【第107話:そうだ、温泉に行こう】
午後も、なんちゃってサバイバル生活を整え、たのしく過ごした三人。
外で星を見ながら寝ようとジュノが言い出して、急遽船から引っ張り出してテントまで張った。
一番大きいものが二人用だったので、だいぶ狭いのだが、なれっこの三人は仲良く眠れた。
「照明を全部落とすと‥‥とんでもない星の密度です」
アイカが感動してふるえる。
またたく星々は知らない星座を描く。
この近辺の星系データは全てもっているアイカ。
やろうと思えば脳内で同じ画像を生成出来るのだが、手を伸ばせば触れそうなその本物の質感に震えたのだ。
「本当ね‥何度も見上げてきて見慣れてきたけど、この星空を知っている連邦の人間は私達だけなのだわ‥‥」
ヴェスタも感動をしめした。
「現地の人からしたら、とんでもない話だろうけどね!」
ジュノがふざけて言うので、ふたりもクスクスっとして、微笑みあう。
いつものようにジュノ・アイカ・ヴェスタと並んで、ぎゅうとアイカを抱き潰す。
アイカも慣れたので、いちいち嫌がったりしない。
そっと微笑みながら目を閉じるのだった。
ずっとこうしていたいなと思いながら。
夜中に喉が乾くかもと、トレーに乗せた水さしとコップを準備してあった。
ジュノはこういったことにとても気がまわり、二人は助けられている。
いつものように早めに目覚めたアイカは、二人の寝息を楽しみながらクリっと上向いて、コップの影を見つめる。
なんでもない安物の青い成形グラスなのだが、朝日をすかして青色の影を伸ばしている。
きらきらと光る水さしやコップ本体より、その透かす影が気に入ったアイカは、飽きもせずながめていた。
(青いガラスは、原料に酸化コバルトなどの金属酸化物が添加されています。これにより、青色以外の波長の光がガラスに吸収され、青色の光だけが透過するため、人間の目には青く見えます )
うっとりした目線で風情のないことを考えるアイカ。
頬をちょっと染めて潤んだ大きな鳶色の瞳が科学的観察を続ける。
(青い光だけが透過し、それ以外の色は吸収されます‥‥ガラスを透過した光が当たる部分は青色になり、その周りの白い光が当たっている部分との対比で、ガラスの影が青く見える‥‥とてもきれい)
最後の一言がアイカのこころを温めるのであった。
いつものヴェスタ寝ぼけ芸とジュノ甘えん坊を堪能してから、のんびり朝ごはんまでこなした。
「あっちに温泉があります!」
ジュノが山頂方面を指さした。
「どれくらい先なの?」
ヴェスタが心配そうに聞く。
ここいらでは硫黄の”い”の字も匂わない。
「たった15km!」
『いや遠いて!』
ジュノの答えに声を揃えるヴェスタとアイカ。
「それは山頂をこえるのでは?」
「うん?」
アイカの指摘に不思議そうに答えるジュノ。
ジュノがまだ刺している山頂をみる。
峻険とはこれを見て作った言葉かと思うような峰が横たわっている。
「が‥崖だよ?」
「あ‥‥そっか飛べないのか‥‥」
しょんぼりするジュノはやはりスーツで飛ぶつもりだったようだ。
あのチタンを求めて登った山に比べればチョロいものではあるが、スーツ無しでは命がけの登山になるだろう。
「‥‥まぁいいか?明日にはナノマシンも落ち着くだろうし‥‥電源も戻せるよね?アイカ?」
あんまりジュノがしょんぼりなので、可哀想になるヴェスタ。
「そうですね‥‥しっかり節約してきたので、それくらいはいいでしょう」
アイカもにっこり笑う。
実はアイカは温泉を実地体験したことがないので、ちょっと気になってはいた。
「ほんと?!いいの?」
うんうんと笑顔でするヴェスタとアイカに、ジュノもにんまりする。
「すごい大きいみたいだから、浮き輪持っていこう!」
「そうなの?」
拡張マップを確認するアイカ。
「あ、ほんとです‥‥そこの火口湖とおなじくらいある」
