【閑話:シャラハ総督の困惑】
今回の遠征の主たる目的は、敵国アヤンタの植民地破壊。
(ここの所おおきな戦もなかったので、軍部としてはそろそろ何か欲しいというところか)
若い頃は自慢にしていたし、女の子のウケも良かった顎髭に手をやる。
シャラハ中将の考え事のときの癖だ。
「中将なのに総大将とは大抜擢だね」などと、ふざけたことを上に言われて来ている。
評価によっては昇進につながるとも言われたが、今は席が開いてないことくらいシャラハにも解っている。
単なる皮肉だろう。
シャラハは、とりあえずの大戦果とよべる現在の結果に満足してはいた。
通商破壊という概念はまだないが、嫌がらせとしての植民地攻撃。
これで怒ってアヤンタ王国がでてくるなら、都合がいいと思っているのだろう。
ようするに軍部としては戦争がしたいのだ。
教会の発言力が日々増えて、議会もそちらに傾きつつあると。
軍部としては、そんな状況の転換に、敵国を求めた。
いじめても余り国内から文句が出ずに、ちょうどいいくらい弱い国をと。
アヤンタ王国に白羽の矢が立った。
ちょうど教会から要望が有ったから、教会主導ということにすればなにか有っても軍部は痛くないと。
(本当に都合が良かったのだな‥‥アヤンタの奴らはいい迷惑だろうな)
かつて、近隣を飲み込みヴァルサール大帝国を打ち立てるまでは、いくらでも獲物がいた。
山奥の小国だったヴァルサールが、ついに大陸西方一帯を支配下に置いた。
一部の国が海へと逃れ、その中でも大きな王国がアヤンタ王国だ。
東に新たな国を興し、近隣の住人を導くと称して支配し、血を混ぜ従えた。
100年ほどの間に力を持ったからくりはそこいらにあると。
帝国のおえらいさんと教会は考えたわけだ。
汚れた血を受け入れて、はびこる悪だと。
おあつらえ向きだったのだろう。
声高にそう叫び弾圧した。
どうやら東の果てにはそれなりに土地が有るらしく、かなり国力も上がっていると調べがついた。
なにしろ追い出した相手だ、力をつければ仕返しされると恐れもしたのだろう。
旗艦ヴァルテスタの後部甲板で、港をながめながら考えにふけるシャラハ。
シャラハ自身はわりと早期にヴァルサールに降伏した近隣の国の将だった。
それなりに使えると判断されたのか、王の首一つ土産で登用された。
一軍も率いていたので便利に使われながら、地道に味方を増やしここまで来た。
(まあ‥‥どうやってもここまでなんだがな‥‥)
外様の限界はこのポジションだとも理解している。
ただ、外様中心である反皇帝派閥はそうは思わないようで、軍部で派閥内最上級のシャラハに期待が集まっていた。
その中での遠征総大将なのだった。
(戻るは地獄‥‥進むもろくな所にはたどり着かんな‥‥)
このまま教会の指示に従えば、万単位の現地人を殺すことになるだろう。
兵士の中には二度と安眠を得られないものも出るかも知れない。
シャラハを筆頭に。
教会から枢機卿とかいうのが来て、偉そうにしている。
あれこれと細かく口出してくる。
しかも無類の女好きだ。
現地人の女を物色するため遠征に来ているのだと、揶揄する兵もいた。
その通りなんだよねとシャラハは頭を抱えた。
そんな中それは起こった。
天から女神様の使いがふってきたのだ。
それは美しい少女の形をした天災だった。
まず一人落ちてきて、甲板に大穴が開いた。
選び抜いた材料を、選びぬかれた職人たちにより組み上げた、この旗艦ヴァルテスタの頑丈な甲板に巨大な穴をあけて落ちてきた。
その乱暴な少女は聖騎士ジュノと名乗った。
女神さまの騎士なのだと。
かっこいいなとシャラハは思う。
(俺なんて女好き枢機卿のパシリだぞ)と。
次にふわりと降りてきたまた別方向の美しい少女は、また別方向で天災だった。
いきなりマストを一本へし折られた。
まちがえちゃった、てへみたいにだ。
この娘は空を飛び、フル装備のシャラハを片手で持ち上げる少女なのだ。
シャラハは思う。
(いや、何言ってるかわからないって?でしょうね俺も意味わからんし)
最後に極めつけだ。
黄金の光をまとい天使のような美しい少女が降臨なされた。
女神さまの使徒ヴェスタ様だ。
ひざまずけといって指差すだけでマストがもう一本折れた。
このお方も天災だったかと、シャラハは絶望した。
責任者だせと言われて枢機卿にふったらイヤイヤされて、そのまま伝えたらブチギレて船室をふっとばされた。
聖騎士ジュノは手持ちで大砲の何倍もの威力の銃を撃つ。
勝てるわけがないと、シャラハは思う。
色々と条件を言われたが、シャラハの実現できる内容だったので、胸を撫で下ろした。
文句があるのは枢機卿だけだろうといった要求だった。
案の定枢機卿は文句を言ってきたが、いやなら降りろと言ってやった。
ざまあみろとシャラハは思うのだった。
(バチがあたったんだな!)
と、にこにこして思った。




