【第17話:今日もふなあそびでえと】
今日はまた天気が良く、出発日和となった。
「今日はいけるかな?」
ジュノはちょっと心配そうにヴェスタを見る。
「ええ!がんばろうね」
元気よく宣言するヴェスタ。
真面目な顔には悲壮はうかがえない。
アイカとジュノはこっそり見合わせてうなずきあう。
「定時連絡は8時間置きですよ!」
アイカの指示に頷く二人。
定時連絡は集めたデータとともに、正確な位置情報がわかる霊子通信を一瞬入れようと決めていた。
通常の電磁波や電波を使う通信ラインもあるので、普段はコストを考えてそちらで話す。
今回のように泊りがけでは、出動する側の持ち出せるエネルギーに限りが有るので、8時間に一回短時間で済ます予定なのだった。
波も穏やかで、拠点の取水口にもなっている北東の海岸に来ていた。
砂浜になった海岸線には、海藻や流木も打ち上げられてきている。
相変わらずすぐ沖は濃いコバルトブルーで、深さを感じさせる。
ちゃぽんと船体を浮かべ、アンカー用の大き目の石をネットに詰めて放り込む。
ジュノが抑えているあいだに、アイカとヴェスタで積み込み。
そこそこ荷物があり、アイカも背負ってきてくれた。
ジュノとヴェスタの荷物はほとんどバックパックとしてコンテナに入るので、それ以外の荷物だ。
「よし、ヴェスタ乗って!」
「りょうかい」
搭乗の手順も一度試したのでスムーズにすすむ。
ジュノが乗り込んだ頃にはアイカが手をふり、ヴェスタが船を進ませていた。
「いってらっしゃーい!」
『いってきまーす!』
アイカの満面の笑顔に送られて、すいすいと浜から10m程の位置を南東に進む小舟。
「小舟じゃかわいそうだしさ、名前つけようよこのこ」
ジュノがふんわり笑って言う。
「んと‥‥今考えることかな?」
ヴェスタは相変わらず真面目だ。
操船をヴェスタがするので、ジュノは全周監視の分担だ。
先日よりも荷物が多いので、喫水線も深くなっている。
あまり小回りを出来ないので、監視はしっかりと打ち合わせていた。
「え~いいじゃない、ちゃんと監視もするよ?」
「うん‥‥じゃあいいよ」
ヴェスタはちょっと心配そうにする。
ジュノは明るい声で次々候補を上げていく。
「んと、セラフィーンとかどう?かっこいい‥‥もしくはぁ‥アクィラ号は?!」
一人でいくつも候補を出してくるジュノを感心して見るヴェスタ。
「よくそんなに次々考えられるねジュノ?」
わずかな間に4つくらいでてきた。
「うん、名前考えるの好きなんだ!」
「へえぇ‥‥私は苦手だなぁ」
「うん?どうして?」
ヴェスタはちょっと考えて答えた。
「だって、大事なことだもん‥‥すぐは答えをだせないわ」
ジュノはまたそこに違和感を感じる。
「うん‥‥大事だよね名前」
はたと思いつくジュノ。
「ねえ‥‥ヴェスタって自分の名前好き?」
「え、きらいよ」
即答の否定が来て戸惑うジュノ。
「わたしは好き‥‥自分の名前」
「私もジュノの名前大好きよ、素敵だわ。響きもかわいい」
ジュノはじいっとヴェスタを見る。
「聞いてもいい?どうして嫌いなの?」
「‥‥うん」
うんといって黙り込むヴェスタ。
「名前は施設で聞いたけど、私の持ち主がつけたらしいの‥‥いつも呼ばれる度に悲しかった」
そういってしょんぼりするヴェスタ。
「ごめん‥‥ヴェスタ」
ぎゅうっと抱きつくジュノ。
「まってまってあぶないよジュノ。荷物満載なのよ?!」
重心が偏って、船外機が大分沈んでしまった。
ばしゃばしゃと波も船内に入る。
「わわ、ごめん!」
ぱっとバックステップして船首側にいどうするジュノ。
「ふふ、びっくりしたあ。島に上がってからにしよう!ごめんね変な話しを」
ヴェスタはむりやりな微笑みを浮かべる。
ジュノが一番悲しくなる微笑みだった。
「うん‥‥」
その後は会話も実務的になり、30分ほどで中間にある島が見えてきた。
「あ、あれだね小さい島」
目的の島の手前に周囲30-40km程の小さめの島がある。
ここには上陸しない予定だが、ここが見えたら半分だねと計算していた。
「うん、時間的にも計算通りだね、何か見える?」
ジュノは双眼鏡型のデバイスを目に当てている。
これは小型ながら光学10倍デジタル補正で40倍まで見える高性能の双眼鏡だ。
ノクトビジョンや赤外線など数種類の観測が可能だ。
手元のトリガーで静止画も動画も撮れる。
「うーんなんか白い生き物がいる‥‥羊だね」
ズームしたのかジュノが詳しく答える。
「おぉ‥‥可能なら帰りに捕獲したいね。ミルクと羊毛がとれるね」
「うん!結構いっぱいいるかも?見た感じで20匹くらい見えるよ」
ヴェスタも目を凝らしてみると、なんとなく白いものが見えた。
そんな話しをした瞬間に、ボートが下から突き上げられた。
ゴォン!!
