【第126話:これからの二人】
マナミと夜に話し合ってから、3日たった。
素直に気持ちを伝え合ってから、なんだか顔を合わせるのが恥ずかしくなる二人。
マナミの話していた仕事は今すぐではないから、暫く側を離れることもないと頭を抱きしめられて言われた。
マナミには一つ仕事を頼み街に出てもらっている。
リステルは領主として優秀さを順調に発揮する。
前任者の評価が悪かったのも手伝い、領民も協力的だ。
今は帝国艦隊のせいで色々と街の住人達が苦しい時期でも有ったので、支援を出しやすかった。
理由のない支援は裏で不信感を育てるが、理由が有る支援はとても評価につながりやすい。
この支援の中で自然に技術を与えていく。
最初は分かりやすい部分に、分かりやすい技術を投入する。
農地に対しては、すぐに取り組める肥料などの対応と、新しい価値ある品目を教える。
漁業関係には造船技術や航海術の基礎を渡す。
沿岸以外に出れなかった船を遠洋に出れるようにし、その運用までを仕込む。
他にも主業のほかに簡単に行える副業を各業界に広める。
農業なら今まで処分していたようなものも、試料になるように増産させる。
放牧業のものには繁殖の知識や、家畜の糞尿からも肥料やバイオ燃料を生産させる。
商業関連には新しい税法と、その利用方をこっそりと教える。
100年先の近世技術ぐらいで十分にチートだった。
リステルの中には数千年先の技術があるのだ。
出し惜しんでも十分に効果があった。
おそらく任期2年のうちにこの島だけ別の時代になる。
軍事に力を入れるのはそれからだろう。
その後は南方植民領地を政治的・経済的に切り崩し、同様の発展を遂げれば次の2年までに本国の国力を越える。
マナミの要望に答えるのはそれからだとリステルは考えていた。
リステルのたのみとは人探しだった。
行方の知れない母親リーシャを探して欲しいと、頼まれた。
自分でも探したし、人を頼んだりもして探していたようだ。
ただ、リステルのすごいところは心で求める母の行方よりも、理性の定める道を選び取って来たところだろう。
その果てに今、マナミと共にいる。
(‥‥まぁ異常だとも言えるのだけれど‥‥なんとかしてあげたくもなるのよね)
マナミの手持ちにはアイカの式神のように自由に動かせる式が4機ある。
一機は常にリステルに付けていて、上空から監視と護衛に当たっている。
マナミの式はティア9相当の性能で、重力制御だけでアイカの式神と対等の動きをできる。
各式に融合炉を内蔵しているので、充電や充塡の手間もない。
一機は実は静止軌道にいる。
これはヴェスタ達の動きを知り、さらに帝国から王国までを視野に入れている。
さすがに100メートル単位の精度になるが、ヴェスタ達の現在地は把握していた。
リステルの上空の機はmm単位の精度でリステルを見張っている。
そして一機は自分の上空に常にあり、護衛としている。
最後の一機と自分の護衛機を割いて、今リーシャを探していた。
マナミの式2機と自分で半日探し回り、この大きくもない街は調べ尽くしてしまった。
たかが人口15000人程度の街、隅々調べてもこの時間だった。
(居ないということだわ‥‥‥‥もしくはすでに死んでいるか‥‥帝国に連れ去られた‥‥)
ウルヴァシャックの街にも帝国軍は来て、好き勝手に略奪していた。
リステルの容姿を見れば、似ているという母リーシャも美人であろう。
連れ去られた可能性が高く、マナミは知っているがヴェスタに脅され、帝国は全ての捕虜を解放している。
残る可能性は死亡か、すでに帝国に送られたか。
(‥‥きっとリステルは淋しそうな眼をするわ)
この報告を持ち帰るのも憂鬱だと、ぶらぶらしているマナミだった。
マナミの服装は堂々と保護スーツをまとっている。
さすがに外部装甲は自機に置いてきているが、この状態でも式が2機いれば誰もマナミを害することはできない。
ヴェスタ達が3人でかかってきても、油断しなければ負けないと自負している。
(まぁ‥‥一度もどるかな‥‥午後には戻ると言ってあるし)
そうしてマナミは自覚無く、ほんのりと微笑みながら領主の館に戻るのだった。
