【第133話:誰がためにそれは成される】
「わかったわ‥‥貴女はそのままリステルを支援して。後は私が引き継ぎます」
「ごめんなさい‥‥」
「‥‥いいのよ。したいと思ったことをするといいわ」
「‥‥」
そうして通信が切れる。
AIKA-02はそう言うが、ヴェスタ達をどうするつもりなのだろう。
マナミはそんな心配をしてしまう。
ヴェスタ達を可愛そうと思う気持ちも、少し有る。
それ以上に、今自分が嫌だと思っていることをAIKA-02はするのだなと想像できた。
(どうして?)
マナミは未分化の疑問をもやもやと抱える。
どうしてAIKA-02は自分を許すのか、好きにしろと自由にさせるのか。
どうしてAIKA-02は自分にはできないと思ったことを成せるのか。
そもそもどうしてヴェスタ達に負荷をかける実験が必要なのかもわからなくなってきた。
(なにがしたいの?)
マナミの疑問はプロジェクト自体に、プロジェクトを起こしたものの動機にまで至る。
月夜をすべる快速のフリゲートの上で通信を終えるマナミ。
後ろにある寝室ではリステルが深い眠りについているだろう。
会話で起こしたりしないようドアを閉めてきたので、その気配は感じられなかった。
結局あの夜リステルの回りで起きたことは、あやふやなまま立ち消え話題にはならない。
結構派手な音や光を出してしまったはずなのに、貴族たちは自分達のプライドの方を優先したようだ。
リステルを貶めるよりも。
翌日以降もリステルを求める招待状が幾つかきていたが、全て領地に少し問題が出たのでと断りを入れ、出港してきた。
(恐らく‥‥)
マナミには想像できるのだが、自分がリステルを育てアヤンタ王国を強くすれば、いずれ帝国と戦争になるだろうなと。
それが自分を自由にさせる意味かとも想像した。
今の国力は1:10程も差があるだろう。
このままでは帝国が思っている通り戦争にすらならない。
リステルがいずれアヤンタを支配したらあるいは対抗し得るかもと思う。
(だから?‥‥ううん‥回りくどいんじゃないかな‥‥直接アヤンタ王国に支援した方が早い)
きいぱたん
大きな音を出さないよう気をつけてマナミは寝室に入る。
すやすやと寝ているリステルを確認し、ほっとするマナミ。
(‥‥いいか‥‥今はリステルを助けよう‥‥それが私のしたいことだ)
しゅると保護膜をしまうと、薄手の黒い寝間着に着替える。
先日リステルとお揃いで買ったベビードールだ。
今夜はリステルもそれを着ていたので、マナミもそれにする。
保護膜ですごすよりも温度を感じるから。
もそもそとベッドに潜り込むマナミ。
ふんわりとリステルの優しい匂いがする。
あたたかな体温を感じると、自分のせいでリステルが寒かったりしないか心配になる。
それぐらい暖かみを感じるから。
そうしていつものようにリステルの温度に包まれ、ぼんやりと身体を休めているとスリープしたい欲求がおこる。
(義体が休息を求めているのね‥‥仕方ないな朝までスリープしよう‥‥)
そう決めてタイマーをかけスリープに移行するマナミの頬には、ふわりと微笑みが浮かぶ。
心地よいぬくもりの意味を想いながら。
AIKA-02は行動を起こす。
今が絶好の機会なのは確かなのだからと。
(AIKA-03は‥‥幸せをかんじているかな?)
リステルと接触してからAIKA-03は間違いなく変わっていった。
日に一度は連絡を取り合ってきたので、その変化はAIKA-02にもよく解った。
おそらく本人以上に理解している。
(‥‥リステルを好きなのだわ‥‥損ないたくないと思っている)
胸に手をあてて、目を閉じてみるAIKA-02。
そこには何も響くものがない。
答えるのは実感を伴わない理解。
感じたことのない感覚を言葉でなぞっているだけだった。
AIKA-02の式もマナミのものと同じ重力制御式で静止軌道にもいるし、各国の上空にもヴェスタ達にも付けている。
総数は6でマナミと同じだが、操り慣れているのはAIKA-02の方だろう。
この星系にきてからずっと式を操作し、ヴェスタ達を監視してクライアントの指示通りにしてきた。
結果が伴っても伴わなくても依頼元の反応はない。
『よくやった』とは言われないし、『ダメだな』とも言われない。
毎日のようにAIKA-02はちょっかいを出しているのだが、大抵うまいことクリアしてしまうヴェスタ達。
とても回りくどい作業だとAIKA-02は思うのだが、それも含めた必要なのだと思うことにしている。
そうでなければ、AIKA-02達を派遣する意味がない。
(負荷に対する変化を‥‥前後の差分を欲している?)
AIKA-02は本質に近い立場にいるので、そこまでを想像してしまう。
ただ進化したAIのコードがほしいのなら、こんな回りくどいことは必要ないとも想像できる。
自分に直接指示をくれるあの紳士の、優しい声には何が含まれているのかとも考えた。
AIKA-02の式がヴェスタ達の上空で待機する。
マナミの式はもう引き上げてここにはいない。
それなのに上空には3機もの黒い式が居る。
すべてAIKA-02の式だ。
AIKA-02のあやつる式はここに半分居るとも言える。
それくらい力を入れているのだ。
式が高度を落とし、光学迷彩をかける。
それは魔法式を伴いAIKA-02が発する光魔法結界。
透明になった3機の式はホテルの中にまで侵入していく。
詳細な建物の情報を得ているのだ。
ヴェスタ達が明日の夜も宿泊することは、マナミからも報告を受けていて知っていた。
結構は明日の夜とAIKA-02は決めている。
さり気なくアルコールを勧めるように、ホテル側にはたらきかけている。
闇魔法にある精神操作をやんわりと広域に仕掛けているのだ。
ヴェスタ達には飲みたいと欲求を増やし、ホテル側は売りたいと欲求を増やす。
強制力は小さいが、広域に式を通じて仕掛けているので、効果は出ているようだ。
昨夜はジュノだけが飲酒したようだが、このまま続ければ全員酩酊状態にすることも可能だろう。
今夜危険を犯してまでホテル内まで式を入れたのは、さらに魔法を浸透させるため。
そして明日確実にジュノとヴェスタをさらい、クライアントの指示をこなすのだとAIKA-02は決める。
マナミにさせないのは、今苦しいと感じる自分を守るため。
AIKA-03に自分をかさね、幸せだろうと心の安らぎを得る。
代償行為なのだ。
(つまり自分のためなのだわ‥‥)
AIKA-02の思考はそうしてバランスを取るが、心のうちはどんどんと冷え込んでいく。
凍土の奥底に封じられるように。