「わああ!!」
「きゃぁあ!!」
10m以上の上空まで吹き飛んだ船から、散らばるように荷物と二人が投げ出される。
ジュノは瞬時に戦闘モードになり、ヴェスタの位置を把握。
手を伸ばせば届く範囲なので、ぐっと手を伸ばし捕まえる。
落下し始める頃にやっとヴェスタの足を捉えた。
「ヴェスタ!!」
「やぁあ!じゅのぉ!」
バタバタと手足をふるヴェスタがジュノの手を蹴ってしまう。
眼下を一瞬だけ確認したジュノがライフルを抜きヴェスタに投げる。
しゅると足に巻き付いた所で一気に引き寄せ捕まえる。
暴れるヴェスタを抱きしめて、頭を片手で保護しながら水面に落ちるジュノ。
ドボォオン!!
じゃぼじゃぼと周りに色んなものが落ちてくる中、バイザーも起動していたジュノは視界を覆う物体に怖気を振るった。
海面下に大小無数の白い触手や触腕があばれていたのだ。
(くうっ!タコかイカかな?!)
モンスターファイルを参照して一瞬で識別しようとしたが、該当するものが見当たらない。
一番太いものは直径が4-5mあり、長さは遥か彼方まで続いている。
細いものは直径3-5cmと見えた。
チラと見ただけでどこまでも触手たちは暗い海底に向かって伸びている。
体長が想像つかない大きさだった。
ヴェスタを右手でぎゅうと締め付け、ジュノが足で水を蹴る。
ぶおっと水流が起きて二人を押し上げた。
その足元をかすめて何本も白い触手が暴れていた。
水面に出ると、わりと近くにさっきの島が見えた。
バシャバシャあばれるヴェスタを強引に引き寄せ叫ぶジュノ。
「ヴェスタ!!おちつけ!!!」
びくっとなって止まるヴェスタを抱きしめながら、海岸を目指すジュノ。
(こっちくるなよお!!)
見た感じは沖合から来ていたので、反対側に向かっているはずとジュノは必死に泳いだ。
途中からヴェスタは自分でしがみついたので、両手で水をかけて速く進んだ。
保護スーツの力でボートと変わらない速度がでていた。
ざばっと浜に降り立つと、全力のジャンプをかけるジュノ。
ぴょんと10m以上飛び、空中で身をひねり後ろを見た。
水面から少しだけ触手が飛び出したが、それ以上はこないようだった。
後ろ向きだが、ヴェスタを横抱きにして着地成功のジュノ。
「はぁ‥‥」
海岸線からも10m以上離れたので、一回息をはいたジュノ。
「ヴェスタ走れる?」
「う‥うん!」
手を引いて島の中央を目指すジュノは、まだまだ安心できなかった。
見える範囲の触手達の長さは、島の中央まで届くと見えたのだ。
(この島より‥‥おおきいねきっと)
ジュノの見えた範囲での評価だった。




