【第121話:すごいよすごい】
ジュノ達の装備するアルミ合金性のブーツにはティア毎に機能が追加されてきている。
初期に盛り込まれたローラーは、地上の移動に対してコスト的に非常に優れている。
それ以上にジュノはこのスケートのような滑り心地を気に入っていた。
「ひゃあっほぉぉぉおお!!」
ジャンプからの3回転半回転で、後ろ向きに片足で着地する姿に、ヴェスタがパチパチと手を打つ。
「すごぉおおい!ジュノすごいよお!!」
語彙が少なくなるくらいびっくりするヴェスタ。
時速で250km/h程の速度で滑走している中でのトリプルアクセルだった。
着地してから両手を広げる姿に、美しい白鳥のような高貴さまでも感じ取ったヴェスタであった。
くるんくるんと自由に滑るジュノは、フィギアスケーターのように荒野を進む。
並走するヴェスタは、ついていくだけで必死な速度だ。
びゅいぃぃ!とタイヤが力強く回り、重心を移動して加速や減速に対応する制御を楽しむジュノ。
ヴェスタは圧縮空気の噴出も併用した普通の滑走だが、ジュノはタイヤだけで楽しんでいる。
凄まじい体幹の冴えである。
拠点の前を流れる川沿いに北上していた。
この先に大きな鉄の鉱床があるのだ。
アイカが制御技術を上げてきて、式神を使わないときはマクラを4台くらい行けると言って、今絶賛マクラを増産している。
アイ達も兄弟のように思っているのか、マクラ達と仲良くする姿が時々見られる。
マクラも同じ数になって嬉しいとアイ達は言うのだった。
直線距離で10km近い距離を移動して、鉱脈に至った。
「おぉ‥‥これ全部鉄なのか?!」
ジュノもびっくりしているが、地上に露出して赤々と赤鉄鉱石の帯が見える限り続いていた。
「すごぉい‥‥掘り尽くせないねこれは」
にっこりとヴェスタも喜ぶ。
二人で持ってきた設備を設置していく。
まずは水平方向に拠点を作るときのように穴を開けていき、一番奥を少し広げた。
事前の調査で、半分ほど厚みをくり抜いた地点だ。
そこにホッパーやチェストとパイプラインの起点を置いた。
持ち込んできたパイプも繋いでいき、外まではつなぎ終える。
「あ!まずいやヴェスタ雨になりそうだよ!」
突然暗くなって何事かと上空を見たジュノが言う。
言ってる間にぽつつと降り出して、慌てて坑道に戻る頃にはドザーっと降ってきた。
「スコールだね?」
ヴェスタも一緒に逃げ込んで、ちょっとだけ濡れたが、なんとか無事だった。
「‥‥おけーじゃ無理はしないで。こっちも上がったら戻るよ!」
ジュノは霊子通信でアイカに指示を出していた。
あちらでもパイプラインを伸ばす作業をしていて、振られてアルミの方の坑道に逃げ込んだらしい。
「少しまったら止むよきっと!」
ジュノは明るく答えた。
ヴェスタは瞬間的に増水する川を心配する。
「アイカ達のところも降ってるんでしょ?川を渡れないね、これじゃ」
上流からスコールをもらったのか、倍以上に水かさが増え、みやるさきでは氾濫しあちこち水たまりになっていた。
「もうちょいストレージ余裕あるし、少し掘っていこう!」
「そうだね!待っててもひまだしね」
ヴェスタが提案し、ジュノも賛成しにっこり。
左右に分かれて、一番奥を掘り進む。
純度がまだ未定だが、色合い的に悪くは無いなと思うと、掘るのはとても楽しい。
「ふんふぅん♫」
ヴェスタも鼻歌でご機嫌に掘り進んだ。
マインビームはスーツの思考制御で、目的素材を切り替えるので、別の地層にあたると突然掘れなくなる。
ヴェスタは10m程の所に壁があり、掘れなくなった。
「ありゃなんだろ?これ」
それは青白い壁となって左右に眼の前を塞いでいる。
採掘マニュアルにそって、上下を確認する。
したはすぐ終わっているが、上は2m程の高さでじゃまになっていた。
「これ‥‥邪魔すぎなんですが?なんだろ?素材」
ヴェスタはその青白い金属光沢の石をマインビームの調査光で調べた。
「わあ!!!なんですって!」
それはルチル鉱石の鉱脈で、帯状に混入するのはジルコンサンドの層だった。
ルチルはチタンを、ジルコンはジルコニウムの元になる鉱脈だった。
「ジュノぉ!!やったよ!すごいよ!」
たたたっと走って戻るヴェスタ。ちょうど奥まで100m程掘って折り返し戻ってきたジュノと出くわす。
「どしたの?!」
あわてた様子のヴェスタにジュノもびっくりして、聞き返した。
とりあえずサンプル取ってきてとアイカに言われたので、途中まで掘った坑道を貫通させて採取した。
そうこうしているうちに、すっかり雨はあがり、外が明るくなった。
まだ夕方までには時間が有るので、もう一往復パイプを運ぼうと、二人は拠点を目指して外に出た。
「あぁ‥‥ジュノ‥‥みてぇ‥‥」
ジュノが走り出そうと思うと、上着の端をヴェスタが掴んで引き止めた。
ジュノも振り返って言葉を失う。
北西の砂漠方面を見ると、雨上がりに水たまりができていて、そこに青空と雲が写っていた。
「す‥‥すごい‥‥」
ざわざわと鳥肌が立つほどの感動を覚えるジュノ。
ヴェスタも頬をそめて潤んだ瞳でうっとり見つめていた。
「あぁ‥‥ヴェスタ‥‥行ってみよう!」
そういうとヴェスタの手を取り走り出すジュノ。
途中から面倒になったのか、ヴェスタを横抱きにしてジャンプ。
20m程飛んでからローラーダッシュで滑り始める。
もうそこは水たまりの中で、ジュノのすべった奇跡を波紋が流れてく。
「あ‥あ‥ぁ‥すごい‥‥‥」
ヴェスタは眼を見開き魅入ってしまう。
ジュノも声が出なくなり、ローラーも止めてしまった。
そこには見渡す限りの鏡に写った美しい午後の空が地平線に向かってどこまでも続いている。
砂漠の入口たるこの辺りの荒野は塩湖に成っていて、純度は低いが塩化ナトリウムなどを採取もしていた。
声をなくした二人はただただ空の真ん中に立ち尽くしてしまうのだった。
「ジュノ‥‥すごいね‥‥なんだか感謝が湧いてくる‥‥」
「うん‥なんだろう‥‥これは奇跡なんじゃないのかな‥美しすぎるよ‥‥」
偶然だったのか必然なのか。
青空の上に青空が広がる背筋が凍るような美しさ。
呼吸すら煩わしいと感じる程の時間の中、抱き合った温度が伝わってくる。
その塩湖にうつる美しい景色は、二人の心にもしっかりと刻み込まれる。
互いの温度と息遣いを添えて。
ジュノの首にまわした腕にぎゅうと力をこめたヴェスタは、愛おしそうにジュノを抱きしめるのだった。
感動を分かち合いたいと想い、強く身体を押し付けた。




