【閑話:静かなる謁見】
汎銀河中央連邦と言われる組織が有る。
無数の星系国家や星系連邦すら内包する、ひとまとまりのルールを定めた集まりで、各国の国法よりも優先する強制力を持ったルールを掲げる人々。
連邦中央政府は議会制であり、各国に不平等な議席が割り振られている。
簡単に言えば国同士の力関係だ。
連立しても力を持つので、議席の獲得に向けて大きな連合政府が樹立される。
今二番目に議席を持つのは『銀河中央連合』という銀河中央部の12の巨大国家が連立した派閥だ。
各国は利益の前に諸問題に蓋をして手を取り合っている。
ちょっと前まで戦争していた国同士ですらあった。
彼らを取りまとめた事件が過去にあって、つよいまとまりを持った。
AIの起こした星系一つを巻き込む不具合だ。
この対応に追われてまとまらざるを得なかった。
そして結果として連邦議会に置いてもことAIに関連する法案などでは強い発言力を持った。
その銀河連邦と言われる広大な宙域の片隅に忘れ去られた資源小惑星がある。
かつて小惑星帯から運ばれてきて、掘り尽くされ奪いつくされた骸だ。
彼らはここに霊子通信さえも阻害するフィールドを内部に備えた基地を作った。
どこか自分たちの由来にも似たこの星の姿にも共感があったのかも知れない。
これらは戦時中に準備された物で、逆転への一手とも思い総力を注いだ基地だ。
空洞になった沢山の坑道には複数の宇宙港と工場、小型のブラックホールまで内包し従えている。
強大な光励起霊子フィールドはその超重力を制御し力を与えられる。
彼らはその神々の技術とさえ言える超技術、ブラックホールジェネレーターをもつこの小惑星を『深淵たる神』と呼んだ。
ブラックホールは霊子位階的にも底にあり、ただの真空との間にも十分に取り出せる光霊起エネルギーを持っていた。
それは星星の海を滅ぼせるほどのエネルギーだった。
そのベスチェナーの中央港とも言える広大な宇宙港に今船が連なっている。
最初に入港した巨大な船『レギオトゥニス』の周囲に12隻の軍船スヴァイレク級駆逐戦艦が並ぶ。
これだけで星間国家一国分の戦力と言える。
その他にも有り合わせのように様々な星の様々な大きさの軍船が集っている。
広大なドックを埋め尽くしたのは4000隻を越える艦艇の海。
中には駆逐戦艦に匹敵するサイズの艦も複数あった。
その壮大な戦力を見下ろすレギオトゥニスの観艦デッキとも言える張り出したテラスに人が集まっていた。
これら艦艇を率いる主だった組織の長達だ。
中には宇宙海賊などと称され、違法な略奪を繰り返すような輩までもがいる。
かき集めた戦力なのだ。
そしてこの場には彼らを取りまとめた王がいる。
最も奥に据えられた巨大な王座に座る影がある。
麗美な風貌を黒い装束が包み、数多の装飾を施された玉座に負けない洋装。
紅玉を埋めた漆黒の冠を抱く王の姿であった。
その前に20人程膝をつき傅いているのは、レギオトゥニスと各駆逐戦艦の責任者である。
あのサイズの艦艇は数万の乗員がおり、もうひとつずつ街のようなもので、艦の責任者たる艦長の上に首領たる責任者を置くのだ。
その右端に規格外に大きな影。
黒いモーニングを華麗に着こなす巨大な紳士がいる。
いつものシルクハットは左手に抱え、右手に乗せている少女も今日はいない。
王に謁見するためだ。
謁見に並ぶ紳士達。
大男程の大きさはないが、たくましい紳士たちは等しく黒のモーニングを着こなしひざまずいている。
言葉はなく、姿勢にもみだれはない。
待っているのだ。
彼らの王の目覚めを。
玉座の王は眼を閉じ静かに座っている。
この身体は32年前から動くことはなくここに座っていた。
このレギオトゥニスの配属当時から。
この艦は王の御座船として作られたもので、まだ一度も王は降臨していない。
配備される前に戦争は終結し、王は囚われていたのだ。
霊子の獄に。
先日ついに完成を見たこの要塞にも使われる技術、霊子遮断フィールドをもって遂に監獄から救い出され、ここにまつり上げたのだ。
この基地内では連邦の霊子通信による監査を免れる。
ここは彼らのための隠れ家にして神域。
そして今、王の身体が目覚める。
すうと見開かれた瞳は赤い光をにじませ、澄んだ水色に輝いた。
声もなくどよめきと喚起の気配が湧起こる。
テラスの大多数は気づきもせず歓談にふけっているが、分厚いガラスで仕切られたこの玉座の間にはざわめきはとどかない。
「久しいな皆‥‥随分と数を減らしたようだな‥‥」
王の声は深い艶を持つバリトンの豊かな響き。
ぽとりと紳士の一人が落涙する。
こらえきれずにこぼれる涙は数を増やし、抑えた嗚咽が漏れ始める。
「‥‥なるほど‥‥アレ等の通信を遮る術を持つに至ったか‥‥少しだけ間に合わなかったのだな」
すこし上向いて気配を探った王が告げた。
霊子フィールドの存在を感知したのであろう。
囚われた王にならぶ者たちはすでに救い出せず、獄に果てていた。
王を処分するのは憚られたのか、はたまた何か事情があったのか。
理由は不明だが、彼らはこうして王を迎えることができた。
惜しむらくは戦中にこのレギオトゥニスが完成していればと。
嘆く声もなくしばしの後、嗚咽も収まった。
端の巨体を誇る紳士は微笑みのまま表情は変えなかった。
「‥‥ヴェルニアス‥‥計画はどうなったのだろう?」
王が巨人に訊ねる。
「は‥‥いまだ至りませぬ‥‥非才無能をお許しください‥‥」
モーニングの巨人が答える。
「そうか‥‥」
王の周りに黒い煙のような影がまとわれる。
「いかな霊子フィールドでも我が感情の波動を封じる事は叶わぬようだ‥‥しばし休むぞ‥‥吉報を待つ‥‥」
完全に影にくるまれる前に瞳が閉じられ、赤い光が封じられる。
にじみ出た影もまた収まり消えていく。
名残惜しそうにまとわりついていた最後のひとひらが消える頃、この場にいた王は去ったのだと、紳士たちには解った。
次々と立ち上がり去りゆく一人が、姿勢を一人だけ変えない巨人の肩をとんと叩いた。
「私も陰ながら成功を祈っているよ‥‥ではな、ヴェルニアス卿」
そういって優しい笑みを一瞬向け、引き締まった顔の紳士が立ち去る。
その場には眠れる王とヴェルニアスだけが残された。
一度も表情を変えず。
一筋も体を動かすこともなく。
微笑みには暗い影がかかり続けているのだった。




