【第11話:ふなあそびでえと】
明日の早朝に南東の島の調査を泊まりで実施する予定となった。
船はジュノの意見もあり、二人で持ち上げ移動できるサイズと重さで作成した。
素材は圧縮された木材で、強度と軽さを両立するものをナノマシンが成型してくれた。
作業小屋からジュノが船外機を抱えて出てくる。
それなりの大きさだが、重さを感じさせない動きはジュノの筋力か、軽く作れたかだろう。
「おまたせ!」
にっこり笑うジュノに続き満足顔のアイカ。
「うまくできました」
二人で作業小屋に設置された木工作業台と電子部品組立作業台で、船外機を作っていたのだ。
その間にヴェスタは海まで小舟を運んだ。
保護スーツのサポートがあれば一人でも運べることを確認もできたのだ。
「おつかれさま。おもくないの?ジュノ」
「ぜんぜーん。ほら持ってみて」
そういって差し出す船外機は一抱え有る大きさだ。
覚悟して受け取ったら、思いがけず軽かった。
「すごい‥‥なんでこんなに軽いの?」
アイカが自慢気に説明する。
「むふふ、支持構造とプロペラに中空・目の字断面を採用して、軽量化をすすめました!モーターの重量対トルクもティア3では最大の効率です!」
ぺらぺらと楽しそうに話すアイカにヴェスタも楽しいなと感じる。
最近また微笑む練習をしているので、にこっと微笑んだ。
ジュノはそのヴェスタの不自然な微笑みを痛ましく思うのだが、表情にはださなかった。
まだ日もあるので、試運転を兼ねて海洋調査をすることとなった。
ヴェスタが運んで、波打ち際近くに置いていた船体に船外機をセットする。
プロペラを跳ね上げている状態でのバランスをジュノとヴェスタで持ち上げ確認する。
「この状態で運ぶわけね‥‥」
「そうそう‥‥ここいらでいいね。ヴェスタそのままね。アイカ印をつけて」
「はーい」
せいいっぱい背伸びをするアイカに、二人は少ししゃがんで船体を下げた。
黒マジックでぐりぐりと星マークを書くアイカ。
二人で持ちやすい位置を記録しておくのだ。
とっさの時でも運びやすい工夫だ。
両側に印しを書いたアイカがにっこり。
「できました!」
アイカが離れるとそのまま波打ち際まで運ぶ二人。
ちゃぷん
「おお!ちゃんと浮いたよ!」
「あたりまえです!」
ジュノの声にアイカが嬉しそうに答えた。
ジュノ一人で少し沖に押し出す。
腰まで波が来た所で振り返り、ヴェスタに指示を出す。
「押さえてるから乗ってみてヴェスタ」
「うん‥‥いしょっと」
縁を乗り越えて船内に座るヴェスタ。
船外機を90度おろして水面に沈める。
ひょいと体重を感じさせないジュノが乗り込むと、さすがに少し左右に揺れた。
ヴェスタも体幹を鍛える訓練はしているので、それくらいではびくともしない。
メインスイッチを入れると、モニターランプがオレンジに点滅し、すぐにオレンジ点灯になる。
「待機完了だね、横のスターターを押せばスタンバイになるよ」
ピッと電子音でも知らせてランプがグリーンになる。
「これでスロットルを開ければ進むよ」
「こうね‥‥」
びゅるると水面下でプロペラが周り、推力になる。
すいすいと沖に向かう小舟が、波を切り分けてすすんでいった。
「すごい‥‥この重量でなんでこんなに安定するの?」
「ふふ、船体下部にフィンが3枚あったでしょ?あれが変形して流体力学の限界まで作用するの」
ぺしぺしと船側をたたくジュノ。
「この深い形状で重心も整えるのよ」
船体は横よりも高さがあり、船体横に下部のフィンが展開され水中に長く伸びていた。
見えないが真下にも展開してあるのであろうとヴェスタは納得する。
乗り物の操作はあらゆるものを仕込まれており、ヴェスタの得意分野だ。
