【第29話:きみがわるい】
「怨恨だとしても唐突すぎるし、利害関係ならこの島にはまだいくらでも土地がある‥‥」
二人の話し合いは続いていた。
すっと双眼鏡を覗いたジュノが答える。
「命はうばわないようね‥‥別のをつれてきたわ‥‥」
「まるで‥‥それが目的みたい?」
「そうとしか見えない‥‥民族的対立なら、そもそもこんな近くに住まない」
歴史の中にそういった民族的対立から女性をあつかう話も学んだことがあった。
子孫を残させない目的らしい。
ジュノの目に怒りが灯る。
「どうしよう‥‥制圧する?」
「今更だし‥かかわらないほうが良いと思う」
ヴェスタは慎重論。
ふと思いつき、続ける。
「あっちの村はどうなっているのかな?今」
「‥‥いいね偵察に行こう」
静かに火口方面に距離を取ってから最初にみた村まで移動する。
本当に近いので、ゆっくり走っても30分かからない距離だった。
ヴェスタは呼気が乱れ膝に手を付いた。
「はぁ‥はぁ‥はぁ‥はぁ‥」
「ヴェスタは少しここにいて。降りてみてくる。すぐもどるよ」
ジュノは軽く汗が滲んだ程度で呼吸にも乱れが少ない。
「はぁ‥はぁ‥うん‥」
ヴェスタは鍛え方が足りなかったなと反省。
ぽとぽとと汗が地面に落ちていく。
実際にはジュノが少しおかしいのだが、ヴェスタにはわからない。
宣言通り直ぐに戻ったジュノ。
「ただ寝ているだけか、ちょっと判断に迷うんだけど‥‥1軒くらい中もみたいね。動ける?南側にいい感じの家があって、人もいる」
ジュノのスコープは霊子波も見るので、この程度の壁なら透過して生物の輪郭ぐらいわかる。
「そうしよう。気づかれないのが最低限の条件よ」
「おけえ‥‥じゃあヴェスタはおるすばんね!」
うんうんと頷いてふたりは移動を開始した。
村の周りを半周して南側に突出した家にきた。
少し周りから離れていて、小さいので探索しやすそう。
「ジュノ‥‥身の危険を感じたら迷わないで」
ヴェスタは心配そうにポンチョの裾を掴んだ。
「もちろん、短剣も有るから、大丈夫」
ポンと腰の後ろを叩いたジュノは音もなくするりと裏口に向かった。
ヴェスタは万一を考えて村との接続道を監視した。
それほど時間をかけずにジュノが戻る。
うなずいて裾を引くので、二人で森の奥に移動した。
村から離れる方向だ。
「失神していた‥‥3人以上でかかった雰囲気と痕跡。もしかしたらそれ以上かも」
ジュノの表情には怒りが濃厚だ。
「私より若い子だった‥‥」
はっとヴェスタも反応してそっとジュノを抱きしめる。
ぽんぽんと背中も叩いてあげるヴェスタ。
「ごめん‥もう大丈夫」
ジュノは深呼吸して総評をまとめる。
「おそらく村中が同じ状態‥‥あちこちの床や玄関にまで寝ている人がいて‥‥全部女性だわ」
ヴェスタもきびしい表情。
「何が‥‥目的なの‥‥」
「わからないけど‥‥より慎重さが求められる。明日は仮拠点をカモフラージュしよう」
そういってヴェスタの裾を引くジュノ。
「かえろう?」
「うん‥」
二人でしょんぼりと仮の拠点にしている中腹の台地をめざした。
歩いたら2時間はかかる距離だった。
ちょっと不穏すぎるので、交替で見張りをする。
時々赤外線と霊子波で周囲を確認する。
全周見てから首に紐でつっているので、双眼鏡をもどす。
テントは貼らず、エアマットを敷いて、毛布に二人でくるまって抱きしめあった。
無性に相手の熱と匂いが欲しかったのだ。
ジュノから見張ることになったので、ヴェスタは遠慮がちにもぴったりくっついて寝た。
胸に抱き寄せて、毛布でくるむと疲れていたのか直ぐに寝てしまうヴェスタ。
さすがにサバイバル生活が長くなり、ヴェスタの体臭も変化してきた。
(たぶん‥‥私も汗臭いよね‥‥はずかしいな)
ヴェスタの汗は嫌な匂いではなく、ジュノをどきどきさせる効果があった。
ふわりとあたたかさは心地いいのだが、すこし野性的な匂いにどきっとする。
(お風呂にはいりたいなぁ)
石鹸で身体を洗い、髪をシャンプーで綺麗にしたい衝動にかられるジュノ。
自分でもわかるくらい汗の匂いがするのだった。
ヴェスタは全く嫌がらず、体中を嗅いでまわり、いい匂いと言ってくれた。
ヴェスタが寝てから、ジュノもちょっと真似をして嗅いでみたが、どこも匂いが強く興奮した。
余計に自分の臭いが強くなった気がして、あせるジュノだった。
一応寝る前に二人でお湯を分け合い身体を拭いたのだが、誤魔化しきれない汚れになってきている。
午前に入った所で交代して、ヴェスタが見張りに付いた。
そっと起こしてもらってから、いつものようにぼーっとしていると「かわいい」といってジュノに抱きつかれた。
自分では自覚はないのだが、とても表情が可愛いと言われた。
(そうなのかな?えへへ‥‥てれちゃうな)
ジュノに可愛いとか綺麗だと言われるととても嬉しいヴェスタ。
ちょっと前からジュノはとても臭いを気にする。
なんども臭くない?と聞いてくるので、臭くなっていそうなところを全部嗅いでいい匂いだよと言ってあげた。
実際ヴェスタは好きな匂いだったので、嘘を付く必要はなかった。
(まあでも、そろそろお風呂が恋しいよね‥‥あちこちべたべたする)
今は保護膜もだしていないので、下着もなくストレートに臭いがするので、ジュノが気にするのもわかるのだ。
(しょうがないのよね‥‥でも早く拠点にもどってジュノをお風呂に入れてあげたいな)
ジュノが気にするからだけではなく、さすがにこれ以上続くと衛生的にも心配だ。
ちなみに多分ジュノも同じぐらいに成りそうだが、そろそろ女の子の日がくるのだ。
拠点を出る前に聞いたらジュノもまだと言っていた。
保護膜があればあまり気にならないが、今の状態ではまずいなと思う。
せめて帰還のめどが立たないと、余裕が成さすぎる。
明日は食事も現地調達しなければいけない。
幸い下の森には小動物も多く、鳥もいた。
野草や木の実も取れそうなので、飢えることはないと心配はしなかった。
(明日からせっせと組み立ててグライダーを作る。手分けして採取もする)
そうして方針を定めてしまうと、心にも少し余裕ができる。
(現金なのね私って‥‥‥‥ジュノ‥‥あったかいな‥‥)
余裕ができるとその甘やかな温度を楽しめる。
ヴェスタは自覚無く、とてもやさしい微笑みを浮かべるのだった。




