【第19話:発想の転換が必要でした】
お昼までに島を一周した。
小さな島には水源がなく、スコールに頼った植生なのだろう。
水溜りや湿地はあちこちにあり、そこいらが支えていると思われた。
芝に似た植物が殆どを覆っている。
一部に低木があり小さな青い実をつけていた。
羊たちは意外に機敏で、なかなか近寄れないでいた。
群れに見張りが必ずいて、早期警戒しているのだ。
一番近い部分は5kmも無い距離に目的地の島が見えた。
本島の方は10km程度と事前に調査して分かっている。
スタート近辺に戻ると、砂浜で奇跡のように形を保った船外機を発見した。
「やった!?すごいよ」
ジュノがぴょんぴょん跳ねて回収に行く。
ヴェスタはライフルを構えてフォローだ。
とととっと戻って来るジュノ。
「すごいよ!電源入った」
もう試したのかオレンジのランプが点灯している。
「すぐ外れたのがよかったのかもね」
固定せず、乗せていただけだったので最初の衝撃で飛んでくれたのだろう。
船体に残っていたら、船と運命をともにしただろう。
これで船体を作ればまた船で移動できると、ふたりで喜んだ。
「ついてるね!」「うん!」
パチンとハイタッチもしてしまう、二人だった。
ご飯は携帯食のバーとお茶を淹れた。
今度はジュノが入れてくれて、とても美味しいとヴェスタは思う。
(ジュノが上手なんだな、何がちがうんだろう?茶葉は同じのなのにな)
あっと、ヴェスタは気付いた。
今とても自然な笑顔だったと自分では思ったのだ。
ジュノは見てくれていなかったので、本当にきれいに笑えたかは確認出来なかった。
顔をなでなでして確認していたらジュノに見つかった。
「どしたの?」
「な、なんでもないよ!」
ふいと横を向いてしまう。
きっと頬が赤くなったなと、恥ずかしくなりさらに赤くなるヴェスタだった。
すっと真面目な顔になるジュノ。
「どちらかの海を一度越えなければどこにも行けない‥‥」
ジュノは厳しい目線で海を睨んだ。
どちらの海を越えるかと考えているのだ。
遠いが確実に帰還出来る北西か、帰還は手間だが海は短い移動で済む南東か。
先程のエンカウントが北西なのも懸案事項だ。
「この島には資材になるような大きな木もない‥‥泳いで渡るしかないね」
ヴェスタは自信がない。
ちゃんと泳いだことがないのだ。
「ジュノ一人なら戻れそう?アイカの所まで?私ちゃんと泳げるか分からないの‥‥」
ジュノはじっとヴェスタを見る。
「どうしてもってなったら考えよう。今は一緒に帰ることをあきらめないよ」
にこっと目を細め笑うジュノ。
この笑いは自分を励まそうと作った笑顔なのだと、今はヴェスタにもわかった。
本当は今、綺麗な微笑みで答えたいなとヴェスタは思う。
硬い表情のままで。
午後の定時連絡で、アイカとも相談した。
結論は南東で採掘継続となった。
海のリスクが大きすぎるのと、あちらの島では木材も含め一通りの素材がある可能性が高い。
時間をかければそこに仮拠点を作り、グライダーを作れるだろうと考えた。
アイカもサポート出来るからと、設計図と手順書が送られてきた。
「なるほど‥‥空中なら襲われないと」
「可能性が高いね。あのての生き物は振動と温度と赤外線あたりじゃないかな?感覚器」
「そうね、対空レーダーはもってないでしょうね」
くすくすと久しぶりに二人で笑えた。
上手に笑えていたようで、ジュノの笑みが深くなる。
(まるでジュノがわたしの笑顔の鏡みたい)
ふわっと胸が暖かくなるのをヴェスタは不思議そうに受け止める。
(なんだろ‥‥)
感じたことのない感覚にとまどうヴェスタ。
「簡易なものなら今でもつくれそうだねグライダー‥‥もしくは凧かな?2人分の揚力さえ取れれば形はどんなのでもいいしね」
風向きがよければ風にのって5kmくらいはすぐ届くと計算した。
幸い回収できた衣類の中にシーツが4枚あった。
これとテントに使うフレームを組めば、大き目のカイトが作れる。
翼端にしなる素材を入れれば、ザイルの操作で左右も動けると思われ、下りる時はパラシュートのようにすぼませればいいとアイカの説明だった。
ジュノは感覚的に理解できないと不審がるが、ヴェスタは航空機も勿論操縦できるので、勉強した内容だった。
「アイカの指示で間違いないよ、操作は私が担当するしジュノは引っ張っるかかり!」
「まかせて!」
ジュノは飛んだらそのまま垂直懸垂してヴェスタの下までくる予定だ。
ジュノは体重が軽く、パワーウエイトレシオに優れているので、垂直方向の移動もお手の物だ。
早速試作してみる二人。
アイカの送ってくれた設計図から、左右の操作が出来るカイトを作る。
地上から二本のラインで操作する直角二等辺三角形に似たデルタ形だ。
この延長線上に搭乗するハンググライダーがあるのだ。
「これで丁度1/4サイズになると思う。クロスバーも縮尺に見合う重さと強度で作れたわ」
ヴェスタがメインで工作し、バランスもとれたなかなかの仕上がり。
ハンドトスでもそれなりに浮いた。
風はそれなりに有るので、ジュノに持ってもらいラインを伸ばし離れる。
「どうかな?いけそう?!」
「うん!きっと上がるよ!!」
ヴェスタがラインを引いてジュノが手をはなすとすいと上昇したカイト。
ある程度上昇させて姿勢を保ってみる。
「いいね‥これで拠点まで帰れちゃいそう」
ととっと走ってきたジュノが答える。
「そうかな?!流石にこわいよ?」
ひゅんひゅんと左右に切り替えしてみるヴェスタ。
少しづつ負荷を上げている。
ばん!っと音がなり、カイトに張ったシーツが破けてしまった。
しゅるるるゴン!とかなりの勢いで墜落して、二人は目を見合わせた。
「やっぱり‥‥あまり高くあがらないほうがいいね」
「うんうんうん、いたそうだよ?!落ちたら」
ジュノは涙目になって、ふるふる首をふった。
開発は初期段階から頓挫した。
「キャンパスの強度がそもそも足りない‥‥」
色々と負荷を分散する工夫をして、羽の形も試したがそもそもの強度が足らなかった。
ただ浮かぶだけなら良いのだが、操作すると必ず一部に負荷がかかるのだ。
そのぶんの強度的余裕がなければ命を預けられないと、困り果ててアイカに相談した。
「それなら二人のスーツを使えばいいです!保護膜はかなりの強度がありますし、形も容易に変えれます」
「んと‥‥裸になっちゃうよ?」
速攻でジュノが不満そう。
「仕方ありませんね、誰も見ていませんよ?」
「そうね‥‥じゃあそれで考えてみるわ」
あっさり賛成のヴェスタ。
「えぇぇぇ‥‥」
ジュノはとても嫌そうにした。




