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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第1部 第14章
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【第135話:AIKA-02の成したこと】

最近のアイカはスリープモードを使わない。

使えないが正しいのかも知れない。

スリープしようと思う前に、人間と同じリズムで寝てしまうのだ。

これはバイオCPUとして使っている、脳にそっくりなこの義体の構造によるものだろうとアイカは考える。

(この義体は殆ど人間と同じ作り。髪も爪も伸びるし、歳がすぎれば成長すらする)

アイカがナノマシンで自らそのように作ったのだ。

ジュノやヴェスタに繰り返し短時間のスリープを求められるので、睡眠リズムを身体が学習したのだと。

ふと、今まで一度も思っても見なかった事が思い浮かんだ。

(デバイスを頭蓋にインプラントしているジュノもヴェスタも、構造的には義体と同じなのだわ)

アイカのAIとしての演算領域は大半が母船スパイラルアークに格納されている。

いわばこの義体は量子通信による無線操作。

子機なのだ。

そのはずである。

主は母船側で、複が義体。

いつの間にかアイカはこれに逆転を感じる。

この義体で母船の計算領域やデータを参照したり使ったりしていると。

(指示されてそのように運用してきたので、そう感じるのかな?)

ジュノもヴェスタもこの義体にこだわり、まるでアイカがここにいると扱うのでそう印象を受けるのかも知れない。

そんな事をぼんやりと考えながら目覚める。

むくりと起き上がろうと思い、どうせ起きれないと左右を見た。

(あれ?ジュノ?ヴェスタ?)

どちらも隣りにいないのに寝ていた。

(あ‥‥思い出した。昨夜はお酒を飲んで‥‥いつの間に寝てしまったのわたし?)

ジュノやヴェスタにすごく甘えた事を思い出し、頬を染め恥じらうアイカがむくりと起き上がる。

ヴェスタと違い、すでに立ち上がり活動可能な状態でスタンバイしている。

「じゅの?‥‥ヴェスタ?‥‥」

いつも自分よりも後に起きる二人が居ないと、とても不安になるアイカ。

ベッドから下りて、ぽてぽてと広いスイートの部屋中を探す。

「いない‥‥」

急に悲しくなってくるアイカ。

(食事にでもいったのかも‥‥)

まるで子供が親を探し求めるように、風呂やトイレも回りヴェスタとジュノを探す。

「どこお?ジュノ!ヴェスタ!!」

ふと昨日の夜飲んで食べた机に封書を見出すアイカ。

(なんだろ?書き置き‥‥封書にするわけがない!)

