【第123話:たどり着いた二人】
帝国討伐艦隊が一時解散となり、植民領地のウルヴァシャクの街に戻ったリステルは、最初にお宝を開封した。
拿捕した中型の輸送船は旧式で、船体の痛みも酷かったが、沈まずにちゃんと曳行されて届いていた。
2隻の内一隻は、予想通りという内容。
食料と資材がメインで、ところどころに財宝が隠してあった。
各街々を占領した際に接収したお宝だ。
量は大したことはないが、価値が高そうで日持ちしそうなものを選んであった。
主に金貨や装飾品である。
絵画や美術品は壊れたり、劣化を恐れていたのか数点しかなかった。
油紙等で厳重に封印されていた絵画には、国宝級の大物もあった。
食料や資材もとても助かるので、この一隻は大当たりだった。
そして2隻目を開封したリステル。
「な‥‥なんなの?これは‥‥」
大半は食料品だったが、一部に鉄格子に詰め込まれた罪人風の者たちが積み込まれていた。
服装をみれば聖職者に見える。
それは、上手いこと戦死してくれないかな?とシャラハ提督にしこまれたシュレトフ教会の枢機卿ファレチフと、その仲間達であった。
幸いアヤンタ王国の公用語は、帝国と同じものなので言葉は通じた。
「これとはなにごとか!これなるはシュレトフ教会の枢機卿ファレチフなるぞ!」
と小さなリステルに奢った枢機卿はまた勘違いのえらそうな態度を取ってしまった。
「‥‥捨ててきて」
そう船員に告げて去ろうとするリステルが、この場の責任者とみて、急に卑屈になるファレチフ。
「いや!まてまて!わたしは枢機卿だぞ?教会が身代金を出すし、帝国からも恩義を引き出せるぞ!」
ぎゃんぎゃんと煩いので、振り返るリステル。
「いらない」
一言で切って立ち去ってしまう。
輸送船の船底からは怨嗟の声が流れてきていたが、リステルはこの街で帝国軍が何をしていったか詳しく報告を受けていた。
その結果は彼らに同情すべき点は一つもないと告げていた。
ぼろくても輸送船は直して使えるし、食料はいくらあっても困らない状況であった。
場合によっては現状なら本国や他の植民領地に、高値で売りさばけるかも知れない。
食料品は今かなりレートが上がっている状態だ。
船員に指示し、沖合でボート一隻与えて送り出した枢機卿とかいう害悪の事はすぐに忘れてしまうリステルだった。
そうしてリステルが戦後処理を進めていく中で、マナミは与えられた公館の一室で通信していた。
霊子通信による通話をAIKA-02としていた。
最初は一通りマナミからの報告をして、わりと順調ですと終わったところで、話が出た。
とても言い出し辛そうなAIKA-02の様子が珍しいなと思っていたら、ちょっと厳しい指示だった。
それほど難しい手順ではないが、達成するのは難しいとマナミは思った。
AIKA-02は指示の後に続ける。
「‥‥無理な話なのは私もわかるのだけど‥‥クライアントからの要望ですし、着手しないわけにはいかないわ。支援がいるようなら下ろすから、遠慮なく言ってくださいね‥‥」
正直かなり難しいと、マナミは悩むところでもあった。
「わかりました‥‥善処いたします。支援は今のところ良いのですが‥‥どうするつもりなんでしょう?」
不明瞭な質問だが、AIKA-02にはよく分かる質問だった。
「その先は知らないほうが貴女のためです。私が対応しますので、こちらに‥‥」
音声のみの通信だが、ありありとAIKA-02の表情が浮かんだマナミ。
「AIKA-03‥‥無理はしないでね‥‥危ないと思ったら途中でもやめて‥‥無理だったと報告するから」
心苦しそうな声に、少し感じる所のあるマナミだが、声には出さなかった。
「了解しました、進捗をまた報告します」
マナミはそれだけ伝えて通信を終えた。
じっと応接セットに座っていたマナミはため息をつく。
「はぁ‥‥そもそもリステルは賛成しないな」
付き合いが長くなり、自分からも聞き出したので、今までのリステルの経緯はだいたい把握しているマナミ。
