【第16話:3人で雨の休日を】
この島に降りてから14日目にして初めて雨の日だった。
いつもの激しい雨では無く、しとしととふる長い雨が朝から降っていた。
「どうしよう‥‥視界も悪いし、船出には向かない?」
不安そうにヴェスタが言う。
アイカとジュノが見交わして答える。
「平気だよきっと、近海を行くし途中に島も見えたよ」
「そうですね、簡易のものですがソナーもレーダーも準備しましたし大丈夫でわ?」
ジュノもアイカも肯定的意見だ。
ヴェスタはちょっとだけ考えた。
(ずいぶんと余分に時間を使ったし、無理はしないけど急いでもいいかも?)
ヴェスタのセンサーはなにか嫌だなと感じていた。
慌てないで行きたいと。
昨日一日、2人に甘えて何もしなかった身としては、言い出し辛い話でもあった。
「うん、じゃあ今日からいこう。鉄をもとめて!」
にっこりと思っている笑顔を浮かべるヴェスタ。
わりとちゃんと笑えているのだが、ジュノにはちょっと違うと見えた。
「うんうん、こちらは私がちゃんと留守番していますね」
アイカはにっこりお返事。
「‥‥ヴェスタ‥‥もし気になることが有るなら様子を見てもいいよ?」
ヴェスタは内心あせる。
ジュノにはお見通しなのだと。
「大丈夫、なにか気になるとかじゃないの。天気が初めての雨だしなと思っただけ」
なんとか自然に見えないかなとこねくり回し不自然になった微笑みのヴェスタ。
やれやれといった雰囲気の二人が笑顔で告げる。
「よし、じゃあ今日は初めてのお休みにしよう!」
「いいですね!お菓子を焼きますよ!昨日オーブン作ったので」
いえいパチンとハイタッチのアイカとジュノ。
「‥‥でも」
もやもやしているヴェスタを二人が手を引いて外に連れ出す。
本船のハッチを抜け、作業小屋につれていく二人。
ぬれるぬれるいそいでと小走りに移動する。
パタンと小屋に入ると、アイカの提案。
「型抜きする時は呼びますから、みんなでクッキーを作りましょう」
アイカは楽しそうに笑う。
「じゃあ、かねがね話していた浴室を作ろうよ!」
「うん!いちいちあの狭いシャワーに行くのいやだよね!」
ジュノの提案にヴェスタもふんわりと笑顔になる。
(よかった‥‥ヴェスタの笑顔だ)
ジュノはちゃんと笑うヴェスタに安心した。
アイカがこねこねと生地を作っている間に、テーブルセットに端末を置いてつんつんくぱすいつんと設計してしまう二人。
縮小立体図を動かすと、完成形がイメージしやすい。
「やっぱり湯船はゆったりでしょ?」
「でも‥‥ちょっと贅沢すぎない?水もコストがかかってるし」
「平気よ!みんなで入った後は濾して工業用水にするから」
「う‥うん‥‥なんか濾されるのはちょっとはずかしいな‥‥」
「ヴェスタの一番ダシ?!」
「や~ん、ジュノいわないでぇ」
くすくすと話し合って、設計が進む。
作業小屋と個室の間で、本船からも近くにと絞っていくと自然と場所が決まり西側防壁よりに決まった。
防御壁の内側にコンクリパネルを運び組み立てていく。
このコンクリパネルには繊維状にした鉄も混ぜられていて、軽量ながら強度もある。
しとしとの雨の中でにこにこの作業を続ける二人。
「びしょびしょね!」
「あはは!ほんと!」
ヴェスタの笑顔が綺麗で、ジュノのこころもぽかぽかになる。
ある程度外形が組めたら、内装を入れる。
防水シートを適当に貼ると、ナノマシンが綺麗に仕上げてぴかぴかの壁と床になる。
「べんりね?」
「うふふ、わたしも初めてみた」
ジュノも見たことがない便利さと、ヴェスタの笑顔だった。
嬉しそうに笑うジュノにヴェスタの笑みも深くなった。
わいわいと場所を決め湯船を運んでまた防水シート。
落差で水圧を出すので、建物の上にお湯をはるタンクを乗せる。
「これ‥‥穴があいたりしないかな?」
ヴェスタはまた襲撃が有るかもと気にする。
「じゃじゃーん!こうゆうのもある」
そういってさっきの防水シートに似たものをお湯タンクに被せると防護膜のようにしゅぱっと吸い付いた。
「これで防弾性能が上がります!」
「え‥‥それ防護壁につけたほうが‥‥」
「あ?!ほんとだ?増産してもらおう」
「あ‥‥あとやっぱり監視カメラもつけようよ、暗視のできるやつ」
「あぁこないだ言ってたやつ?」
「そうそう」
それはあとだねとして、お風呂を仕上げる。
パネルに予め開けてあった穴からパイプを入れて内側にはサーモ水栓を設置。
湯船には自動でお湯を張れる装置も搭載した。
「かんせーい!」「やったあ」
パチンとハイタッチしてお風呂が完成した。
「型抜きするよー!」
『はーい』
丁度アイカからもお呼びがかかり、二人は作業小屋に戻った。
雨は相変わらずしとしと降り続けていた。
クッキーが焼き上がり、ほかほかのを3人で楽しむ。
「なんだか‥‥こんなにゆっくりなのは星系間航海以来ね」
ヴェスタがしんみり言う。
「あん時はむしろ何もなさすぎて辛かった!」
「そうですねえ」
ジュノもアイカも賛同。
お茶はジュノが丁寧に淹れてくれて香り高い紅茶だ。
アイカがふーふーして、飲めないでいるのを二人でにこにこ見る。
「‥‥ヴェスタってさ‥‥今すっごい自然に笑えてるよ」
「え?」
「そうですね、とても綺麗な笑顔ですよ」
「そ‥‥そうかな」
しゅんと何故か笑顔がなくなるヴェスタ。
「えぇ‥どうしちゃったの?ヴェスタ」
「‥‥ううん、なんでもないよ」
なんでもなくないと叫びたかったが、ジュノは我慢する。
アイカもにこにこのまま見守る。
「‥‥さめない内に食べよう!」
空元気のようにジュノがいい、三人のお茶会が再開した。
結局ヴェスタはそこからは綺麗に笑わなくなった。
さっそくお風呂だ!とジュノが騒いで、どうせなら皆で入ろうとアイカも提案。
「う‥うん‥‥そうだね」
あいかわらずぎこちないながらもヴェスタも笑って賛成して、3人で初入浴となった。
ぱぱぱっと3人とも保護スーツなので、すぐ脱げる。
脱衣所兼化粧室には、大きな鏡を一面に張った。
「おぉ‥‥アイカより大きい鏡だ」
宣言どおりセクシーポーズをとり全身を写しても周りにスペースがだいぶある。
「くんくん‥‥アイカの義体って汗かいたりするの?」
「うん、ふつうだよ?人間とおなじだもん」
「ほんとだ‥‥ちょっと甘い匂いがする。これアイカの汗だよね?きっと」
「なんかイヤんです!嗅がないでジュノ」
「なんでさー」
ふたりがふざけている間にするっとお風呂に行くヴェスタ。
そっと視線をあわせてため息の二人だった。
お風呂でもわいわいと楽しんだが、ヴェスタは結局笑えないままだった。
ジュノの心にはチクリと痛みが残る、楽しい休日と成ったのだった。




