【第33話:優先すべきこと】
ちちち
ちゅんちゅん
この星の天候なのか、この地域の特色なのか、朝起きるとたいてい天気が良い。
雨だった日は今のところ一日しか無かった。
(霧が濃かった日はなんかいかあったなぁ‥‥)
まぁどうでもいいや、と幸せなベッドの中に意識をもどすヴェスタ。
ヴェスタは元々この時間が結構好きだ。
睡眠と覚醒の合間のあわい時間。
そして今朝は考えられる中では、ほぼベストな幸せに包まれているのだ。
あたたかな寝床、静かな朝の気配。
ぬくぬくの温度と、やわらかな甘い匂い。
(はぁ‥‥すべすべしてるよ‥‥どうしてジュノはこんなにすべすべしてるのだろう)
にこにこしながら撫で回し、ジュノの琥珀のきめ細かな肌を味わう。
色々な部分のすべすべを堪能する。
ここも、ここだって、いやこちらこそ、と体中のすべすべ具合を比べてにんまりするヴェスタ。
(やはり‥‥背中が最高のすべすべだわ、すべすべランキング一位だわ)
そうして両手ともに背中にまわりなでなでとしていた。
「んぅん‥‥」
ジュノがもぞもぞと動いて仰向けになった。
背中を撫でられるのを嫌がっている様子。
(むぅランキング一位が‥‥仕方ない二位の太ももでがまんしよう)
ヴェスタがもぞもぞ動くと二人で暖めてきた甘い空気がむわんと顔の前に来る。
「すぅぅぅ‥‥‥‥‥‥はぁぁぁぁああ!」
とんでもなくいい匂いだった。
うっとりしたヴェスタは感謝を伝えたくて、ついジュノをむぎゅうと抱いてしまう。
「あぁじゅのぉ‥‥あいしてるわぁ」
頬と両手をぐりぐりと押し付け、ジュノの柔らかな温かさを味わい尽くすヴェスタ。
ここも、こここそ、いややはりこっちだろう、むにむにもにゅもにゅとあちこちをへこませて柔らかさを比べるヴェスタ。
ぐへへと、もう犯罪者のような顔になってきていた。
「やぁん‥やめてえぇ‥‥」
ぐりんと背中がこちらに向いた。
柔らかい所を隠すようにジュノが丸まってしまった。
このベッドはとても狭いので、背中に押し出されたヴェスタが、重心限界を越えて傾いていく。
(ん‥‥せかいがかたむいていくわぁ‥‥)
びたん
「あうぅ!‥いたいよぉ‥‥クスン」
おしりから落ちたヴェスタがびっくりして強制起動した。
「んと?‥‥ひどいよ?ジュノ」
自分のしていたことは全てアーカイブにしまって無かったことにするヴェスタ。
たいした高さではないが、冷たく硬い床に落とされてショックを受ける。
まるでジュノに拒絶されて目覚めた気分だった。
「ふぇぇぇ‥‥クスン‥‥じゅのぉぉ‥‥」
ヴェスタが泣き出してしまったので、ジュノも目が覚める。
「ん?どうしたのヴェスタ‥‥おいでそこは寒いよ」
そういってジュノもちょっとねぼけたまま、自分で追い出しておいて温かな寝具を開き、魅惑の香りと温度でヴェスタを誘った。
「じゅのぉ!」
ぴょんと機敏にベッドにもどり温かい温度につつまれるヴェスタ。
さっきまで冷たくひえひえですべすべだけど硬い床から、天国にもどったヴェスタ。
「もぅ、落ちちゃったの?ヴェスタ‥‥寝相わるいのかな?」
そういってにこにこしながらヴェスタのやわらかな金髪を梳くようになでるジュノ。
自業自得でもあるのだが、結果だけ見るとマッチポンプのように、温度差の暴力で殴ったジュノ。
うっとりした笑みで胸にぐりぐりすがるヴェスタを愛おしげに撫で続けるのだった。
いつまででもそうしてイチャイチャしていたかったが、色々とやることを思い出した二人はキリっとした顔になり、テキパキ朝のルーティンをこなす。
そうして作業小屋のテーブルセットに集合して朝ごはんとミーティングを並行して続ける。
「了解‥‥じゃあわたしは一時間程度で回ってもどるね」
ジュノには周囲偵察をたのんだ。
テーブルの上に縮小表示した立体マップに索敵範囲とルートが表示されている。
二人で意見を出し合ってつんつんしあって作成した。
昨日は帰還が夕方近かったし、もういいやと全てなげうって欲望にしたがった。
