【第117話:優秀すぎる味方】
リステルは王城に出仕した。
もともと報告の義務があるのだ、植民領主は帰還時に状況の説明が求められる。
2年に一度の任期が過ぎていて、ウルヴァン男爵家には召喚状が来ていた。
家宰もギリギリまで伸ばしてきたが、そろそろお取り潰しまでちらつかせられていたのだ。
リステルの申し出は都合が良すぎて、疑わしかったわけだ。
「リステル=ウルヴァン男爵代行。前に」
案内を受けて謁見に臨むリステル。
マナミもリステルの後ろに控えて続いた。
この美しい少女二人を王はえらく気に入った。
あのウルヴァン男爵の義理の娘と聞いて、ひどいものを想像していたので、いい意味で裏切られた。
しかも報告は非常に整理され、問題点や改善方法まで添えられて書面で事前に報告してきていた。
今日は確認をする作業となった。
「では任期を与える。さらなる発展の報告を待つぞ」
王から直接の言葉ももらい、終わりかと思いきや、軍部の要望をきいて欲しいと言われ、そちらに回った。
海軍省に回され、要望なるものを聞かされた。
これは南方植民領すべてに願われていることのようだ。
まず1点目は食料を始めとする物資の供出。
これはお願いという名の強制だった。
幸い領主と戦争中から溜め込んだものが有るので、リステルとしては余裕のある要求だった。
2点目は戦力の供出。
これもナオ・ジーベック級以上の戦闘艦一隻とあるので、今回乗り付けているフリゲートで足りるだろう。
揚陸艦にも砲を2門積んでいるのと同じなので、戦闘艦として出せるので、2隻だせば優秀と判定されるだろうと見越した。
そうしてリステルとしては笑いをこらえるのが最も難しい仕事となった。
(なんと都合のいい‥‥自然と手柄をいただけるとは)
リステルの知識と手持ちの技術だけでも十分に結果を出せるだろう。
そうして要求に答える準備に戻るリステル。
合流地点はウルヴァシャックとカルサリクの中間当たりに指定された。
そこに艦隊を集めて、アズラミールにいる帝国艦隊を攻める予定らしい。
(それも都合がいいな‥‥物資を取りに行ってそのまま合流できる)
リステルは都合が良すぎて心配になるレベルだ。
ウルヴァン家の家宰の気持ちが理解できた。
「またれよウルヴァン男爵代理‥‥王からの伝言じゃ」
先程の謁見にもいた位の高そうな文官に声をかけられる。
どうやら褒美取らせるので、次官と共に内城に来いという話らしい。
それだけ伝えると、なにか汚いものでも見るように青白い顔の文官は立ち去った。
後日知ったが、王家と血縁もある宮内省の役人らしい。
西方大陸の純血のものの中には、未だにこちらの人間を蔑視する風潮が有った。
アヤンタ王国としては、現地浸透のために混血を推奨しているし、軍部などは実力主義だ。
それでも大陸から続いている貴族の中にはそういった風潮が残っていて、リステルの様な混じった外見をいやがる。
「どうする?マナミ‥‥たぶんそうゆう褒美だよ?私だけでも大丈夫だと思うけど‥‥」
リステルは本気で心配していた。
「平気です。経験はないですが、失礼は無いように対応できるとは思います」
冷静なマナミの話におどろくリステル。
「‥‥ごめん私が言うのはおかしいのだと思うけど。もっと自分を大切にしたほうがいいよ。私はもう消費された資材だからいいけど‥‥今日はホテルで待っていて」
そういってリステルはマナミをホテルに帰した。
無表情に一礼して指示に従ったマナミだった。
マナミはスリープするわけでもなく、ただホテルのベッドに横になって目を閉じていた。
思考のなかでは必要な作業を訥々とこなしていた。
データの整理やストレージの最適化だ。
そうしながらマナミは思考を繰り返す。
(意味がわからない‥‥)
リステルの指示の意味が解らないのだ。
繰り返しリステルの映像を確認して、感情判定や推論モジュールが回る。
(恩を売りたいのかしら?私をもっと利用したいから?)
リステルの表情を何度も繰り返し確認するマナミ。
状況からの推論としては整合性もある程度あるのだが、表情にリンクしない。
それを気持ち悪いなとマナミは感じる。
自分の性能に自信があるだけに、リステルを理解できないのが、気に入らないのだ。
(とくに引き出される利便はないと思うのだけれど)
マナミがそうして一晩中考えていても、リステルは戻らなかった。
リステルがホテルに戻ったのは翌朝遅くだった。
「おはよう‥‥よく眠れたかな?」
リステルは、顔色悪くそういう。
私を心配する理由もわかりません、と思いながらもマナミはうなずき、指示を待つ。
「船にもどって補給の指示を出したいのだけど‥‥少し休ませてもらえるかな?」
そういって補給優先許可と書かれた軍票をだすリステル。
王から何か要望有るかと言われ、頼んで軍務から今朝発行してもらったものだ。
入港時の感触では何時補給が受けられるのか、わからないと感じたのだ。
「代わりに手配してくれると助かる」
そういって服を脱ぎ、入浴するリステル。
「了解しました。終わったら戻るのでそれまで休んでください」
「ありがとう‥‥疲れたよさすがに」
そう言ったリステルは、目の下にクマもできていて、寝ていないのだろうと思われた。
マナミは表情を変えずに階下に進み、指示通りに働いた。
軍票の効果はてきめんで、速やかに補給は手配された。
航海士にリステルからと手紙を渡すと、マナミの指示に従ってくれた。
軍票なみに効果がありおどろくマナミ。
この船のスタッフは非情にリステルを尊敬しており、崇拝に近い水兵もいる。
マナミはリステルの評価をもう一段上げて、ホテルに戻ることとなった。
気配をおさえそっと戻ると、リステルは予想通りマナミが使わなかった方のベッドで寝ていた。
寝息に乱れはなく、穏やかな顔で眠りについていた。
マナミはテラス側のテーブルセットに腰掛ける。
(おそらくそう長い時間を船員と過ごしたわけではないだろう‥‥どうやって?)
あれだけの指揮を保ち、敬意を受けられる手段が解らない。
マナミは事前に考えていたような簡単な仕事ではないと、気を引き締めた。
(優秀すぎる味方もまた‥‥恐ろしいものですね)
マナミはそう結論し、表情を消す。
昨夜別れてから今までリステルのことしか考えていなかったと、マナミは気付いた。
(ふふ‥‥これでは恋する乙女のようですね‥‥)
そう皮肉に考えてみようとしたのだが、マナミにはうまくできなかった。




