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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第1部 第3章
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【第31話:おもいやりを受け取る】

温泉の周りだけ死体を外まで運んで片付けた。

もう一度入浴したいからと、視界に入るものだけでもと運搬したのだ。

山犬や狼など大型の肉食獣もいるので、そう遠からず片付けてはくれるだろう。

もう一度周囲を偵察してきて、ぺたんと座っているヴェスタを誘い温泉に入った。

「ヴェスタ‥‥しかたないよ‥‥わたし達だって無事では居られない状態だったの」

ジュノも気持ち悪いのだが、それ以上にヴェスタはショックを受けていた。

「うん‥‥ごめん大丈夫だよ」

しばらく漬かって温まるとヴェスタの顔色も良くなり安心するジュノ。

最初の日は倒れて嘔吐したヴェスタも、顔色が悪いで済んでいる。

これは慣れたのか、ただ麻痺しているだけなのかジュノにも判断がつかなかった。

十分に温まると、上がり身支度をした。

ジュノはヴェスタを抱えあげる。

お姫さま抱っこだ。

「なぁに?」

ぱちくりするヴェスタ。

「ふふ、お姫様‥‥目を閉じて」

「うん‥‥」

戸惑いながらも目を閉じるヴェスタ。

すうっとローラーダッシュですすむジュノが、ぴょんと飛び跳ねる。

「わわ?!」

飛んだのが重力の変化でわかったヴェスタ。

三回ほどジュノがジャンプしてから言う。

「もういいよー」

「うん‥‥なあに?ジュノ」

すとっと下ろされたヴェスタは、きょろきょろと周囲を見た。

「うん‥‥見なくて良いもの見せたくなかったの」

やっとジュノの意図がわかるヴェスタ。

死体の無い所まで運んでくれたのだった。

「じゅのぉ‥‥ありがとう」

ふわっと抱きつくヴェスタの背ををぽんぽんとたたいてあげるジュノ。

「いいんだよ‥‥慣れればいいというものじゃないしね‥‥あの醜い部分をヴェスタにみせたくないんだ!」

あははっとジュノが笑い先立って、拠点帰還への道を進んでいった。

ふたりはわざと楽しそうに帰る。

鼻歌から合唱になり、ハモリまで入れて歌は途切れなかった。

なんでもない民謡だったり、流行りの歌だったり。

二人がどちらも知っていれば何でも良かったし、上手じゃなくても間違ってもいいのだった。

ただ二人で楽しく歩いて帰ったという実績が必要だった。

ジュノをしても精神を削るような戦闘だったのだ。

ヴェスタを思えばなんとか紛らわしたいと、ジュノは必死だった。

夕方のスコールを二人で崖のくぼみに寄り添ってやり過ごし、一度キスをした。

激しい雨音の世界に、二人だけで取り残されたようで、不安になり相手を求めたのだった。

ただ手を繋いで、肩を寄せ、互いの腰を抱き合って見つめた。

目を閉じて舌も絡めないキスだったが、とても長い時間をそのまま過ごした。

ばらばらと騒がしい雨音が高まった動悸の音を遠ざけて、じっとしていた。

ジュノはヴェスタの匂いと味を覚えて、ヴェスタも同じ記憶を持った。

火山の頂上を越えた所で日没となった。

外輪山に腰掛けてしばらくその美しさに魅入った。

腕を組んだジュノの肩に頭をこてんとしてヴェスタも微笑んでいる。

「すごい夕日‥‥」

「うん‥綺麗だね」

温泉にも入ってさっぱりした二人は、できるだけ汗をかかないようにゆっくり歩いて、使えるところはローラーで進んだ。

予定より大分遅くなったが、移動を楽しんだ気持ちになった。

「ジュノ‥‥大好き‥‥」

ヴェスタが小さくささやいた。

「うん、わたしも大好きヴェスタ」

ジュノもできるだけ優しい声をと心がけて微笑んだ。

ぎゅっと少しだけジュノの腕に胸を押し付けるヴェスタは、頬をそめて俯いた。

ジュノはヴェスタの気持ちを考えると心からは笑えなかった。

(はやく‥‥いろんなことが終わって二人でいたいな‥‥)

