【第114話:祈りをなす言葉】
砂漠の砂がさらさらと流れ、大きな構造のほんの一部だけが見えていた。
鈍い色は何かしらの合金製のようだが、マインビームの解析は不明とでた。
触った感じも金属でしかないのだが、その形はまるで植物のようだった。
「アイカ!こっちにも少し見えるよ!鈍い色してて、ちょっと見わかんないねこれ!」
アイカはその未知の知識に触れ震えていた。
(ありえない‥‥周期表にない金属‥‥dブロックの特徴を持っているように見えるのに‥‥まるで‥‥)
ジュノの横でヴェスタも呟く。
「これじゃあ‥‥花びらにしか見えない‥‥」
形だけではなく花脈や曜を供え、外側にがくも添えられる。
砂漠のあちこちにあった反応を調べると明らかに金属の特徴を持つのに柔らかく、しなやかでもろいすがたの巨大な花弁を見つけた。
まわりの砂の方はマインビームで掘削できたので、一つ掘り出してみたのだ。
アイカが今触っているそれは、コンテナのような巨大な箱から花びらが咲いているように見えた。
コンテナ自体も謎物質で、こちらは非情に頑丈で、ジュノでも壊せなかった。
恐らく武装を持ち出しても壊せるかどうかと思われた。
「中はどうなってるんだろうね?」
ジュノは直感的にこれがヤバイものだと思っているようで、そわそわと落ち着かない。
ヴェスタも思案顔で告げる。
「アイカ‥‥これ中の砂も吸い出してみよう」
アイカもジュノほどではないが、なにか底しれない恐れのようなものを感じ取っていた。
花びらは指でたやすくちぎれたので、サンプルを取ってしまい込んでいた。
次にその下をと思ったら破壊できずサンプルが穫れなかったのだ。
見た目の色は同じものなのに、感触も強度もまるで違った。
マインビームをジュノとヴェスタがあて、コンテナの内部から砂を消していく。
「これ‥‥いくらでも下に砂がある感じ‥‥どんだけ大きなものが埋まっているの?」
ジュノのヘルメットのセンサーで暗視しても見えないところまでほったが砂がまだある。
「‥‥降りてみよう」
ヴェスタが青い顔で言う。
これはもう調査では無く、危険がないか確認する哨戒のような作業になっていた。
「わたしがおりる‥‥二人はここで待機よ」
ジュノがヴェスタを止める。
「でも‥‥」
ヴェスタは嫌がる。
「大丈夫‥‥スマートライフルも持っていく。最悪穴開けて出れるでしょ」
思案の先でヴェスタもうなずいた。
「絶対無茶はしないでね‥‥ジュノ‥‥」
「まかせて!」
にっこり笑うジュノはザイルでヴェスタとつなぎバディとなる。
ヴェスタのだした条件だった。
スーツの腰には0.7mm経の高分子ワイヤーが小型ウインチに装備されている。
これを互いに繋いで降りると決めた。
無茶したら一蓮托生だよと、ヴェスタは言う。
にこりと笑い親指を立てるジュノ。
アイカとヴェスタは抱き合うようにしてジュノを見下ろす。
コンテナの入口は巨大な花びらの中心に直径7-8m程の穴となってある。
花びらが内側から引き裂いたように穴になっている。
内側から巨大な弾丸で撃ち抜いたかのようだ。
ちぃぃぃとザイルを伸ばしながらジュノが降りる。
約50mほどでマインビームの届く限度となり、そこにはまだ砂の床があった。
『‥‥これは‥‥すごいね‥‥人工物?‥‥少なくとも自然に出来たものではない‥‥』
ジュノのつぶやきが霊子通信で入る。
『壁に‥‥文字と‥‥絵画と思しきものがある‥‥』
そうだろうと予想はしていても、確認されることでアイカはぞくりと怖さを再認識。
(‥‥銀河連邦にもない技術‥‥おそらく太古の昔のもの‥‥確認できない物質‥‥まるで‥‥)
アイカの思考が一つの結論を見た。
『ジュノ‥写真‥撮れたら‥‥戻って‥お願い』
ヴェスタの声は、聞き取りにくいほど震えていた。
VTOL機にもどった三人には言葉はない。
「これ‥‥間違いなく大発見だよね?すごいね、わたし達あはは」
ジュノがむりやり笑いながら言う。
ずっと黙っていたアイカが発言。
「考えてみたのですが‥‥有る種この特徴は‥‥アニマロイドと一緒では?」
はっとヴェスタもジュノも思い至る。
「古く‥‥理解不能な物質‥‥謎の用途‥そうだわ」
ヴェスタの声は未だに震えている。
瞳もうるみ泣き続けているように見える。
「もうかえろう‥‥こわいよぉ」
ヴェスタがうるうると泣き出してしまった。
ジュノがよしよしと慰めている。
アイカはジュノの撮ってきた写真の精査をしている。
見ようによっては女性に見える絵柄。
添えられる文字。
文字はちょっと時間をかけないとわからないと感じられた。
(出現頻度‥‥文法パターン‥‥音素対応‥統計的・意味的・構造的に‥‥)
なにかが引っかかる。
アイカにはそう感じられた。
(あぁ‥そうか違う‥‥)
写真の中で描かれた絵画のようなものと、文字の位置。
(この文字に敬意を‥‥いえ‥‥祈りをこめた?)
アイカのなかに音が先に見えた。
(ラ‥‥ウ‥‥マ‥‥‥‥)
ぞわっとアイカの中で文字達の意味が読み解かれていく。
「慈悲深き女神ラウマ‥‥悲しみを抱える者に、そっと寄り添う力を授け給え‥‥」
アイカの突然の発言にジュノもヴェスタも理解が及ばない。
くると二人を見たアイカが伝える。
「この遺跡は女神ラウマに捧げられたもの‥‥ラウメン神聖国とはこの遺跡のことです‥‥」
神託のように、確信をもって語るアイカの目が赤く光を放つ。
魔力が滲んでいるのだ。
アイカの脳裏に一つのコードが現れる。
(Šī balss nekad nepazudīs.)
それは祈りをなす魔法の言葉だった。
(シー ‥バルス ‥‥ネカド ‥ネパズディース)
(‥‥――わたしもあいしている‥‥決して消えることはない‥‥)
目を閉じ力が抜け、パタリとたおれるアイカ。
「アイカ!!」
「いやぁあ!!」
ジュノとヴェスタが飛びついてアイカを揺り動かすが、意識が戻らない。
「‥‥ヴェスタ落ち着いて、一回しずかに!」
わーわーと騒ぐヴェスタを一括するジュノ。
「ひぐっ‥‥うん‥‥ごめん」
ぼろぼろと流れる涙は、ヴェスタが無意識に感じている恐れが流させるもの。
ジュノはアイカの胸に耳を付け心音と、手の甲は鼻に添え呼吸を確認する。
アイカの胸から頭を起こすジュノ。
「大丈夫‥‥心音は普通にある‥‥脈も正常だし呼吸も‥‥普通かな?寝ているみたい」
その評価の異常性に、ジュノもヴェスタも気付けずにほっと胸を撫で下ろす。
ヴェスタがジュノにすがりつき、ジュノは髪を撫でて上げる。
そうしてヴェスタだけではなく、ジュノも平常心を取り戻していった。
二人はすっかり忘れている。
AIはスリープ以外で失神したり、睡眠を取ることなどないのだということを。




