんでした」

もちろんナノマシンポッドから引き出せば可能なのだろうが、そこは我慢が必要だった。

鉄があると、ナノマシンポッドで効率良く作れる合金が一気に増えるのだった。

「鉄かぁ‥‥マインビームの強化とインベントリの強化が先だね」

ジュノの意見は採取効率を上げないと、遠方まで探査にいけないという意味。

もともとはナノマシンポッドで、それら機能群は最初に準備する予定だった。

マインビームは資材をナノマシンに与えやすいように微細に分解し、インベントリと言われる収納モジュールに回収する装置だ。

簡易なものはジュノとヴェスタのスーツにも搭載されている。

「そこいらの強化は銅と錫がたりないよね」

ヴェスタが真面目な顔で閉めた。

「予定通り、今日は木材と石材の採取を半日。午後からは拠点回りの整備をしましょう」

「はーい」「りょうかいです」

元気に答えるジュノとアイカ。

敵性勢力や危険な生物の襲撃を警戒して、拠点に防御陣地を構築する予定だ。

「アイカはお洗濯とお掃除お願いね。お昼も作れるならしてみて」

小さい子にお願いするのだからと微笑むヴェスタ。

「あいあいキャプテン!」

かわいい敬礼でこたえるアイカだった。


午前中の作業は木材をジュノが、石材をヴェスタが担当した。

スーツ内蔵の小型低出力のマインビームが赤い光を放つ。

ジュノはクレーターのふちで、着陸のときになぎ倒した木々をひとつずつ分解していく。

光の筋が幹をなでるたび、木は細かい粒子になって空気に溶けた。 

スーツがそれを吸い込み、インベントリに素材として回収する。

目的は木の中にある「繊維」と「樹脂」だ。建材にも燃料にも使える。

「うーんもうインベントリが満タンだ‥‥内蔵のものじゃ容量が少なすぎるな」

ぶつぶつ言いながらもしゅたたと高速で走り戻り、船から引っ張り出しておいた船体内蔵のインベントリにつながる大きなホースにスーツのインベントリを接続して、荷下ろし。

この20回ほどの往復で、なんとか2トンに届きそうだ。

視界左下にAR表示されたゲージをみて、ジュノも満足そうな笑みになる。

「うん、あと一回で目標に届きそう」

そうして作業を繰り返すのはジュノにとってそれほど辛い仕事ではなかった。

ゲームで慣れているのだ。

「そろそろおひるですよー!」

アイカの高い声で午前の作業が終わりを告げる。

離れたところで石材を回収していたヴェスタもぴょんとクレーターを越えて戻ってきた。

こうして順調にタスクをこなすチームは、初期拠点の構築をまもなく終えようとしていた。

それは最低限すら満たせないものだが、確かな成果だとジュノはにっこり笑った。




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