リーシャの件を報告すると、予想通りリステルはふっと淋しそうな悲しそうな眼をしたが、「ありがとう」と微笑んでマナミに礼を告げた。
午後は二人で少し今後の打ち合わせをして、リステルは住民の支援に積極的に過ごした。
現場まで足を運ぶのも嫌がらず、自分の人受けする容姿や笑顔も手段として使う。
服装も整えて白を基準に青い差し色を入れて、トレードマークとしたようだ。
その作戦は功を奏しており、出歩くだけで、遠くからでもお辞儀をしたり手を振られたりと人気の程が知れる。
その姿を他の民や商人が見て話題にする。
そうしてリステルという優秀な領主が居て、この街は良くなっていくのだと噂になる。
どんどんと他の村や町から人を集めているのだ。
この街の土地的キャパシティはまだまだ先にあるので、集約して効率をあげたいのだった。
マナミもアドバイスはしているが、こういった細やかな作戦はリステルの天賦の才であろう。
領主の館は一番に手を入れて、趣味の悪い前任者の気配は速やかに一掃された。
務めている事務方は比較的まともなものが多く、リステルの文官としての見地に心酔もしていた。
護衛の兵達は良いものが少なく殆どが犯罪者みたいなものだったので、追放か海軍に入るかを選ばせた。
海軍といっても船が7隻しかないのだが、船員も航海士も艦長もすべてリステルに主人として惚れていた。
それくらいリステルは有能だし、公平に皆に接した。
海軍ではまだまだ今後も船を増やすから、水夫や水兵を育ててもらうよう頼んでいた。
領主の館の一階は半分が事務所で残りも主に行政関連の施設だ。
2階は今まで兵舎のように使っていたようだが、ここもリステルが政治向き行政向きに使っている。
そして3階はリステルが個人的に使うスペースと決めていて、ここに10名程の少女を預かり育てている。
将来の淑女であり、今はメイド見習いのようにして礼儀や作法を学んでいる。
教師として本国からメイド長になるべく一人スカウトしてきていた。
3階の一番奥でかつて領主が寝室にしていて、破壊の嵐にさらされた部屋を直し、自室としていた。
ここには浴室や水回りもあり、部屋も広く2階の屋上にでるテラスとも隣接していた。
このスペースをマナミとリステルで使っている。
リステルがどうしてもと言うので、ベッドはダブルで今も一緒に寝ていた。
常夜灯だけの薄暗いベッドの中で、別に抱き合ったりはしないし、手を繋いだりもしないのだが、確かに側にいると安心して二人はすごす。
マナミはアイカと違いスリープしたりしないので、意識を途切れさせないが、身体は眠ったように休める。
「ねぇ‥マナミ?」
割と毎日こうしてリステルは寝るまでずっと話したがる。
「なぁに?」
「多分もうすぐ首都にまた呼ばれるじゃない?論功行賞があるものね」
この時間をマナミも好ましいと思うようになっていた。
「そうね‥‥おそらく王家としては急ぐでしょう。帝国から何か発表がある前に大勝利と宣言したいでしょうから」
アヤンタとヴァルサール以外にも小さいながら国は有るし、情報は商人たちによって噂として広がるだろう。
「また一緒に行ってくれる?」
そういって顔を向けてくるリステルは、年相応の頼りなさと、可愛らしさを見せる。
(‥‥なんて素直な顔するのかしら‥‥私だけに見せるのもずるいわ)
マナミは薄暗くて良かったなと思うくらい頬を染めてしまう。
今はリステルに光があたり、マナミの顔は影に隠れていた。
「もちろん行くよ。男爵家にも一度行きたいから、使者として派遣して。マイクとかカメラとか色々仕込んでくるわ」
リステルは約束したように家宰にまかせ、口出ししない気でいたのだが、甘いとマナミに指摘されて対策するとも言われた。
「うん‥‥妹には幸せにとは言わないから‥‥不幸にならないで欲しいと思うの‥‥」
もう眠そうにしながら、リステルはそう言う。
「解ったわ‥任せて」
マナミがそう告げると、安心したのか眼を閉じる。
しばらくすると寝息も聞こえてくるので、寝たのだとマナミはほっとする。
(‥‥なんだろう随分私は変わってしまった気がするわ‥‥リステルのせいだわ)
そんな事を考えながら、色々とAIとしての時間潰しのような作業を夜通しするのだが、ふとするとリステルの事を考えて時間をすごすマナミだった。




