【第129話:えまーじぇんしーれすとらん】
リステルは、想定したよりも大分早く仕事が片付いてしまい、マナミとの待ち合わせに時間を持て余した。
チラと空を見るが、もちろんマナミの式が見えたりはしない。
(今は見てるかな?)
マナミの方からは見えているかなと、上を見たのだ。
なんだか見守られている気分になれて、くすぐったい嬉しさがあった。
(晩餐はあまり食べられないかもだしなぁ‥‥いっぱい食べておこう)
本来は海戦の英雄として遇されるところだろうが、面白くないと思う人だらけだろうとも想像できた。
今のリステルの王国での味方は、線のうすい男爵家と、気分次第の王様だけだ。
(せいぜい色っぽい格好していくかぁ‥‥はぁ)
リステルは自分の容姿をそれほど評価していない。
たまたま珍しいと興が乗ったのだろうと王の事は考えていた。
練度が高く技術があると言うわけでもないし、子供っぽいからイヤだとすら思っていた。
(‥‥ヴェスタさんはすごかったな‥‥大人な感じだった)
ちょっと思い出して憧れるリステルだった。
そうして色々と作戦のようなものを考えながら、レストランに到着する。
マナミが調べて予約を入れてくれたのは、その名もレストラン『マヤカラン』。
街の名前を冠するレストランだ。
こじんまりしているが、老舗で評判はいいと、ちょっと興奮して説明するマナミが可愛かった。
(マナミって好きなこと話す時ちょっと早口になるのよね‥かわいらしいわ)
にこっと笑いながら入店すると案内のボーイが付く。
名乗ると態度を改めて、こちらですと先導された。
店内はランチが近いので、満席ではないが、それなりに埋まっている。
(この街では色が付いてるだけで下に見られるんだよね‥‥仕方ないのかな?)
リステルはそれでも比較的色のうすい肌だが、男爵家始め王城でも一段下に見られているところがあると気付いている。
男爵家の名代として先日は入城したので、それなりに扱われるのだが、メイドや小姓にすら下と見られている雰囲気だった。
王城にいた家人はもれなく白人だったのだ。
立ち並んだ貴族も9割、軍人も6割は白人だった。
謁見した時はたいした人数ではなかったので、今日の謁見やその後の戦勝パーティが面倒ごとの本番だろうなとも、リステルは覚悟している。
店内に入ると、夜はお酒も出すのか、バーカウンターもある大きなフロアに出る。
テーブル席も何脚かあり、そこはすでに満席だった。
リステルは奥の別のフロアに通される。
(案内の人も店員も見える範囲は白人だな‥‥なるほど)
マナミが一番いい席を取っていたようで、リステルはそれなりの中でも丁寧に扱われる。
奥に進み行き止まったエリアに、個室ではないがパーテーションで仕切られた単独のテーブルにつれてこられた。
カジュアルなお店なので、椅子を引かれたりはしないので、自分でここがいいなと選んで座る。
上座となる位置なので、いよいよこれはと丁寧に扱われ、飲み物もアルコールを出された。
小さなグラスに注がれたピンク色のお酒をちびちび味わっていると、マナミもすぐに現れた。
(ふふ、みてたのかなぁ)
さっきの上をみた仕草で気付いたのなら、うれしいなとリステルは思った。
マナミと料理を選び終えて、改めて出された食前酒でカンパイしていると、マナミがふと動きを止めた。
リステルも気付いたが、反応があるまでは見守ろうとじっとマナミを見つめる。
「‥‥まずい‥‥です」
青ざめたマナミがリステルを見る。
「ど、どうしたの?」
「あの子達もここに入る気です!」
「ええ?!どうしよう‥‥」
困り顔の二人が見つめ合う。
「みて‥‥マナミ。あそこに予約の札が出ている」
リステルが壁際からパーテーションの向こうを指差す。
今いる大きな部屋の反対側にあたる4人がけのテーブルに、このテーブルにもあってリステルが来た時に下げられたリザーブの白い札がある。
見渡した限りではそこにしかないので、予約してきているのならそこだろうとリステルはマナミに教えたのだ。
「こ‥‥これくらい距離があったら‥‥ばれないんじゃない?」
「そんな‥‥どうしよう‥‥」
リステルがはっと思いつく。
「そうだ!マナミもこっちに来て隣に座って!そしたらパーテーションもあるし、見えないよきっと」
ちらちらと上を見たり奥を見たりと挙動不審のマナミ。
式の情報も見ているのだろう。
「あぁ‥‥ダメだ、やはりここに入る気だ」
するりとリステルの勧めに従い右隣のベンチ席に移るマナミ。
先程グラスとカトラリーをカゴで置いていく時、向かい側に並べられていたので、いかにも不審だ。
気付いたマナミが素早くカゴとグラスを取る。
これではまるで、隣のほうがいいと移動した子供か、仲のいい恋人のようである。
そこに思い至り、かあっと真っ赤になるマナミは俯いてしまう。
ちょうどスープが運ばれてきたが、その後ろに三人娘達が案内されてくる。
「マナミ‥‥」
リステルがぎゅっと胸に抱き寄せてマナミの顔を通路から隠した。
今日のリステルは船員と同じ白地にブルーラインのセーラー服。
小柄な少年にも見ることができて、文官女子服のマナミと恋人にも見えた。
リステルも少しマナミを向いて通路側に背を向けた。
これでふたりとも顔を見られずにすんだが、スープを運んだ店員には、呆れたような顔をされてしまった。
「リステル!なんてことするのよ!」
恥ずかしがるマナミが真っ赤になってぽかぽかする。
「ごめん、だって丁度あの三人が来たんだもの」
マナミも気付いて、チラと奥をみた。
それにしても恥ずかしすぎると、まだ真っ赤なトマトみたいになってぽかぽかしていた。
「店員さん見てったよ!クスン」
そこではっと気付いたマナミ。
ぽかぽかの手を止めて、リステルをじいっと見る。
(リステルはあの三人と顔見知り‥‥悪い関係で別れたわけではない‥‥私の容姿だけ見られなければ油断を誘えるのでは?)
リステルは不審そうに見つめてくるマナミを見ている。
(‥‥都合はいいけれど‥‥リステルを悪者にしてしまう‥‥)
すうと顔色が戻り眉を下げるマナミ。
使命を果たすのに丁度都合はいいが、それをマナミはしたくないのだ。
リステルはマナミといる時に、観察力や推理能力をマナミに向けない。
向けたくないと思っているのだ。
考え出した理想のリステルでは無く、素の自分でいたいと思うから。
(一人づつ誘い出させれば‥‥)
そして今マナミは迷いの中で思考を巡らせていくのだった。
その思考にはリステルが気づかないのに。




