【第108話:この先にすすむために】
2日かけてナノマシンを増やした後で、各々のデバイスとストレージにも再分配した。
ナノマシンポッドの残量は53有ったので、振り分けても46残った。
「ふぅ‥‥一時はどうなるかと‥‥よかったです」
アイカもやっと胸を撫で下ろした。
先々でNPは2000とか4000とか求められるので、切り替えられないとティアがあげられなくなるのだ。
こわごわと、新たに設置したマニュアルソウサパネルで切り替えると、問題なく残数を保持しながら切り替えられた。
「うん!これで先に進めるのです」
タスクマネージャーでもあるアイカとしてはやっと前に進む準備が整った気分。
触媒はしばらく困らないくらいあったので、時間さえかければナノマシン問題は解決した。
「じゃ、あとは‥‥計画を進めるだけだね」
決意のこもるヴェスタの顔。
真剣にうなずくジュノとアイカがいた。
「今日は色々準備をして、アイカの式神で偵察だけしましょう」
「りょうかいです」
ヴェスタもうなずいて告げる。
「偵察結果にも寄るけど‥‥基本的に明日決行し、そのまま場合によっては攻め込みます!」
ヴェスタとしては、戦争をする覚悟で始める作戦だった。
「うん‥‥無事降参してくれるといいね」
ジュノの願いはヴェスタ達三人の共通の願いだった。
アイカの式神はわりと空洞が多い。
これは軽く作り、機動性を高めるとともに、いざとなれば増槽として使える空洞なのだった。
パルスジェット用の混合燃料を満載すると、式神の航続距離は2000kmを越える。
巡航速度の800km/hでの性能だ。
小型のジェット戦闘機に匹敵する性能といえる。
十分に充填した式神を一機だけ飛ばした。
港街アズラミールの偵察だ。
恐らくあの規模の船団ならば、すぐに動いていてもまだ出港できていないと予測した。
しゅぅんと静かに飛び立った式神を見送り、アイカは映像をデバイス経由で拡張マップとともに表示する。
ダイニングのテーブルセットの上だ。
「おそらく30分程度で目標エリア到達です」
アイカがそう言って、お茶を淹れ始める。
これはアイカの練習でもあって、今地下の坑道ではマクラが2機採掘を再開している。
そして、拠点上空にもアイ04のこめられた式神02が飛行中。
4機の式を同時運用しながら、別の作業をアイカがするという訓練だ。
十分に採掘が進めば、式神を2機増やす予定なのだった。
専任のAIなら12機同時コントロールなども可能だそうだが、義体をコントロールしなければ、アイカでも可能とのこと。
「ふふ、アイカもだいぶ器用になったね」
初期にはマクラ2機でも苦労していたアイカを知っているヴェスタとしては、格段の進歩に見えた。
「アイ達のおかげです」
にっこり笑う余裕も有るアイカ。
これで地下ではどんどん採掘もして、精錬機に資源が送られている。
今はアイ03が式神01で偵察に飛んでいて、アイ01はセウパイラルアークに詰めている。
アイ02は今の時間は外で羊の世話をしているが、今日は基本的にアイカ当番になっている。
お茶も入ったところで、作戦の確認を始める3人だった。
「配置の確認から行くね」
ヴェスタが真面目な顔になり告げる。
ふたりも表情を引き締めてうなずいた。
「スパイラルアークは私が操船して、高度22000まで上げます」
20kmを越える高度に上がるのは初めてだが、観測によればこの近辺ならまだまだ成層圏の中だ。
「VTOLにはアイカとジュノで行ってもらいます」
VTOLはアイカの無線操縦で高度を下げ侵入する予定だ。
うんうんとまた二人がうなずく。
「あとは‥‥シナリオごとの配置ね‥‥」
そうして細かなシュミレーション結果ごとの配置を確認していく。
人数の少ないチームなので、大体が兼任で仕事をするので、一々確認しないで済むようにと打ち合わせだ。
帝国側の反応で大きく4つにシナリオを分ける。
あとは可能性の高い部分だけ打ち合わせて、詳細はアイカが表にまとめ共有した。
「じゃ、最後にジュノのスマートライフルの試射をしましょう」
「やったぁ!撃つ撃つ!!」
ジュノのやる気にヴェスタもアイカも苦笑い。
ジュノは武器を射撃するのが結構好きだ。
別に人殺しが好きというのではなく、ぶっ放すのが好きなのだ。
外装を身に着けていくジュノ。
スマートライフルは本来は中距離支援向けの装備だ。
曲射なら射程が20kmほどある支援兵器だが、中近距離での火力用にも使える。
特に1000m以内では弾頭によっては荷電粒子砲に匹敵する火力を出せる。
今回は非装甲船が目標なので、本番の弾頭は榴弾と言われる炸裂弾を使う。
試射は普通にメタルジャケットの通常弾だ。
試射の的をアイカが運んで設置する。
海側の斜面に設置して、それぞれ500m、1000m、1500mに置いた。
アイカはスーツの補助だけで無く、魔法の身体強化も併用する。
これも訓練の一環だ。
うっすら朱色に光るアイカはなかなか綺麗だった。
「ただいま!」
「ふふ、かっこよかったよアイカ!光ってた!」
「えへへ」
てれる可愛いアイカをよしよしとするヴェスタ。
ジュノはフル装備で、外に置いてあったスマートガンを装備する。
ガシャと立てて持てばジュノの身長の1.5倍は有る全長。
電源補助用の太いコードがメタルスパイラル付きでバックパックとつながっている。
電磁加速によるレールガンだが、バレルも出力もいつもの武装とは一桁違う。
とんしゅん!っと圧縮空気も吹いて、スパイラルアークの上部に飛び上がるジュノ。
『それじゃ試射始めるよ、熱負荷も見たいから連射になるからねヘッドフォン推奨!』
短距離通信で言ってくるジュノ。
大きな音が出るよと警告だ。
ヴェスタはしゅるっと保護スーツのヘルメットを被る。
アイカは外装のヘッドセットが耳を塞いでいる。
『じゃいくよー』
宣言後に速射するジュノ。
どぉん!どぉん!どぉぉぉぉぉん!
三連射の発射時に、金槌のような横向きのマズルから長大な火炎を吹き出し的が爆散する。
射撃の瞬間にジュノの外装も連動してパルスジェットを後方に吹く。
反動を受け止め照準を安定させる工夫だ。
500m地点は跡形もなくなって、クレーターのようになった。
800mでも的は粉々になって散らばり、1000mも結果は変わらない。
あの短時間で三連射して、きれいに命中させる技量も驚きだった。
『あふぅっん‥‥たまんないわぁもっと撃ちたい!』
『おしまいです!』
さらに撃ちそうなジュノをあわててアイカが止めた。
ライフル後端のマガジンにはあと4発入っていて、直径30mm✕長さ250mmの弾頭を7連射できる仕様だ。
ジュノがうっとりしながら降りてくる。
銃身が赤く焼け、焦げ臭さがただよう。
「すっごい熱くなったよ!」
「今回のは連射しない予定なので、銃身は空冷なのですよ。機関部は油冷ですけど‥‥」
銃身の上に補強の意味もあって、空冷用ベンチレーテッドリブが乗っている。
アイカの設計では3発以上の連射を想定していない。
間をあけて冷ます運用だ。
「これで‥‥武装もそろったわ」
ヴェスタの宣言に真面目な顔で二人もうなずいた。
過剰なまでの兵器は、戦わないで済ませたいとの願いでもあった。




