【閑話:届いて欲しいと願うもの】
挿絵を修正しました。(すこしだけ色を塗ったようです?!)
「今回の計画ではなにが得られるのかしら?」
人形のような容姿をもった少女が尋ねる。
赤いドレスに包まれ金色の髪を綺麗に左右に分け垂らしている。
ピンクの小さな唇は笑顔を描いていた。
「螺旋の動きでかたちを成す‥‥それは見る角度でかたちを変え、受け止め方でもかたちを変える‥‥得られるものもまた姿を変えていく」
答えるのは黒いモーニングを着こなす紳士ヴェルニアス。
とても身体が大きく5mはあり、少女は片手で支えられ胸元に座っているのだ。
二人が見下ろすガラスごしの実験ブースで、黒い影が蠢いている。
それは先の謁見に際し、王を縁取り飲み込もうとした影。
いまだかたちを成せないそれは集まり、うずくまり震えていた。
円形の実験設備は間接照明の無機質な白で照らされる。
どうゆう技術なのか、たゆたう影は地に影を生まない。
そうゆう物質なのか、そのような照明なのか。
長い機械の腕が伸ばされ、先端に青い光りが生まれる。
恐ろしい速度でアームは動き、青い光が空中に軌跡を残す。
それは文字のような帯のような形を描きプリズムに輝いた。
青白い火花をあげて影がその帯に結ばれていく。
「呪文でしばるのね?」
赤い服の少女は無表情のまま唇だけが動き、言葉を紡いだ。
言葉には何処か責めるような響き。
モーニングの男はじっと微笑みのまま影を見下ろしている。
まるで呪文の帯でくるみ形を整えようとしているような動きを見せる影。
「魔を帯びし影が集い、形を成す‥‥その先に我が君の求めし世界は有る」
王を呼ぶ瞬間だけヴェルニアスの声に感情がこもる。
焦りだった。
決して慌てたり急いたりはしないこの巨人が焦燥をにじませる。
「急がねばなりませんね‥‥」
彼の王にはそれほど時間が残されていないのだ。
王の敵は強大なその力を恐れ、捉えた際に封じようとした。
王そのものを封じたり、損ねることは彼らにはできなかった。
彼らは王を本質的に理解できていないから。
わからないものを失わしむる事はできなかったのだ。
そこで、彼らでも理解できた王の力に目を向ける。
その強大な力は目にすることができて、理解も少しは可能だった。
彼らは霊子という新しい概念を、彼等らしく理解し操った。
「愚かな者共が尊い、かのお方のお力に踏み入る‥‥許されないその行為は、確かに王を損ねる」
ヴェルニアスも少女も長い長い時の果てにここに至っている。
その時の彼方で彼らの敵は幾つもの過ちを犯した。
それらを見ながらここに至ったのだ。
「かれらは制御できないものを使うものね‥‥理解も不十分なままで‥‥」
人形のように無表情な少女はとても情感豊かに声を紡ぐ。
そこにこめられた感情は『あわれみ』。
少女は敵とするモノにも憐憫を向ける。
少女が情け深いのか。
彼らがあまりにも愚かなのか。
実験室の影は姿を無くし、プリズムの呪も溶けて消えた。
ただ白いだけの部屋が残った。
まるで結果を知っていたかのように、少女もヴェルニアスも表情を変えない。
立ち去ろうとする大男に少女が希う。
「‥‥おろして」
実験室に背を向けたヴァルニアスが足を止める。
「何か感じたのですか?」
ヴァルニアスが微笑みのまま視線は向けずに問う。
人形のような少女は何も言わず、動きもしない。
今まで唇が動いて話しているように見えたのが幻であったのかと言うように、ただの人形のように男に抱かれている。
ヴェルニアスはもうかなりの年月をこの少女とすごしているが、何かを希望されたのは久しぶりであった。
そっと右手を動かし、実験室に向けて少女を立たせる。
手を離しても倒れたりはせず立ち続ける。
まるで人形のように動かず、語らず立ち尽くす。
少しの間だけその姿を見つめて、振り返るヴァルニアスは微笑みのままに部屋を去った。
残された少女はガラス越しに残ったなにもない部屋を水色の瞳に写し立ち尽くす。
まるで空間に固定されているかのように微動だにしない、人形のような少女。
つうと少女のアイスブルーの瞳から透明な雫が落ちる。
それは何に向けられた物で、どんな意味を持つのか。
何も語らない少女からは読み取ることはできなかった。
表情も変わらず、ただ涙だけが一雫落ちた。
白い光の中に何を見ているのか、そっと少女が言葉を落とす。
「届いて欲しい‥‥今度こそ‥‥」
表情も身体も動かない少女の声はとても多弁だ。
こめられた想いは哀惜。
かつて届かなかった想いにセルミアは涙を添えたのだった。
白い光の向こう側に。




