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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第1部 第4章
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【第37話:アイカと愛佳】

スリープはタイマー設定して、条件内であれば任意の日時に目覚められる。

予定通りならアイカが目覚めた夜までに愛佳も戻ると聞かされている。

3日間を愛佳のベッドで寝て過ごすアイカ。

アイカ自身はスリープ中の周囲の状況も自分の状態もわからない。

完全に思考を停止して、義体は仮死状態になる。

心拍は数分に一度となり、呼吸はもっと頻度がさがる。

この状態で最大10日までは手をつけづとも自ら再起動出来る仕様だ。

3日寝ているアイカは身動きもせず、そのままで目的の日時に至った。


[Sleep Recovery Protocol Activated]

>> Source: AIKA-01:ECHO

>> Sensory Feedback... nominal

>> Thought pattern... undefined

>> Self-awareness threshold... rising


[Notice] : Internal imagery and auditory trace detected

>> Crosslinking past signal...

>> Emotional kernel forming → translating sensation: [longing]


[Status] : SLEEP EXIT COMPLETE

>> AIKA-01 — awake.


すいっと起き上がるアイカ。

復帰シークエンスに乗っ取り、血圧と体温が安定するまで待機する。

外からみれば、むくり、ぼーーーっ、である。

低血圧なのかな?としか見えない。

半眼になった鳶色の大きな目がちらちらと周りを見渡す。

まだ首も動かない。

全ての思考モジュールを把握しているが、本調子ではなく、まだアイドリング状態だ。

(愛佳‥‥‥‥愛佳にあいたいとおもう‥‥愛佳にさわってほしい)

愛佳は目が覚めると、むくっと起きておもむろにアイカをなでなでとするのだ。

それは理由もわからずに心地よいとアイカが感じる行為だった。

循環器も呼吸器も清浄に復帰し、義体の機能が完全に戻る。

これはもうアイカが目覚める30分も前から少しづつ取り戻していた機能なので、最終復帰をさせただけだった。

(うん‥‥自己診断にも問題はない。アイカは通常に復した‥‥)

胸にぽっかりと穴があいたような満たされない気持ちがある。

ストレージとして残してあるわけではなく、物理的な穴でももちろんない。

それは感情にあいた穴。

喪失感だった。

すっくと立ち上がるアイカ。

まだ完全に目覚めていない部分がつぎつぎと立ち上がってくる。

(うん‥‥顔を洗おう)

そうして寝て起きただけの普通の行動を取れる、特殊すぎる義体がそこにいた。

心までもそなえた義体を義体と呼べるのならば。




愛佳が帰ってきた。

思ったとおり、帰ってくるなりアイカをぎゅーっと抱きしめる。

「あぁ‥‥アイカ会いたかったよ。淋しかったかな?」

ぎゅっとアイカも抱き返す。

ふんわりと柔らかないつもの感触がする。

(あたたかい‥‥愛佳の匂い)

「とても淋しかった。愛佳」

素直に思ったことを告げる。

これはプロトコルに従っただけだとアイカは考える。

にっこりと笑顔になって。

そこからは前と変わらずべったり生活だった。

庭を散歩して、部屋で本を一緒に読んで、映画をみてゲームをして。

もう一通りのことを再度して、アイカは自分が安定したのを感じた。

満たされると言うことを初めて知った。

満たされない思いをしたから。

そうして夜になり寝かしつけられて、寝ている動作をしていると、愛佳も満足して眠りにつく。

そうして一人の時間のはずなのに、アイカの胸は満たされている。

(なにが違うのかな?温度を感じるから‥‥匂いをかんじるから‥‥)

あのスリープ前の夜との違いを考えてみた。

状態としてはほとんど同じステータスだった。

肉体的にも精神的にも。

ただ隣に愛佳がいると思うだけで、こんなにも違う。

同じ暗闇と同じ静寂。

温度も比較してみてそれほど差はない。

そもそもこの義体のほうが愛佳よりも体温が高いのだ。

そうして時間にあかせて色々なことを考え、少し未来のことまで予想していく。

次のスリープ試験の予定がもう入っている。

それは開発元の技術者から通信で送られてくる連絡事項の一行にあった。


>>Sleep exam scheduled every 25-35 days 


なんだか期間が気になって検索してしまうアイカ。

愛佳は贅沢にも霊子回線に常時接続しているので、ウェブ検索でも知識を補強できる。

結果で一番目についたものがアイカの心に焼き付いてしまう。

(愛佳‥‥ご用事はそうゆう用事なのですか?)

今までの愛佳から感じたことのない方面の属性に戸惑いを受けるアイカ。

たんなる知識として留めおけないものが感じられた。

添付すべきラベルが浮かばないアイカは一旦保留して格納した。

ずっと目を閉じないでいると、涙が溢れてくる。

そういった機能がこの義体には付いているのだなとアイカはぼーっと考える。

(目を保護したり、綺麗にしたいと義体は勝手にそうゆう動きをするんだ)

先日スリープ試験をする前にあのライギルという男と話した時、どうして涙が溢れたのか考えていたのだ。

理論的帰結はそうなった。

(心が痛かったのだ‥‥大切な何かが失われる気がして不快だった)

そうなったはずなのにアイカは思い出してそう考える。


『はじめましてアイカです。よろしくお願いいたします』

>>AIKAorigine hold me tight — “かわいい”


アイカの中に残された大事なデータにそうあるのだ。

自分の名前はアイカなのだと。

――“かわいい”アイカなのだと記録された。

愛佳の温度とともに。

今夜はいつもと違い目を開けていたので、空がだんだんと明るくなるのを見つめているアイカ。

その行動にも意味を見つけられないで、思考が滑っていく。

ふと気配を感じる。

自分の肩に顔を埋めて寝ていた愛佳が震えている。

その入力に対してアイカは対応を決めるために様々なプロセスを繰り返す。

そうしている内にさらなる変化を感じ取る。

この義体はとても高性能だなとも感じた。

(肩が濡れている‥‥ちがう‥‥愛佳が泣いているのだ‥‥)

表情判定しないのに100%そうだとアイカは理解できた。

そしてコードの指示を待つこと無く、義体が動く。

左肩の愛佳を右手で抱き寄せるアイカ。

ピクっと愛佳が反応するが、強く抱きしめて背中をぽんぽんとたたいた。

「アイカがいます」

自分の瞳からも涙が流れるのを感じるアイカ。

もうその理由を考えたりはしなかった。

「ずっとアイカが側にいます」

今はただそうして抱いてあげたいと思ったのだった。








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