くるくると円を描いたり、加速して波のうねりで跳ねてみたりと、いろいろ動作を確認した。
「ひゃっほー!」
ジュノは舳先に乗り出し楽しそうにしていた。
「おちないでよお!」
「へいき!ちゃんとつかまる所あるのよこれ」
舳先の内側左右にも有る取っ手にしっかり片手が捕まり反対の手でライフルを構えてみせる。
このライフルも新装備で、小型軽量ながら有効射程800mをほこる電磁加速銃だ。
2人分準備出来たので、ジュノもバックパックに装備していた。
しゅるりとケーブルを引き出しながら構えたり、ケーブル任せで戻したりと戦闘操作の確認もしている。
電源用の細いケーブルは、金属メッシュの補強も入っているので、いざという時はザイルがわりにもなる強度だ。
引き出す時はあまり抵抗が無いが、すっと強く引くとするする巻取り、人間一人くらいもちあげるトルクがある。
最大で10mまで伸びる仕組みだ。
ジュノは近接戦闘と切り替えるので、素早く装備変更できるこの仕様が気に入ったようだ。
「いいね!たのしい!」
色んなポーズでためすジュノは、曲芸のような事を舳先で繰り返す。
ヴェスタははらはらするのだが、ジュノにとっては余裕のある動きらしい。
「ちょうど500mくらいきたよ。一回アンカー落とすね」
小舟の錨は細いロープの先に金属メッシュの袋がついたものだ。
そこに現地で岩や石を詰めて重りにする。
今日は観測機器も結んであり、重りはその分少なめだ。
じゃぼん
にぶい音をたてて、ヴェスタの落としたアンカーが沈んでいく。
船尾に固定される小型のウインチがからからと引き出されて沈んでいく。
思ったよりも時間がかかり海底に届いたのか、細いロープがたわんだ。
「7mあるよ‥‥随分深いような‥‥」
舳先からヴェスタの近くまでもどったジュノも覗き込む。
「うん‥‥ふつうの遠浅ならこのくらいの距離だと、まだ2mくらいだよ深くても」
不安をにじませるジュノの声に、ヴェスタもぞくっとする。
「い、一回もどろうか?もうデータ取れただろうし」
そういってウインチを操作してアンカーをあげるヴェスタ。
「うん‥‥アイカも心配そうにずっとみてるもんね」
波打ち際に小さくなったアイカがずっと動かず見ているのだ。
ちょいちょいジュノはアイカを確認して、手をふったりしていた。
アンカーにした観測機器をロープから外して回収していると、ふっと海中を濃い影が横切った。
「ん?!‥‥ジュノ!なんかしたにいる!!」
ヴェスタは作業の手を止めず、ジュノに警告。
「りょうかい‥」
素早くライフルを抜き出したジュノが膝立ちで胸に構える。
そのままにじり寄って舷側から乗り出し、ライフルごと海中を監視するジュノ。
ヴェスタもアンカーを船に上げて、ライフルを抜いた。
「‥‥どのくらいの大きさだった?」
ジュノの声は潜められている。
音響に反応する生物が海中には多いのだ。
「たぶん‥‥7~8mはあった‥‥わりと海底近辺を通ったから‥‥自信ないよ」
「おけ‥‥ヴェスタ戻ろう」
「うん」
そおっとライフルを戻し、スタンバイしっぱなしだった船外機を操作するヴェスタ。
一気に加速して旋回し浜を目指した。
ヴェスタの横にくっついて後方を警戒していたジュノが、すっとライフルをおろした。
「そのサイズの生き物なら、この先にはこないよね?」
ジュノの声に少し安堵がまじった。
ぎゅっと抱きついてくるジュノ。
すこし震えている。
ヴェスタもこわかったので片手だけ抱きつく。
「うん‥‥形は魚みたいだった‥‥」
ジュノ以上に自分が震えていて、おどろくヴェスタ。
ジュノはヴェスタの震えを心配して抱いてくれていたのだった。
アイカの姿が大きくなるに従い、ふたりの心にも余裕がもどるのであった。




