【第136話:アイ達がいるおかげです】
手紙には7日経ったら拠点に帰してやると書いてあった。
アイカは怒り狂い魔力を溢れさせ、部屋を飛び出そうとする。
「ママ!!」
高い高速言語がアイカを呼び止める。
「いかないで!ママ!」
アイ達のスリープ解除時間になり、出ていこうとするアイカを見つけたのだ。
その剣幕と表情に怯えたように4人でかたまり、次々呼び止めた。
「あぁ‥‥アイちゃん‥‥」
アイカは走り戻り4人を抱きしめる。
「ああぁあああん!!」
ついにアイカが泣き出してしまう。
肺の空気を吐き出すまで嗚咽は止まらない。
そうして吐き出し、吸い込むたびになんとか燃え盛った感情が収まっていった。
意味も解らずに、必死にしがみつき一緒に泣くアイ達のお陰で、冷静さを取り戻していくアイカ。
あのまま飛び出していたら、八つ当たりで死体が溢れてしまうところだった。
「ごめんね‥‥心配かけて‥‥」
4人はアイカから離れようとしない。
置いていかれる恐怖を味わったから。
自分達の優しいママが、ママじゃなくなったように見えて恐ろしかった。
アイカはもう一度手紙を読み返す。
それくらい落ち着きを取り戻していた。
『ヴェスタとジュノを預かります。7日後に拠点に直接帰します』
文面は手書きではなく、印字のように整っている筆跡。
これは誰の真似でもなく、素のAIが書いたのだとアイカには解る。
差出人も宛先も無く、状況からアイカに宛てたのだとは解った。
誰がと想像すれば、あの黒アイカ‥‥AIKA-04を思い出すアイカ。
(あいつらだ‥‥)
めらめらとまた怒りが湧いてくる。
肩の上のアイ達が察して、ぎゅっと怯えてしがみつく。
アイカは笑顔を取り戻してよしよしとする。
「ごめんね、大丈夫よ」
アイ達のお陰でアイカは随分と救われている。
一人では絶えられない状況だった。
(‥‥落ち着けアイカ。拠点に戻ろう‥‥荷物が大変だから何か手段を考えなければ)
アイカの思考はやっと前に進み出す。
さっきまでと変わらずぐるぐると回るが、間違いなく前に進みだした。
円運動ではなく、螺旋を描いてもがき、進んでいくのだった。
近くの雑貨屋でリアカーのような手で引く小型の荷車を買った。
タイヤが2つ左右にあり、前にいて引くタイプだ。
幸いホテルの精算をしても十分に銀貨が残ったので、それで買い付けた。
そこに3人の荷物を積み込みホロを掛けロープで縛り上げた。
アイ達も手伝うと頑張ったが、ママは力持ちなのよと笑って見せ、肩に乗せて引いて行く。
保護スーツのアシストがなくても、義体の基礎能力だけでも余裕で引けた。
アイ03と04は式神に入れて、偵察と護衛をしてもらう。
義体は腰でぷらんとしている。
(アイちゃん達‥‥本当にありがとう‥‥アイカがんばる)
きこきことタイヤがなるが、大きな荷物は一人では抱えきれなかったので、このペースでいくしか無いと思った。
途中ガラの悪い追い剥ぎに襲われたが、アイカは一瞥もせず、式神03と04がこてんぱんにした。
アイ01と02もアイカの肩の上で、しゅっしゅっとシャドーボクシングで「そこだ!」「やっておしまい!」などと応援していた。
それらの愛らしい仕草がアイカの傷つき砕けそうな心を癒やす。
人気がなくなったところで、ローラーダッシュを使い、リヤカーの限度まで速度を上げた。
大して上がらないので、しょうがなく頭の上に持ち上げて運ぶこととなった。
(これ‥‥タイヤいらないのでわ?)
10倍くらい速度が出た。
ただ今後に向けて時速300km/hで引ける荷車が必要になるなとも考えた。
現状は個人兵装で移動しているが、街に乗り付けれる移動手段がほしいなと。
(馬車もちいさい自動車もいたから‥‥あの手の物ならいいのかな?)
そんな事を考えられる余裕もアイカに生まれた。
心配なのは変わらないが、そうして心を痛めていても何もできないと、アイ達が教えてくれたのだ。
何度も感謝のよしよしを01と02にするので、後で03と04が交代してからベッタリになるのだった。
目印の岩まで戻れた。
ジュノとヴェスタが置いた大きな岩を蹴り飛ばす。
砕かないように手加減したサッカーキックで転がした。
ごろんごろんと大分向こうまで転がっていった。
一番嵩の大きいジュノの外装を装備して、残りを荷車に乗せ縛り直す。
先行して01と02を式神で補給基地に偵察に向かわせる。
03と04は残って護衛だ。
アイカもパルスジェットで遠慮なく飛行する。
燃料は十分に残っているし、補給基地まで持てばいいのだ。
万が一足りなくなったら、他の外装から燃料を移せばいい。
そうして贅沢に荷車を抱え飛行して、夕方には補給基地にたどり着いた。
燃料は保存タンクに満タンになって、燃料製造プラントは停止していた。
VTOL機は補給済みなので、外装にだけ燃料を充填し拠点に向かい飛び立った。
(‥‥おそらく敵は軌道上に監視の目を持っている‥‥だからマヤカランに来ていると知られたのだ)
アイカは色々と分析や推論もする時間を持てた。
(あいつらも式をもっているんだ‥‥悔しいけど、もっと高性能のものを持っている)
まともに戦いを挑んでは敵うはずもないと冷静に考える。
自分達の有利は何かと考える。
AIKA-04を打倒したときの事を考えれば、チームワークがまず第一に浮かんだ。
(そうだよ。私達には互いを信じ合える絆が有る‥‥あいつらが持っていない宝物だ)
アイ達ともマクラとでさえ持っている、コードでは表記できないもの。
魔法の式にも表れないそれがアイカ達一番の武器だ。
(AIKA-04は想像すらできなかった。あの場面で狙撃することを‥‥ヴェスタの技量を知らないのもあるけど、わたしがヴェスタをそこまで信用することが想像できなかった)
魔法の的にさらされる事になってでも、ヴェスタが撃ちやすい位置に誘導した。
アイカはヴェスタが外すとも、間に合わないとも考えなかった。
だからAIKA-04の思考の裏をとれたのだ。
(無事に帰すと‥‥ううん無事とは書いてない‥‥ただ帰すとは言っているのだ、殺すことはない)
ひやりとした不安を覚えるが、そうして自分を励ますアイカ。
うずくまっていたり、暴れまわっていても解決しないのだと言い聞かせる。
AIならば当たり前にできることをできず、AIにはできないことを当たり前にするアイカだった。
ただのコピーAIのアイ達に支えられるアイカ。
それは欲しいと望んでも手に入らない、奇跡のようなアイカであった。