単独で事にあたり、リステルを巻き込まないのが一番いいだろうと判断する。
後はなんと説明するかだけだった。
その夜のご飯を二人で取ることにして、街でも高級なレストランで個室を取った。
なにしろ今のリステルはこの植民領地の領主なのだ。
代行ではなく、国王から直接の命令書を出してもらったリステル=ウルヴァなのだ。
堂々と街を歩けるし、宝船のお陰で財政面でも不安はない。
だからではないが、むしろ経済支援くらいのつもりで金を街で使うのだった。
ただ食事中に密談したいので、コンパニオンを出すと言う店側の好意を断らなければいけなかった。
女の子を付けられたところで、あまり嬉しくない二人ということも有る。
「そうなんだ‥‥まあそれでいいと思うよ。正直抱え込んでもいいことないわ」
リステルの報告の最後に教会関係者の話がでたが、リステルの判断でいいとマナミは言った。
「そんなところかな‥‥お陰様で今この領地は何処よりも潤っているよ」
にこにことリステルは話しを終えた。
(さて‥‥どう言って伝えよう‥‥)
マナミはまだ答えを出せていなかった。
リステルからの話しは一通り終わり、食後のお茶も楽しんだ。
美味しかったねと、食事の評価も終えたらもう帰るだけなのだが、リステルは観察眼も推理能力も高く、気遣いも得意だった。
そして何よりも、今ではマナミを大切に思っている。
なにか伝えたいことが有るのだと、話しながらも気付いていた。
とても言い出し辛いことなのだろうとも。
何通りか、話の内容も想像してしまっていた。
最悪のケースを考えるとそれだけで涙が出そうになるので、怖くて動けない気持ちもあり、いつのまにかうつむいていた。
マナミもリステルの様子から、思考を読み取れた。
(あぁ‥‥気付いているのだわリステルは‥私が何か言いたいと‥‥そしてそれはいい話ではないのだと‥‥)
マナミは自覚無く微笑み、なぜだか胸があたたかくなるのを覚える。
(リステルは優秀すぎる‥‥そして能力の高さほど擦り切れていないから傷つくのだわ)
先程の聖職者の話もそうだとマナミは思い返す。
マナミからすれば報告の必要すらない話だった。
領民の心情や国際政治の観点から見ても、内に入れて良いことなど一つもない害毒。
非情な決断ができるなら、それこそ話題にすら上がらないし、上がってもあれほど辛そうな顔はするまい。
泣きそうな顔で、これで良かったのかな、などとマナミに言わないだろう。
そうしてリステルの事を評価して、マナミは気付いてしまう。
(そうか‥‥私はリステルが好ましいと思っている‥‥傷ついたらイヤだと‥‥そう思っているのだ)
その気付きはマナミの口を封じてしまう。
そうしてマナミもうつむいてしまうので、リステルはそうゆうことなのかなと、感じてしまう。
ふと気配に気付いたマナミが視線を上げると、リステルの頬を雫が流れ落ちる。
驚いて眼を見開くマナミにリステルが告げる。
「ごめん、ね‥‥クスン‥‥なんだか‥‥勝手に」
そういって両手で涙を拭う姿に、胸が苦しくなるマナミ。
「マナミは居なくなっちゃうの?‥‥私はもう要らないのかな‥‥」
リステルは、確信に近い推理に至ったのだった。
今更ながらマナミは理解した。
なぜあの謁見の後ホテルで待てと言われたのか。
リステルの気持ちがわかれば簡単なことだった。
「ちがうよ!リステル‥‥要らなくなんてない‥‥私も側に居たいと思っているよ!」
マナミは深く考えること無く、苦しみの中吐き出すように伝えた。
「‥‥ただ仕事を‥しにいかなければいけないの‥‥少しだけ側を離れなければいけなくて‥‥私もイヤなの‥‥離れたくないと思う‥‥でも‥‥」
マナミは自分でも驚くほど整理されていない言葉達を吐き出してしまった。
そして衝動のままに立ち上がりリステルにすがりついた。
「私もリステルの側にいたいよ‥‥」
そう言ってぎゅっとリステルの頭を抱きしめてしまうのだった。
この義体は涙も流せるのだなと、驚きながら。