お陰様で二人の幸せゲージはマックスまで回復したのだが、色々と今回の旅で学んできた二人は今するべきことをリストにしていった。
周囲偵察、監視装置の充実。
これらは何度か受けた襲撃が、今後も無いとは言い切れないからと二人とも同意見。
「うん、気を付けて‥‥、私は監視カメラの再設置と、簡易センサーの生産をするね」
簡易センサーは動体、熱源に反応する無指向性センサーで動くものと温度の変化を捉える。
周囲4mくらいと感知範囲は狭いが、わりと単純な構造でコストも低いので量産可能だ。
これらを視界の効きにくい西側を中心にばらまくのだ。
「さっき試算したら一時間で50コくらい作れると思う。ジュノが戻ったら一緒に設置しよう」
「りょうかい」
「‥‥そして、午後一番に‥‥やろう」
「わかった‥‥」
決意の眼差しで頷きあう二人。
もう一人の仲間を助けに行かなくてはいけないのだ。
じゃまされず集中して引き込もれる体制を構築する。
おそらく数時間の作業で、一人は少なくとも身動きできない。
そのためのリストアップだ。
幸い二人いるので、効率は悪くないのだった。
周囲偵察も帰還後の片付けにしても、保護スーツを遠慮なく使えるありがたさを実感するジュノ。
しゅんっとジャンプして外輪山に登り、視界の悪い西側の森をメインに偵察する。
いちおうライフルも手に持った状態で駆け抜ける。
(‥‥アイカ‥‥ごめんね‥‥わたしのせいだ‥‥)
ジュノはもう一人の仲間を思う。
最後に会話していたのは自分だし、おそらく機能停止させたのも自分の質問のせいだと、責任を感じるのだった。
それでもと任務に集中するジュノ。
もううっかりや、不十分で後悔するのは嫌だと強く思った。
ここの森は植生が強く、視界が悪いのでカメラなどで遠隔監視が難しい。
ちゃんとした警戒網をと思ったらキリが無くなる。
10や20のカメラを設置しても監視できる範囲は限られたものになる。
早期発見が可能な範囲となると、コスト的に現実味がない。
それなら定期偵察したほうがいいとなるのだ。
二人しか居ない実働部隊を一人割くのは辛いので、そのための改善だ。
(うん‥‥このあたりで良いね)
拠点からの距離をみて、比較的に開けた場所をマップ内にチェックしていく。
つんつんしながらも足は止めないジュノは、効率よく予定の範囲を索敵していった。
昨夜戻って最初にアイカを確認した。
本船のコパイ席にちゃんとベルトまでして、眠るように停止しているアイカ。
仮死状態になり義体の心拍も血圧も最低限に絞られていた。
義体そのものは生体パーツでほとんど構成されており、見た目も中身も人間と同じだ。
維持にはもちろん生きるための全てが要求される。
呼吸、睡眠、食事、そして排泄もする。
小さなアイカをお風呂に運んで綺麗にしてあげた。
新しい保護膜を出し直せば衣服は新品になる。
そっとアイカのために準備した個室のベッドに寝かせて、自分たちもお風呂としたのだ。
前述の理由でアイカを再起動する時間を安全にする作業がまず必要と二人の意見は一致して、そのためにもいちゃいちゃして回復しなければとなったのだ。
決して邪な理由では‥‥邪な理由だけではなかった。
「アイカ‥‥すぐ迎えに行くよ」
そっと抱き上げてアイカを運ぶヴェスタ。
本船の操縦室が一番制御装置とのアクセスがいいので、そこでしようと決めていた。
アイカのAIとしての本体は母船『スパイラクアーク』の主制御装置の中にあるのだ。
ヴェスタの抱いた義体はあくまでアイカの操作するデバイスだった。
シートにベルトで固定してから、黒髪をさっさと撫でて整えるヴェスタ。
無表情に眠る冷たい表情は、ヴェスタの胸を苦しくする。
頭ではその仕組は解っているが、二人にとってのアイカはこの義体なのだった。
そっと抱きしめてから離れるヴェスタ。
「もうちょっとだけ待っててね‥‥」
ジュノがそろそろ戻るので、お昼までにすることは沢山あった。
それは気持ちを誤魔化すには丁度よい忙しさだった。




