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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第3章
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【第25話:つらい事があったはず】

(ダメね‥‥霊子通信にも全く応答がない‥‥本格的におかしいわ‥‥あの時感じた違和感はこれだったのね)

ジュノを救出した時の状況と、アイカに聞かされた通信の内容に違和感をおぼえたのだ。

ただ、当時のヴェスタは頭に血が上り正常な判断を下せなかった。

違和感としてだけ記録されていたのだ。

事が始まったかのようなジュノの悲鳴と、たどり着くまでの時間。

現場で確認した状況の間に時間的な不自然さを覚えた。

覚えたが、ヴェスタはそれに構えないほど怒り狂っていたのだ。

(4人か‥‥ふふ、ジュノの時と同じね‥‥私はジュノほど可愛らしくないけどね、ご愁傷さま)

今現在進行中に結構ひどい扱いを受けているヴェスタだが、思考は自由にできるし通信も試みていた。

(ジュノ‥‥心配しているなきっと‥‥ごめんね‥‥)

やっと二人終わり圧が下がる。

すこし穏やかな扱いになるので、周囲の状況を確認してみる。

(山小屋だとおもう‥まだ日が高いからそんなに時間たってないよね?‥火口からわりと近いわ)

油断していたらまた人数が増えて大変な状況になる。

それでも思考は手放さないので、時間を有効に使おうとヴェスタは思った。

(ジュノ!ジュノ!‥‥あぁ‥‥やっぱり通じない‥‥電子戦装備を持っている文明レベルではないはずなんだけど‥‥)

単純なECMのようにノイズも返さない。

まるで装置自体が封じられて、作動していないかのように感じるヴェスタ。

くやしいので思い通りにはならないぞと、がんばるヴェスタだが、肉体はなかなか制御が効かない。

しばらく時間が経ち、なんとか思考を取り戻すヴェスタ。

なかなか人数が減らないので、ヴェスタの能力でも処理が追い付かなくなってくる。

残念ながらヴェスタの思考にも乱れがでる状況になってきた。

(ふう‥‥ちょっとこれは辛いな‥‥くやしいけど後で考えよう)

そうしてやむを得ないと思考を手放すヴェスタであった。




(え‥‥ログ‥‥時刻‥‥じゅの‥‥‥《Warning: Internal Timestamp Loop Detected》ぴーーーー)

(アイカ?!)

アイカの反応が途絶えた。

(フェイルセーフが働いた?‥‥再起動って自動でするのかな?アイカ!アイカ!!)

アイカとの会話に集中しつつもジュノの追跡は止まらない。

人馬は速度を落とし、知らなければ見逃すような小道に分け入り降りていく。

(‥‥‥‥火口から20分もかからない場所)

ジュノの表情から感情が抜け落ちる。

思考がAIのように研ぎ澄まされ無駄が無くなる。

ジュノの戦闘能力・指揮能力を高めるゾーンだ。

訓練の模擬戦中にも何度か発動し、とてつもないスコアをマークした。

訓練学校の先輩を5枚差から倒しきったこともある。

味方が開始早々5人DIAからの逆転だった。

ジュノの通り名が『小隊殺し』になった原因の訓練だった。

(あれか‥‥)

ジュノの視界の先で山小屋に至り、下馬した男が馬をつなごうともたもたしている。

ジュノは音もなく背後に付きテイクダウン。

口を抑えたまま肩口から左胸に突き通した。

びくくと少しだけ痙攣したが、そのまま小屋の裏に連れていき返り血を浴びない角度で短剣を抜いた。

鎖骨の横から心臓を刺し貫いたのだ。

男の襟で短剣の血糊を拭きながら抜き取る合理的な動き。

窓にはカーテンすらかかっておらず、窓自体も少し開いていて中が丸見えだった。

それ以前に中からヴェスタの声が聞こえて、頭に血が上りそうになるが、すうと制御する。

表情すら変えないジュノは窓から内部を確認。

左目だけすっすっと窓に寄せ内部を確認したのだ。

(見えているのは4人)

動かない気配が2つ有るが、うち一つが動いた。

再度確認するジュノ。

(1人居なくなった‥‥トイレか風呂だな)

チャンスと見て一気に攻めるジュノ。

足音もなく玄関にもどり、乱暴にノックを繰り返す。

ドンドンドンドンドンドン!

「なんだよ!うるせえなあ!!」

1人引き寄せたので、風のように窓に戻る。

窓の隙間からライフルで容赦無く残りの二人を射殺。

たん!たん!

するりと中に入り玄関から戻った男も射殺。

たん!

ぎぃいとトイレから出てきた男もそのまま黙らせる。

たん!

弾丸は全て建物の壁も貫通して外が見える穴を開けた。

ノック開始から20秒程度、弾丸4発で制圧完了だった。

「ヴェスタ!!」

ライフルを放り投げ、ケーブルが巻き取るのに任せてヴェスタに抱きつく。

「あん‥‥よごれちゃうよ?ジュノ。平気よ、どこも怪我していないわ」

ヴェスタの冷静な声におどろくジュノ。

「ええと、さすがに恥ずかしいからみないでほしい‥‥」

そう言ってヴェスタは身体の汚れをシーツで拭きだす。

半分は返り血だった。

「ごめん‥‥外にいるね」

ヴェスタは無表情に言葉続けた。

手は止めないで、髪の毛も拭いていた。

「うん。ジュノ‥‥心配かけてごめんなさい」

「‥‥ううん。無事ならいいの」

それだけ告げて、ジュノは玄関から逃げるように外に出た。


外にでたジュノはドアを閉めて、やっと涙をながした。

「ぅああぁあん‥‥あぁああぁぁ‥‥」

ぼろぼろと沢山涙が溢れて止められなかった。

ヴェスタの代わりに泣かなくてはと、必死で泣くのだった。

何一つ洗い流してくれない苦しいだけの涙だった。




山小屋から離れて最初に休んだ台地まで来た。

ヴェスタはいつも通りにも見える無表情な硬い顔だった。

話しは聞いていたので、自分とは練度が違うのだなと思うことにしたジュノ。

大き目の鍋でお湯を沸かした。

山小屋にもお風呂はなかったので、いつもより少し多いお湯を準備してヴェスタに使ってもらう。

さすがにそのままにしておくのはジュノも嫌だった。

「ありがとう‥‥きれいになったかな‥‥」

すんすんと自分の臭いを嗅ぐヴェスタに、また涙がでるジュノ。

ヴェスタには見せるまいと、背を向けて離れた。

「ふふ、お昼抜きになっちゃったね、お腹すいたな」

そういって非常食のバーを食べるヴェスタ。

ジュノは食欲がないと断った。

お茶もヴェスタが淹れてくれて、二人で飲んだ。

とても気になることもあり、ヴェスタにも相談したいのだが、ジュノはちゃんと話す自信がなく、明日にしようと思った。

アイカはアレ以来応答しなくなっていた。


「ジュノ‥‥今夜は見張りを立てましょう?テントで先に寝ていいよ」

暗くなってからヴェスタの声がかかり、ジュノは少しあいだを開けて答えた。

「わかった‥‥」

それだけを告げテントに潜り、寝なければと繰り返し思考して時間を過ごした。

そろそろ交替だよとヴェスタに言われて、やっとその思考を止めることが出来た。

しばらくしてヴェスタの寝息が聞こえてきて、またジュノはしくしくと泣き続けた。

何のために泣いているのかも、もうわからないままに。










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