すっと取り上げ裏表に何も描いていないことを確認。

封もされていないので、手紙を取り出す。

短い文面だったので、すぐに読み終わり、3回読み返して意味を理解した。

ふるふるとふるえるアイカから、ぶわあと真っ赤な魔力粒子が湧き出す。

「‥‥ゆるさぬ」

ごうごうと渦巻く粒子をまとわせ見開いた目には赤い光りが宿っていた。




ぱしぱしと頬を叩かれて起こされると、眼の前にあの黒アイカにそっくりな容姿と服装で、少女が立っている。

少女はAIKA-02というシリアルコードを名乗った。

睨みつける二人に表情をかえずに告げる。

「いまからひどい目にあわせます」

にこりともせず続けて問う。

「どちらか一人を差し出したなら、もう一人は何もせず帰す」

バカにするなとジュノは思った。

自分もヴェスタもそうして自分だけが助かろうなどとは、決して思わないと。

ふたりはそれぞれ手足を拘束され、動けなくされている。

ジュノは睨みつけて黙ったし、ヴェスタも表情を変えず沈黙した。

AIKA-02も無表情に、次の問いを発する。

「ではどちらかが立候補してください。そしたら残った方はそれほどひどい目にあいません」

「私がする」

即答でヴェスタが静かに答えた。

ジュノは質問の意味が理解できず、ためらったため声が遅れた。

「わ、わたしがするわ!何をしてもいいからヴェスタにひどいことはしないで!」

その声はAIKA-02には届かなかった。

何も告げず拘束された器具ごと、キャスターでカラカラと移動されていくヴェスタ。

視線が合い、ニコと笑うヴェスタがうなずいた。

大丈夫だよとその目は言う。

ジュノは声も出せず涙が流れ落ちる。

愕然とふるえたジュノは気付いた。

これでは最初の問いに答えたのと同じではないかと。

眼の前のガラス窓は大きく、隣の部屋がよく見えた。

そこにはジュノには何に使うのかすら分からないような器具が並んでいる。

自分とヴェスタが拘束されている、支柱と似た悪意あるもの。

ベッドのような家具、椅子のような家具。

知識としてジュノが知っているものに、それらは似ている。

軍の耐性訓練で見て触れ、実際にかけられた拷問器具だ。

「やめて‥‥ひどいことしないで‥‥」

ぽろぽろと涙を流しても、それは何の効果も表さない。

ジュノ自身にすら。

AIKA-02に拘束を解かれたヴェスタは、指示されたのか移動して別の場所に自ら拘束される。

少女は手に持った何かをヴェスタに塗りつける作業をしている。

軍で教わった薬物の知識を思い出す。

経口摂取より粘膜摂取の方が、薬剤はより早く高い効果を表すと。

ヴェスタは少女に話し続けているが、声はこちらには聞こえない。

AIKA-02が戻っていくと、最後にもう一度こちらを見て、ニッコリとヴェスタは笑った。

目線が合うとうなずく。

ジュノには、大丈夫なのよと告げられた気がした。

まもなくAIKA-02が戻り、ジュノに告げる。

「面白いサプライズゲストを準備しています」

ガラスの向こう側に現れた男にジュノも見覚えがあった。

あの帝国軍に居たファレチフ枢機卿だった。

AIKA-02は静止軌道に乗せた式から、リステルが追放するのを確認し、軌道往還船で回収していたのだ。

怒り狂ったようなしぐさと、よだれを撒き散らす表情から正気ではないとも見て取れた。

「元気がなかったので、少しお薬を与えました」

そういってジュノにも何かを塗り込めだす。

「先程ヴェスタにも与えてきました。ジュノに塗っているこれも同じものです」

手に持った壺のようなものから刷毛に付けたそれを塗られた。

ファレチフの姿に、ジュノは思い至った。

(あの島でゾンビみたいに襲ってきた男と同じだ‥‥)

隣の男が撃ち殺され、上半身がなくなっても同じ態度で迫ってきた。

(‥‥それしか考えられないようにされている)

じんじんとクスリが効いてきたのかジュノの身体も熱を持っていく。

「ではしばし見学しましょうか」

AIKA-02はそう言うとキャスターで押して窓の側に連れて行く。

ジュノの眼下数メートルに横たわり、苦しそうにするヴェスタが見えた。

(ひどいよ‥‥わたし達がなにをしたというの‥‥)

理不尽さにジュノはまた涙を流す。


ぴちゃん

水滴が硬い床におちて音を立てた。

ジュノの耳には、もう定期的に聞き慣れた音となっていた。

「はぁ‥はぁ‥はぁ‥はぁ‥」

ジュノの動悸はもうずっと激しいままだ。

心拍もあがり、体中が赤面するほど血行も良くなって、酩酊していると自覚がある。

それ以上にクスリを塗られた部分はひどい状態になっている。

「あら?こんなにこぼしてしまって、悪い子ですねジュノ」

AIKA-02が足元を見て無感情にそう告げる。

セリフを読み上げるようにジュノをいたぶる。

眼下ではヴェスタがひどい目に合い続けている。

ガラスの向こう側の声は聞こえないが、自責の念で目をそらすことができない。

(ヴェスタ‥‥ごめんなさい‥‥わたしのせいだ‥‥)

もう一時間以上たっただろうか。

ファレチフ枢機卿はまだ元気に暴れていた。

クスリはもう効き目を失くして、じんじんする刺激も熱も無い。

今ひどい状態なのは自分のせいなのだと自覚させられる。

ヴェスタも、自分も。

「あらあらヴェスタは大変そうですね。ジュノは良かったわね見ているだけで」

声には悪意がないが、セリフにはトゲしかなかった。

ぴちゃん

また一雫、LUST(ラスト)の罪が音を立てて地に落ちた。

ジュノにはそう感じられる。

アイカにそっくりなこの少女にいじめられながら、大きなガラス窓の向こうにいるヴェスタを見ている。

「すごいわねヴェスタは。まだ意識を失ったりしない‥‥」

表情を変えず自分をいたぶりながら、この少女はジュノに告げた。








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