【第109話:シナリオ6で行きますよ】
ヴァルサール帝国のシャラハ中将は、教会の圧力で植民地破壊の遠征を押し付けられた不運な提督だ。
(正直貧乏くじだな)
アズラミールの港に停泊する、三本マストの大型船ヴァルテスタの後甲板で、ぼんやりするシャラハはまったくやる気がない。
若者とは言えない歳なのだが、鍛えられた鎧のような筋肉と、戦場を生き延びた気迫を持つ。
はずだったが、今のところふにゃふにゃだ。
官僚たちの「昇進チャンス」というお世辞に気乗りはしないが、大規模な“見せしめ”を期待する教会の意向を無下にもできない。
(なんだかスーキキョーとか言う偉そうなアイツ‥‥うるせえよなあ‥‥)
教会から軍監として送り込まれた、おえらいさんだ。
青白いくせに偉そうでイラっとするが、そうも言えないシャラハの立場だった。
ヴァルサール帝国はかつて近隣を吞み込み勢力を拡大してきた――追われた一派が東でアヤンタ王国を興し、今や技術と兵力を蓄えている。
帝国と教会はそれを脅威と見なし、植民地を叩いて反撃の芽を摘もうと判断したのだ。
シャラハは冷ややかにそれを引き受ける。
(仕事としては簡単なぶるいなんだよな‥‥民間人を殺すとか気は乗らないがな‥‥)
勝てば手柄、失敗すれば責任――だが現場では民間人の犠牲も免れない。将としての苦悩を胸に、彼は命令を遂行するしかない。
今も同じ旗艦ヴァルテスタの艦内で、なんでも異教徒を救う為の儀式とか称して好き勝手にしている。
民間人の中から、気に入った女を連れ込んでは改宗させているのだ。
その救われる異教徒の選定に、随分時間がかかって足止めされている。
(まぁ‥‥クソなんだよな‥‥どっかで切り刻んでサメの餌にしてえが‥‥そうもいかねえんだよなぁ)
流れ弾で死なないかなと期待するシェラハだった。
どぉぉん!!
大型船の木製甲板に大穴が開いた。
二段目をぶち抜いて止まった外装フル装備のジュノは、あせった。
(ウソ?!もろすぎでしょ?!これ軍艦じゃないの?!)
高度1200mをフライバイしたVTOL機から飛び降りたジュノは、つい先日の領主邸と同じ感覚で着地した。
一応減速のために高圧空気を噴出して、半分以下の速度にはなっていたが、なにしろ体重を含めると200kg近い重さの金属の固まりだ。
ばしゅん
慌てて甲板にもどるジュノ。
すたっと穴の横に着地して、拡声した声で叫ぶ。
「おい!一番偉いやつ!出てこい!船沈めるぞ!」
ストレートな脅しだったが、なにしろ大砲を甲板にぶち込まれたような状態だ。
わーわーと騒ぎになり、まもなく偉そうなヤツが出てきた。
「な、なにものだ!これなるはシュレトフ教会の枢機卿ファレチフなるぞ!」
最初に飛び出してきたのは、位置的に遠かったシャラハ中将では無く、軍監として乗り込んでいるファレチフだった。
皆におだて上げられて偉い=強いと思い込んでいるので、怖いもの知らずに出てきたのだ。
たん!
ぴゅぅうん
枢機卿の被っていた、えらそうな帽子に巨大な穴が開いて後ろに落ちた。
「お前が一番えらいのか?」
ライフルで10m程度先の帽子を撃ったので、ロックオンすらしなかったジュノ。
ライフル上部の照準器だけで命中させた。
射撃の腕前もいいが、銃が高性能というのもある。
「いけません枢機卿お下がりを、ここはマルトラにおまかせを、さがれ!下郎」
枢機卿のよこから前に出たのは、どことなくアイカに似た雰囲気の白服を着て、金属の杖を持った男だった。
ごにょごにょと詠唱を始めたので、ジュノは先日の黒アイカを思い出し、ぞくっとした。
ゾクッとしたので、咄嗟に撃ち殺した。
たん!
ぼひゅ
枢機卿の上にマルトラと名乗った男が粉々になって降り注いだ。
初速4マッハに達するレールガンの弾丸は、帽子の布と違い人間の肉体で受けられる運動エネルギーではなかった。
どさっと倒れた下半身の向こうでペタンと座った枢機卿。
「抵抗すると殺すぞ」
殺してから言うのもおかしいかな?とジュノはちょっと考えたが、正当防衛だからいいやと忘れることとした。
『ジュノ!どうして殺すの?!』
上空の式神から送られてた映像をみてヴェスタからお叱り。
『ごめん、なんか式か魔法か使おうとしたんだよ!とっさに撃っちゃった』
『あ、じゃあしかたないか?』
ヴェスタも納得した。
『じゃシナリオ6に移行で』
『ラジャー』
映像を追って確認したのか、アイカも発言。
『今確認しました、間違いないです魔力が集まってましたよ!ジュノ次も遠慮なく撃ってください!アイカも知らない呪文でした』
「これ以上この大陸の側で争うなら、我々が粛清する」
がたがたと震えて答えない枢機卿。
後甲板のデッキでのんびりそれをながめている男はシャラハ中将。
キレて立ち向かっていって殺されないかなぁと後ろでのんびり見ているのだった。
(しかし‥‥あのライフルおかしいだろ?魔法なのか?)
威力がおかしいジュノのライフルに混乱を覚えるシェラハ。
「まずは武装解除して投降しろ」
高度1200m上空で旋回待機にVTOLを設定してきたアイカも、しゅたっと降りてきた。
ちゃんと壊さないで着地できたのは、ジュノの着地状態を確認したからだ。
おお?!とまたどよめくが、アイカの一喝でだまる。
「以後許可なく発言したら撃ちます」
たたたん
ちょっと脅しと思ってレールガンを空中にばらまくアイカ。
一発が偶然マストに当たり半分くらい削れた。
「あ、しまった」
左手で口をかくすアイカ。
当てるつもり無く撃ったので驚いたのだ。
ぎいいぃぃぃぃぃぃぃどごん
マストが自重に絶えられず折れて倒れてしまった。
大きな横帆は畳まれていたので、そのまま海にどぼんした。
「アイカ‥‥こわしすぎ」
「だってぇ‥‥当たると思わなかったの」
ジュノに怒られてしゅんとなるアイカ。
一回撃ってみたかったんだもん、とかごにょごにょ言っている。
船員達は目と口が限界まで開き固まった。
後甲板で見ていたシェラハも同じ顔になる。
(ば‥‥バカな‥‥50cmは太さの有るマストを‥‥一撃だと‥‥あと撃ちますの後だれも発言してませんが?なぜ撃ったの?!)
『ア・イ・カ‥‥』
『あぅ‥ごめんなさいです‥‥』
『‥‥シナリオ6継続よ。次からはアイカは魔法で対応すること!』
『あい‥』
ヴェスタにも怒られて涙目になるアイカだった。
アイカはライフルは慣れていないので、適当に撃っただけだった。
ジュノが改めて叫んだ。
「私は女神に使わされた聖騎士ジュノ。逆らえばラウメン神聖国に逆らうのだと認識する」
アイカが調べ上げたこの大陸の砂漠にあったとされる神々の国の名をだしたジュノ。
圧倒的戦力をもった第三国がここに有るのだと。
そういったシナリオだった。




