【第12話:日常の中にきづいたこと】
拠点までジュノとヴェスタで船を運ぶ。
この星はとても満ち引きが大きく、うっかりすると流されてしまいそうで心配したのだ。
陸上を運ぶ練習にもなる。
二人で逆さにして頭上に持つと、意外にバランスよく運べた。
「この印のところに取っ手を付けますね!」
並走するアイカが息を弾ませながら言った。
「うん、いいね持ちやすくなる‥‥指が入る穴を開けるでもいいかも?重量を増やすこと無いし」
ジュノの意見になるほどと感心するヴェスタ。
「ジュノ天才です!それで行きましょう。明日までには仕上げますよ」
アイカもジュノを褒めた。
ここにきてからずっと天気は安定していて、風もおだやかだった。
今日も沖の方を大きな積乱雲がいくつか流れていくが、島には近づかないようだ。
大体毎日決まって夕方に雨がざあっとくるが、スコールなのだろうと考えた。
あっという間に上がってお天気にもどるのだ。
本船内に戻って早速二人でデータを確認。
アイカは晩御飯の準備に作業小屋に行っている。
「音響のデータもちょうだい‥‥統合するわ」
ヴェスタの指示でジュノが端末操作。
この船の端末は操縦関連と戦闘関連以外は立体モジュールを使う。
例のつんつんだ。
ふたりでつんつんくぱすいと操作して、調査データから色々な映像を引き出していく。
ソナーや映像データから、かなりクリアな海底の様子が立体で描かれる。
縮小された小舟にはちいさなジュノとヴェスタのプチ人形が乗っていてかわいい。
「一定の斜度じゃないね‥‥対数のグラフ?急に斜度が増している‥‥」
ジュノの視線は沖合を捉えている。
「綺麗な斜面なんだけど‥‥そこいらから急に深くなるね」
沖合1kmほどで急激に深くなる縮小モデルをゆっくり回転させるヴェスタ。
横向きにして右から左に深くなる様子を確認できた。
近似値のグラフが添えられ、y=log₂xと式が添えられた。
「海溝だとしては‥‥島にちかすぎない?規模もおかしい気がする」
ヴェスタの学習している海洋の知識に類似のデータがなかった。
「‥‥そっちにはいかないから‥‥あまり気にしないほうがいいよ」
ジュノが言う通り目標は南東の島で、今日調査した北東方面には行く予定はない。
じっと考え込むヴェスタの腕をポンとして、ジュノが促す。
「さっきの生き物も見てみようよ」
にっこり笑うジュノに力をもらうヴェスタ。
「うん、サメみたいなものだといやだなあ」
大抵の海洋で食物連鎖の頂点は大型の海棲哺乳類か魚類などだ。
星によってはそういった常識が通用しないことも多々ある。
50mを超えるサメがうろちょろする海もあるのだ。
「事前調査のデータでは85~88%が海洋とだけ報告あるね」
ジュノが添付された事前調査のデータを読んでくれる。
ヴェスタの感想には不安そうなニュアンス。
「ほとんど海なんだね‥‥」
「そうだね‥‥積んできた機材も半分くらいは本来海中用の機材だったよ」
「あぁ‥‥」
色々あり今回持ち込んだ開拓用の機材はほとんど使えていない。
「ん、映像できたよ」
音響データに推測まで交えた動画が再生される。
「‥‥これ‥‥なんだか美味しそうな形だわ」
ヴェスタの表現は食いしん坊な雰囲気。
「マグロっぽいね?!」
母星で取れるマグロに似た形で、するりと船の下を通り抜けた魚影。
拡大してみると、ぽってりしたシルエットがぎらりと銀色に光った。
「油も乗って美味しそう‥‥」
「ヴェスタそんなにマグロ好きなの?」
「あ‥‥うん‥‥時々ご馳走の時にでたよ。ステーキになってでてきた」
真面目な表情で話す内容じゃないんだけどなと、ジュノは微笑みながら心配になる。
沈みがちになるヴェスタのために楽しそうに話すジュノ。
「美味しそうだね、捕まえたら是非ステーキにしよう!」
あはっと笑うジュノに、ヴェスタもぎこちない微笑みを返した。
作業小屋に移り、アイカの晩御飯の匂いをかぎながら明日の準備を進めるジュノとヴェスタ。
「明日の持ち出しはこれでいいね」
話しかけながら、ジュノがバックパック用の小型コンテナに保存食を詰めている。
2人分なので、2本作ってくれている。
「うん、一泊だしね。こないだの北に行った感じでいいよきっと」
ヴェスタも手は止めず返事をした。
薬品と治療キットに寝具にもなるシェラフを、ヴェスタも丸めて同じコンテナに詰めている。
この10✕10✕30cmのコンテナは、二人の外装ガーダーの背部にマウントされる。
食料の方は空になるので、帰り道では採取したサンプルを詰めてもどる。
同じ様に小分けにしたコンテナが一人4本固定できるようになっていた。
素材は木で出来ているので、強度はそれほどないがとても軽い。
開けしめのギミックはよく工夫されており、断面が長方形に閉めてから押すと、正方形まで縮んでさらに体積を減らせる。
衣類はその様に収納するとエアーを横から吐き出す仕様だ。
ふたりとも着替えのコンテナも一つ積む。
「ごはんですよぉ」
『はぁい』
アイカによばれて作業をとめた二人が、匂いに引き寄せられていった。
アイカの作った晩御飯を作業小屋の入口付近に設置しているテーブルセットで食べる。
今夜は奮発してハンバーグだった。
「おいしそう!」
「アイカ上手ね」
ジュノとヴェスタの評価にえへへとなるアイカがエプロンを外し、自分も食べ始める。
このテーブルはヴェスタの作品で、木工作業台で丁寧に作った。
趣味ですこし装飾も彫り込んだので、なかなかの仕上がり。
ニスのムラもなくこのまま販売できそうなレベルだ。
「このテーブルはヴェスタが作ったのよね?上手だなぁ」
「うん、ありがとう」
頬を染めるヴェスタがちょっと綺麗に微笑んだ。
それだけでもジュノは嬉しくてほほが緩む。
「ジュノのつくった椅子も丈夫でいいですよ!」
アイカの評価は実利を取る。
「あはぁ、でしょお?」
そうしてにこにことした二人と食べると、何を食べてもおいしいなとヴェスタも感じた。
(あぁ‥‥きっと私は今幸せなのだわ‥‥この二人が側にいてくれるのが嬉しい)
そう感じるのだが、それが心に響かないヴェスタ。
理性でこれは幸せなのだと定義してみても、心からそれを感じ取ることが出来ない。
原因が生まれのせいなのか、育ちのせいなのか、思い浮かべてもヴェスタには解らなかった。
どちらもろくなものではなかったのだから。




