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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第1部 第2章
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【第14話:みんなつらいの】

翌日ヴェスタは起き上がれなかった。

「ごめん‥‥」

個室に見に来てくれたアイカに詫びるヴェスタ。

「だいじょうぶ?顔色悪いね‥‥ごはんは食べられそう?」

何かを食べると思うと、昨夜散々出してもうでないと思っていた胃液がでそうになった。

んぐんぐと喉と胃が勝手に動く。

なんとか飲み込んで、昨夜の様に吐き出すことはなかったが、気持ちの悪い味が口まできて涙目になるヴェスタ。

「‥‥むりしないでいいよ。お水おいてくから飲んでね。脱水症状になっちゃう」

「‥‥うん」

なんとか半身を起こして、アイカの置いてくれたコップから水を飲む。

すぐ横の机に水差しも置いてくれた。

コストがかかっているが、これは海水から浄水した純水だ。

ミネラルもまったくないので、味がせず飲みやすいので助かるヴェスタ。

ガラガラとうがいもして飲み込んだ。

コストがかかっている大事な水なのだ。

昨夜シャワー中に胃の中身を全部戻して、それでも足りなくて胃液まではいた。

ジュノによしよしと背中を撫でられながら涙がぽろぽろでた。

そのままアイカに連れられて寝かしつけられ、今はもうお昼近いだろう。

おそらくその始末もアイカかジュノがしてくれたはず。

ばふっと布団に中に隠れて現実逃避するヴェスタ。

(もうやだ‥‥はずかしい‥‥)

自分の吐き出したものを片付けてもらったと思うといたたまれない。

アイカは聞こえないようにため息をつき、立ち上がる。

「お腹すいたり、喉がかわいたら教えてね」

そういって部屋を出ていくアイカ。

(今日の遠征も延期になってしまう‥‥起き上がらなきゃ)

頭では解っているのだが、命を奪う感触が指に残っている気がして、震えてしまう。

ジュノを救った時はかなりの遠距離だったのと、怒りで我を忘れていたのだ。

原住民の村を焼き払おうと思った瞬間に、そこにいるのは命だと気づいてやめたのだ。

ちいさな子どもが恐ろしげに自分を見上げているのを見てしまい、焼き払えなかった。

昨夜は自分たちを守るためとはいえ、眼の前にいる人間を撃ち殺した。

粒子ビームと違い、血肉が飛び散るレールガンの射撃は、命を奪う感触をヴェスタに与えた。

(こんなに弱かったの?わたし‥‥)

おそらく夜中にあった襲撃を、あの後ジュノ一人で確認して。

相当数いただろう生きていたものも処理した。

(ジュノに全部やらせてしまった‥‥)

ジュノも人間相手の実戦は初めてだったはずなのだ。

ふるふるいって言うことを聞かない自分の手が急に憎らしくなる。

(そうやって!‥‥ぜんぶジュノにやらせた!)

ぽろぽろとまた涙が出てくる。

(これじゃダメだ‥‥起きていって死体を片付けよう)

自分では解っているのだった。

明るい光の中で自分の殺した相手をみるのが怖いのだと。

顔を覆い嗚咽をもらすヴェスタ。

もう少し立ち上がるには時間がかかりそうだった。




電気分解炉という装置が有る。

本来の用途はボーキサイトを電離してアルミニウムを取り出すものだ。

実は裏の用途として遺体の処理にも使われる。

長期航海を想定した密室となる船内では科学的に処理する必要もあり、似た性能を持つこの機械にそういった用途も想定した仕様が付いている。

これはミッションマニュアルにも記載のある処理方法ではあった。

拠点の周りに死体を放置しておくより、数段いい処理方法だ。

作業する者の心理を考慮しなければ。

黙々と作業を続けるジュノ。

防毒マスクにもなる保護スーツのバイザーは、処理をする匂いやまして毒性などは通さないが、視覚情報は通す。

幸いこの作業小屋に設置した電解炉は入口が大きく開く、ぽいぽいと放り込めるので我慢強く少数づつ処理する。

ジュノはかなり気持ち悪い思いをしているのだが、責任感と保護欲で乗り切る。

(ヴェスタにやらせない‥‥わたしがするんだ)

昨夜の弱りきったヴェスタを見ては、とてもこの作業をさせられないと思う。

ジュノも昨夜が初めての実戦だが、戦闘員としての訓練で何度も人間そっくりの疑似ターゲットを射殺し、刺殺し、絞殺した。

AR表示されるリアルな悲鳴と血しぶきを浴びながら。

感触としては慣れたものだったので、抵抗はヴェスタより少なかった。

なにより先日乱暴された記憶が生々しく、恨みもあるのだ。

きりと眉があがり乱暴に投入口に放り込む。

数が揃ったらスイッチを入れて、処理している間に拠点を周り台車で死体を回収する。

ルーチンワークに感情は不要だった。

アイカも手伝って、血糊を掃除したり小型の台車を押して運んだりとくるくる働いた。

お昼はふたりとも食べる気きになれず、ヴェスタの起きた気配にアイカを向かわせて、ジュノは作業を続けた。

最後の死体を処理する頃にはアイカも戻り、ジュノが処理の際に仕訳けした、燃やせる残留物を精錬用の別の炉で焼いていた。

(今日だけで随分無駄に燃料を使ったな‥‥本船のエネルギープールも減った)

燃料の損出にがっかりするアイカ。

本当に少しづつ毎日節約して貯めて、やっとゲージが溜まってきたのにと、悔しがる。

タスク管理もしているアイカからすると、襲撃はマイナス要素でしか無い。

得られるものが全く無いのだ。

先日のように動物型魔物であれば、ナノマシンが分解して非常食にしてくれる。

流石に人間も食えとは二人に言えないので、処理に手間だけ増えて何も得ない。

(あのばっちい毛皮もさすがに再利用しろとは言いにくい‥‥ヴェスタ大丈夫かなぁ)

今日確認しただけでも、水路と防壁の一部も壊されていて、復旧にはまたコストがかかる。

(次からは集落を見つけたら処理するよう提案しよう)

アイカはそう心に誓った。

同じ様に考えただろうジュノも心中も察するアイカはできるAIだけではなく、わかるAIだった。

(ジュノも休ませないと‥‥)

アイカはこころ休まらない戦後処理を進めるのだった。

(晩御飯はお野菜のスープとサラダにしよう‥‥お肉はしばらく禁止ね)

アイカは幼い義体にみあった可愛らしい心で二人を支えるのだった。


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