山脈がでかいので、小さな点に見えるがスケールを整え得ると以外に大きいものが結構ある。
普段VTOL機で移動していると、スケール感が狂う。
「‥‥アイちゃん達は防水できるのよね?」
「はい!v.5.02にからは、保護膜で全身カバー出来ます!」
義体のヴァージョンの先頭の数字がティアになっている。
アイ達の小さな義体はティア5であった。
『わーい!』
アイカに掴まって聞いていたアイ達も、連れて行ってもらえると大喜び。
「ふふ、おるすばんはマクラ達にお願いしますね」
アイ達がジャンケンを始めたので、みんなでいくよとアイカが抱き上げた。
ジュノとアイカのティア6の外部装備は瞬間的には音速に届く推力が有る。
山登り程度ならパルスジェットを使うまでもなく、ジャンプと圧縮空気の噴出で十分登れた。
5分とかからず山頂にでた3人が眺め下ろす。
「おおぅ!すごい絶景ね!」
山脈の山頂を超えれば広大な海まで見晴らせた。
波打ち際のエメラルドグリーンから始まり、明るい青から紺色へいたるグラデーション。
水平線では白くかすみ、そらの青に溶け込んだ。
「はぁ‥‥」
アイカの口からもため息が出る。
感動に頬をそめる妹をみて、ジュノとヴェスタは見交わして微笑んだ。
「あれだね!」
ジュノが右下に見えた緑色の水面を指さした。
「おぉ‥‥すぐそこだね」
落差は4~50mあるが、距離は100m程度だろうか。
急峻だが、スーツがあればなんということもない距離。
とんっとジュノがジャンプする。
恐らく一飛で到達する距離だ。
水面を越えたすぐ先に着地するジュノ。
一瞬圧縮空気を吹き出して減速したようだ。
戦闘機動にしかみえない動きだった。
両手をぶんぶんと振っているジュノを見て、見合ったヴェスタとアイカは笑いだしてしまう。
あははっと言いながら、ジュノの半分以下の距離をぴょんぴょんと下りていくアイカとヴェスタだった。
下まで降りていくと、ジュノは温度を確かめて、スーツの簡易マインビームで泉質を見ていた。
「弱アルカリで‥‥あんまり濃度はないねうっすい。温度は37℃前後で、奥は熱いみたい」
降りてきたヴェスタとアイカが目を見開いた。
「すごい‥‥」
「わぁ‥‥」
温泉は崖から湧き出しているのだが、この窪地は洞窟になっていて、おくにとても広い水面が広がっていた。
「すごい‥不思議な温泉だね?偶然となりが玄武岩窟だったと?そうゆうこと?」
アイカが呪文を唱えて魔法行使する。
『System.Command:luminous.lamplight ()――Execute』
ぱぁと灯った薄緑の光が奥に向かい飛んでいく。
「おぉぉ‥‥」
ジュノも声を失うほどの美しさ。
硬い表面を見せる切り立った洞窟の奥は、底が見通せないほど深くなっているようで、薄緑に照らされ幻想的に浮かび上がった。
「あれみて!水晶だわ!」
奥の壁一面がキラキラしていて、よくみれば水晶の結晶がびっしりとあるように見えた。
「‥‥これアメジストです」
アイカが魔法をコントロールしながら確認すると、紫水晶の固まりだと解った。
「ねね!はいってみようよ!」
「そうね!近くまで行ってみましょう!」
ジュノとヴェスタがじゃばじゃばと入っていく。
置いていった荷物から、色々と準備をするアイカ。
「おいでみんな!」
『はぁい』
アイカが準備した小さな桶にはいるアイ達。
アイ達用にと準備してきたのだった。
ぷかぷかと水面にはなつと、ぴーちちちぴっとアイ同士で楽しそうに話し始めた。
アイカにも聞き取れるが、喜んでるなとだけ優しい目で見送った。
「結構ぬるいですね‥‥」
ちゃぷと手で触ってみると、意外にぬるかった。
アイカもスカートのように広がっている保護膜をしゅっとワンピースの水着のようにして、ざぶぶと温泉に入った。
それはアイカの見た景色の中でもベスト5に入る美しさだった。




