【第128話:三人と二人とマヤカラン】
首都マヤカランにある高級三つ星ホテル。
周辺国や帝国にまで名の知れたそのブランドホテルのスイートには、大きなダブルベッドが2つ並んでいた。
寝室がもう一つあり、全部で3つベッドがあるのだが、2つは使われずに朝を迎えた。
4-5人寝られそうな大きなベッドの真ん中でアイカはスリープから目覚める。
解っていたことだが、むくりとは起きられない。
両腕をジュノとヴェスタに抱かれているから。
(ふむ‥‥スイートには就寝スペースがこんなにも準備されているのに、理不尽を感じるほど狭い)
むにむにと両側からせまる肉は柔らかく温かい。
そしてアイカに許されたスペースはちょうどアイカの幅だけだった。
それをにこにこしながら、せまいなぁと文句を思い浮かべるのが、最近のアイカの目覚めだ。
ちらちらと左右をみればジュノもヴェスタもどこか幸せそうな寝顔。
ヴェスタはよだれが垂れている。
アイカは今日の予定も考えて笑みを深くする。
(昨夜仕入れた情報で図書館があると聞きました。とても楽しみ‥‥)
ジュノとヴェスタは服屋とか雑貨を見て回ると楽しそうに話していた。
アイカもちょっと洋服は見たいなと思ったが、図書館の魅力には勝てない。
(‥‥あの日この星に落ちてから、ここまで来たんだ。二人にとっても楽しい旅行になるといいな)
それがアイカの一番の望みだった。
ヴェスタとジュノは仲良く出かけていき、アイ03とアイ04も連れて行った。
二人の腰にプランとぶら下がり、連れられていった。
アイ01とアイ02は式神に入れて、上空から街を見張る。
01はジュノ達の上空に、02はアイカの上空にあり、これから図書館まで護衛してくれる。
お昼は合流してレストランで待ち合わせしていた。
アイカの腰にはアイ01と02がプランとぶら下がる。
よしよしと撫でてあげてから、楽しそうにアイカも歩くのだった。
歩きながらも、ジュノ達の進路も、アイカの進路も拡張マップに表示する。
同じマップをジュノもヴェスタも見られるので、こうしてお互いに離れていても何処にいるか、知ることができる。
この安全保障ともいえる監視があって、始めてヴェスタは単独行動を許してくれる。
最近は少し良くなったが、最初はジュノと手が離れるのすら嫌がったのだ。
あれほど互いを大事に思いあい、同じレベルの親愛を自分にもくれる。
いい主人に出会えたのだなとAIのアイカは思考する。
アイカはただただ二人が好きだなとだけ想うのだった。
図書館は意外と近代的で、鉄筋コンクリートで作られたなかなか立派な建物だった。
「おぉ‥‥これは期待できるのでわぁ」
アイカはご機嫌になりドアをくぐった。
アイカの式神は高度2000m付近で旋回して、真下のヴェスタ達とアイカを見張る。
そのさらに8000mほど上に似たような大きさの式が浮いている。
マナミの式だ。
万一アイカの式神が上空に意識を向けても発見することは難しい。
距離もだが、ステルス性能が高く電磁波も重力波も大半を吸収し姿を見せない仕様だ。
光学的にもコストをかければ隠すこともできるが、今はその黒い姿を見せている。
式神と違い重力制御だけで動くので、噴出ノズルも給気口もなく、つるりとスマートだ。
同じ式が赤道上空の静止軌道にもいて、そこからはこの星の陸地を大半監視できる。
「ご丁寧にありがとう存じますわ」
今日のマナミは文官の制服に身を包み、ウルヴァン男爵家に来ていた。
応接の向かいに座るのは落ち着いた紳士。
先日リステルから金貨20枚で妹たるウルヴァン男爵を買い付けた男だ。
本日の訪問要件は担当者として新任の挨拶をと告げた。
「こちらこそお見知り置きを、なにかお困りのことがあればお申し出くださいと、リステル様にもお伝え下さい」
頭は下げないが、十分丁寧に扱われてマナミは男爵家を後にする。
もう最初に待たされた時点で目的は達していた。
式ほどしっかりした仕組みではないが、自立移動可能な小型の偵察ユニットを1台仕込んできていた。
今ちょうどリステルの妹の部屋までたどり着き、天井の模様に同化して隠れたところだ。
自分でレーザーを操り小さな穴を天井に開けてそこに本体を潜り込ませ、そとには直径5mmほどのカメラだけをだした状態になる。
音も拾うので、会話も聞くことができた。
これで最低限の保証を妹にもしてあげられたと、マナミは思う。
今マナミは式を4台中2台街の捜索に割き、ヴェスタとアイカを監視してもいる。
ちょうど二人と一人に別れ、目標のジュノとヴェスタだけが歩いている。
マナミは文官の灰色の制服内側に保護スーツも付けているし、魔法も使えるので、やろうと思えば今でも拉致することができるだろう。
(抵抗される前に意識を奪ってしまえばいいわ‥‥できれば一人になってくれるとやりやすい)
ヴェスタ達の泊まったホテルを調べてあり、3泊の予定と確認済みだ。
この後一度リステルと合流し、午後から王城に出仕するので、お昼を食べてから行こうとレストランを予約してあり待ち合わせしていた。
マナミもあまりこの街に詳しくはないので、船長おすすめのお店だと聞いたレストランだ。
リステルは手早く水夫への補給指示や、仕入れに行く文官への指示を出し終わらせていた。
早々にレストランに入ったと知っているので、マナミも向かう。
(海産物をメインにしつつ、山の恵みやマヤカラン名産の牛肉も取り扱うと聞いたわ‥‥たのしみ!)
マナミは実はかなりグルメで、この地上に来てからだが美食を楽しみとしている。
先日この街に来たときは王城でしか食事をしていないので、民間の食べ物を食べたいと思っていた。
(街グルメにはそこにしかない風情があるのだわ)
そんなことを思いながら、ちょっとうきうきとリステルのもとに向かう。
今日のリステルはセーラー服で可愛かったなとも、にこりと思い出していた。
(リステルはスタイルもいいし、顔も可愛らしいから何を着せても似合うのだわ)
今度おそろいの服を着てみたいなとも想像するマナミ。
自覚無く、何かに追い立てられるかのように、今を楽しんでいた。