寂しそうな微笑みはヴェスタに見つからないですむのだった。

随分して夕日がすっかり沈んだ頃そっとヴェスタがささやく。

「ありがとうジュノ‥‥もうへいきだよ」

そう告げるヴェスタの横顔は微笑んでいたが、見下ろすジュノには心からの笑みかどうかは解らなかった。

無限のグラデーションを連ねる夕空を見据えるように月が上る。

白銀の姿に目をやることなく二人はその光を受け取った。

眼の前が暗く沈んでいくのに、後ろに白い明かりが上ってくるのだ。

その不思議にしばらく言葉を無くし座り続けていた。




昨夜も交替で見張りながら、隣りで眠った。

少しゆっくり眠るといいよと横にされて、お腹をぽんぽんされている内にヴェスタはぐっすり眠ってしまった。

ジュノは明け方まで起こさなかったので、訓練していないヴェスタは日が昇るまで寝てしまった。

「‥‥クスン‥‥ごめんねジュノ」

「いいの‥‥わたしは2日くらい起きていられるよ。訓練したもの」

ウソだったが、ヴェスタには解らず、すごーいといわれてにっこり笑うジュノだった。

お昼に仮眠を取るから大丈夫と、その日に作業に入る二人。

スーツもバックパックも風力発電のお陰で余裕があり、作業は順調に捗りお昼にはグライダーがそれなりの姿を表す。

翼長は10mほどになり、全長は5m弱となる。

垂直尾翼の上端に水平尾翼が付き、主翼との位置を調整した。

主翼と胴体の接合部と翼端、尾翼全体にスーツの保護膜が補強する。

胴体は細く、二人の肩幅ギリギリの作りで、後席はうつ伏せに乗り込む。

胴体を可能な限り細く、流線型に仕上げる工夫だ。

お昼には全長と翼幅がわかる所まで組み上がった。

お昼は鹿肉由来の保存食バー。

ジャーキーのような味で意外に美味しかった。

お茶を飲んだら、エアマットの上で横すわりのヴェスタに膝枕されてジュノは仮眠を取る。

一時間で起こしてと言われたが、ヴェスタは優しく髪を撫でながら2時間寝かせた。

脚が痺れてきて、それがジュノに何かをしてあげられていると幸せに感じて起こすのを惜しんだのだ。

本当はそのまま寝かせたかったが、ジュノが起きてしまった。

ちょっと怒られた。

起きているヴェスタは脚が痺れて立てなかったし、ジュノも寝すぎてしまって悔しかったのだ。

戦闘指揮官としては見過ごせないと叱られたヴェスタ。

「ごめんなさい‥‥もうしないです‥‥」

しょんぼりするヴェスタを、ついつい抱きしめて甘やかすジュノだった。

一時間の遅れを取り戻すかのように二人は勤勉に働き、夕方には尾翼を残して主翼と胴体は完成した。


晩御飯は保存食を溶いてシチューにした。

近くで伐採していたヴェスタが根菜類をいくつか採取して、シチューが食べたいと言い出したのだ。

ことことと仕事の間から煮始めて、一時間ほどで仕上がり仕事終わろうとなった。

「いいにおーい!!」

ジュノも久しぶりの真っ当な料理の予感ににっこり。

ヴェスタは心配そうに何度も味見する。

調味料関係はある程度バックパックに残っていたので、味を調整しているのだ。

「うん、これで完成!おいしいといいな‥‥」

そういってカップによそうヴェスタ。

茶色の濃厚なシチューを木で作ったスプーンで食べた。

「おいしい!」

「うん‥‥よかった」

ヴェスタもほっとした雰囲気。

「すごいよヴェスタ。料理できるのね」

「何度か作ったことがある程度の腕よ。アイカには到底およばないわ」

謙遜じゃなくそう思っているヴェスタだった。

今夜は先に寝るから、必ず時間に起こすようきつく言われたヴェスタ。

すやすやと寝ているジュノを少し微笑みながら見つめている。

(ジュノ‥‥寝ているとかわいいわぁ‥‥戦う時はかっこいいのにな)

自分がすっかり頬を染めて恋する少女のように、ジュノを見ていることにヴェスタはまだ気づけないでいた。

ふと、夕方にしたキスをおもいだして真っ赤になるヴェスタ。

唇をそっと触ってみる。

(やわらかい‥‥ジュノの唇もやわらかかったな)

そっと抱き合って唇を重ねていたあの時間にヴェスタはたしかな癒やしと幸せを感じていたのだった。

無自覚に微笑みながら。








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