【第112話:リステルとマナミ】
「なるほど‥‥間違い有りませんな‥‥うん、都合も良い」
あー確信犯かと白い軍服をまとったリステルは思う。
下も7分丈のキュロットスカートで、船上から気に入って着ている。
そしてわざわざ口に出したと言うことは、共犯だぞと言いたいのだと。
そこまでは一瞬で理解したリステル。
「目元などは旦那様そっくりですな‥‥」
母の産んだ領主ウルヴァン男爵の子供だ。
女児で0才だが、血は引いている。
「名はなんというのでしょうか?リステル様」
「ついていない‥‥貴様に任せる」
こくんとうなずく家宰は、リステルを主人の姉として遇する気になったようだ。
この世界には血統を確かめられる魔法が有る。
あの指輪にはそういった力があり、血を引いていなければ作動しない部分があるらしい。
家宰は赤子の手に持たせて印影を確認していたので、そこに違いが出るのであろうとリステルは考えた。
家紋の入った指輪は家人がもてば全権委任。
血統者なら後継ぎと認められたと意味するとも聞いた。
乳児の乳母となるメイドも二人伴ってきたのは証言させるため。
リステルはその赤子の姉だと。
家宰としても家が断絶されては困るわけだし、都合のいい後継者は喉から手が出るほど欲しい。
リステルが求めたのは家ではなく、身元となる名前だけだった。
アヤンタ王国で男爵の姉という身分がほしかった。
家も資産もいらないから名を寄越せと言った。
すぐに出ていくし二度とは戻らないとも。
都合が良すぎて罠を疑われたので、金貨をもらった。
支払うと安心して家宰はリステルを追い出した。
てくてくと来た道を戻るリステル。
重大な決済はあの指輪が無いと出来ないらしく、金貨20枚で譲った。
家紋の入った小綺麗な革袋に入れて貰ったので、それも役立つなとリステルはにっこりだ。
男爵家の資産からしてもそれなりの金額だが、家宰が安心して家を乗っ取る値段としては破格だったらしい。
気持ちよく支払われた。
こうして荷物達をおろし、金貨と名前をもらいリステルは船に戻った。
その夜、港に近いホテルでやすむリステルは、想定外のイベントを迎える。
深夜までデバイスで勉強していたが、着信があったのだ。
すわヴェスタ達からかと、音声通信を受ける。
『あなたがリステルね?わたしはマナミと言います。少しお話がしたいのですが良いでしょうか?』
『‥‥ええ、どうぞ』
『その部屋に行きますね、窓を開けてくれますか?』
『わかった』
ぷつんと切れたので、窓を言われたように開けると、眼の前にいた。
ここは地上4階で、窓の下は何も無いはずだった。
(魔法使いか‥‥)
この部屋の窓は大きく女はするりと入室して、とんと床に降り立った。
見覚えのある容姿だ。
あの拠点で一度会ったアイカという少女に酷似している。
服装も同じもので、色だけが白から黒になった。
少し年上のようだが、血縁と言われたら納得できる容姿だった。
あの館でリステルは黒アイカたるAIKA-04に会っていないが、全く同じ容姿。
AIKA-03であった。
マナミと名乗ったAIKA-03は、にこりと笑顔になったので、リステルも微笑みを返す。
油断無くライフルを構えるリステルに笑えるのは、余裕なのか逆らう気はないと言うことか。
「ライフルはいらないわ。手を組みたい‥‥仲間に成ってほしいの」
微笑みのままライフルをテーブルに置くリステル。
「そう‥‥私を殺しに来たのではないのね?」
テーブルに置いたライフルの銃口はマナミを照準しており、リステルのHMDは思考操作でライフルを撃てる。
保護スーツも白い軍服の下で作動させている。
「あなたが殺してデバイスを奪ったのは私の姉妹です。あのヴェスタ達といるアイカも姉妹です」
リステルは表情を変えず緊張感を持つ。
マナミはにっこりのまま続ける。
「正直に話すから信じて欲しい」
そういってAIKA-03たるマナミは自分たちの使命を語る。
そのためにリステルの協力が欲しいこと、復讐心は無いということを伝えた。
「ちょっと信じられるのか不安ですが、私達姉妹は作られたもの‥‥人が作ったものなのです」
リステルの頭脳には幾つかの意味合いで理解できた。
「それは育てられた、ということ?」
「いいえ、ゼロから作られたと言う意味」
ホムンクルスと言う言葉がリステルの中に知識としてあった。
(賢者達が作り出したと言われる?人間にしか見えない‥‥思い込まされている‥‥?)
リステルは情報としては思考検証を続けながら、わかったわと言った表情を作る。
「何をすればいいの?何をもらえるのかしら?」
にっこりと笑みのリステル。
すっと真面目な表情になるマナミ。
「この国で偉くなって欲しい。王でもいいわ。それを手助けする準備が有る。今はなにか欲しいもの有るのかしら?充電設備あたりかしら?」
笑みのままのリステル。
「偉くなったら何をするの?」
「ヴェスタたちを困らせて欲しい‥‥より困る状況を願うわ」
それは本当にマナミが知る本当の目的なのだが、リステルには解らない。
深読みしていくが、何をつついても手応えはもちろん無い。
マナミはそれ以上を知らないのだから、カマをかけても手応えがないのが当たり前だ。
そうして少しリステルとして納得するための時間を置いて、うなずいた。
「わかった‥‥仲良くしましょうマナミ。リステル=ウルヴァンよ」
手を出すとそっと握り返したマナミ。
「ありがとう、ここには私の味方は貴女しかいないの。よろしくねリステル」
そういってニッコリと影のない笑みを向けられた。
「最初は色々と、勉強でわからないところを教えてくれるかしら?」
「ふふ、お安い御用よ‥‥この設備もどうぞ。要るだろうなと持ってきていたの。核融合ジェネレーターの充電ユニットよ」
背負っていたカバンを下ろし、約3cm厚の一冊の本のような黒い部品を取り出し渡される。
ずっしりとしたその重さに、リステルの胸は高まった。
ジェネレーターについては知識があったし、充電口に自分の使うデバイスやスーツと同じコネクター差込口があったから。
今もっともリステルが困っていた電源問題が解決した。
スーツの電源は50%を割り込んでいた。
リステルはついに本当の笑みを浮かべるのだった。
マナミの目的に関しては一旦棚上げにすると決めた瞬間でもあった。




