【第104話:シリアスアラーム】
拠点内にもスパイラルアークからアラームを受け取るデバイスを置いてある。
地下まで聞こえるようにと、大きな音を出せる仕組みだ。
形としてはラッパだった。
びーー!びーー!
繰り返し2回のアラーム。
船体に関するシリアスアラームだった。
明け方に近い時間。
ばん!
裸で個室から出てきたジュノがしゅるんと白い保護膜をまとう。
『あいか!!』
一度霊子通信で叫んでから、スパイラルアークに向かい裸足のまま走り出した。
だだっとヴェスタもやっと出てくる。
明るい場所にでて、裸だったと気付いて、ジュノと同じように首と腰のリングでしゅるんと保護スーツをまとった。
スリッパのままアークに向かうヴェスタは、成り続けるアラームですっかり不安になってしまった。
(アイカ‥‥)
昨夜の晩御飯でアイカが船体を調べると言っていたので、この不具合に関係しているのは間違いないだろう。
2度なって一度休むアラームは、母船スパイラルアークが航行不能となるような不具合で発するコードだ。
ちなみに一回づつ鳴るのは襲撃と判定する。
より早く気づかなければいけない内容を少ない回数で知らせる。
そして、鳴り止まないのは、現場で止めるすべがない場合だ。
操縦室に向かったヴェスタが出てくるジュノとはち合わせる。
「いない!」
短く言うとジュノは後部の荷室側に走る。
「アラームとめて!」
それだけ叫んで風のように走りさるジュノ。
シリアスアラームは、発生地点以外ではヴェスタしか止められないのだ。
キャプテンシートの端末に、ヴェスタが手を触れて、やっとアラームが止まった。
画面の表示は船体に異常としか出ていない。
通常はその後にどのユニットか、場合によってはどんな内容かと詳しく出るはずだ。
(‥おかしいわ。外観も見た感じで異常はなかった。アイカはナノマシンポッドを調べると言っていた)
そもそも最初の霊子通信にアイカの返事がなかった時点で、最悪を想定したのだ。
『ヴェスタ第一格納庫に来て!』
ジュノからの通信だ。
『りょうかい!』
手短に答え、ヴェスタも走り出した。
(いやよ‥アイカ‥)
ヴェスタの翡翠の瞳がついに滲んであふれた。
ジュノの声に切迫した気配を感じ取ったのだ。
「あーん!ままあぁ!!」
アイ01がぽすぽすとナノマシンポッドのあるユニットの扉を叩いている。
「ジュノ!」
ヴェスタもたどり着いて、声をかける。
ジュノは通路横のメンテナンスハッチに上半身を入れていた。
白い保護膜につつまれた下半身がうねうねと動く。
中でなにかしているようだ。
取り合えすアイ01から事情を聞こうと抱き上げる。
「アイちゃん!おちついて!どうしたの?」
「ママが中にいるのに!しまったの!」
あーんと無き続けるアイをぎゅっと抱きしめるヴェスタ。
ぷしゅ!
圧縮空気の音を立てて扉が開いた。
「アイカ!!」
ヴェスタはユニット内に駆け込んだ。
小さな制御端末が足元に落ちている。
拾い上げればそれはアイカの使っているものだ。
ガラスの仕切りが下りていて、一段下がったその向こう側は、本来ナノマシンの貯蔵槽だ。
「そ‥そんな‥‥ナノマシンが空だわ」
通常は虹色に輝く液体のように見えるそれがない。
そしてアイカも見当たらない。
「アイちゃん状況をおしえて!おねがいよ!」
アーンと無き続けているアイ01をぶんぶんとふるヴェスタ。
「あぅん、ま‥‥ママが中から操作していたらしまったの‥‥」
アイは外のメンテナンスハッチに入って、アイカの指示でマニュアル操作を動かしていたらしい。
「な‥‥何をうごかしていたの‥‥」
「えと‥‥拡張機能だよ?」
がくっとひざを付いたヴェスタ。
ジュノがやっと戻り、訊ねる。
「どうなったの!アイカは!?」
ヴェスタはぽろぽろと泣き出してしまう。
「うっうああぁあああん」
アイ01も一緒にあーんと泣き出す。
「ヴェスタ!しっかりしてえ!」
ぎゅっと抱きしめるジュノ。
「ぐす‥‥あ‥アイカは拡張機能の中だわ‥‥きっと」
びくんとふるえるジュノ。
「そ‥‥そんな‥‥‥‥いいえ!ヴェスタしっかり、アイカはスリープできるはず」
はっとヴェスタも思い出す。
すっかりアイカのことを人間だと思いこんでいた。
拡張機能でシフトした空間では気体ですら分子が動かないので、呼吸が出来ないのだ。
アイカはスリープにはいれば30分程度無酸素でも死なない。
そもそも義体が死んでも本体はスパイラルアークのCPUにいるのだ。
それでもとジュノとヴェスタは恐れる。
義体を失いリブートした時、そこにいるアイカはあのアイカではないと。
たたっとメンテナンスハッチに戻るジュノ。
「ヴェスタもアイも外に出て!」
思い至り、作業をしながらジュノが叫んだ。
「うん!」
ぐすっと鼻をすすりながらも慌てて外に出るヴェスタ。
アイ01も泣き止んでふるふると震えている。
「ドア閉めるよ!」
叫び声とともに、ジュノの操作なのか、ぷしゅっとドアが閉まる。
「操作バイパスパネルを開けて!ドア横右側のしたよ!」
ジュノの指示に従い、ドア横のパネルを見るヴェスタ。
すでにパネルは開いていて、アイカも操作したのだろう。
ダイオードのサインと、ショートコネクタなどが収まっている。
「3番と4番は?光ってる?」
ジュノの声に焦りが交じる。
「光っているわ!」
「3番のピンを抜いて!それで動くはずだから、ドアの数字が変わったらもどして!」
電子制御の不具合修理の為に、直接作動部品を動かすパネルだった。
ドアの横にある表示窓の赤いセグメント表示が2になっていることに、今ヴェスタは気付く。
着陸してからずっと1だったはずだ。
ピンをぬくとギュイーンと作動音がして、数字がパタと1になる。
ぱっとヴェスタはピンを刺し直した。
「1になったわ!」
ジュノに叫ぶヴェスタ。
「今開ける!」
ぷしゅっと音がしてドアが開いた。
「アイカ!!」
そこにはくったりと倒れているアイカの姿。
アイ01も飛び出してアイカにすがった。
ヴェスタは抱き上げて、アイカを抱きしめた。
「アイカぁぁ!!」
まったく呼吸も心音もないあたたかな身体を、恐怖に震えながら強く抱きしめ続けた。
『トクン』
よわよわしいが間違いのない心臓の動きをヴェスタは感じ取った。
そのために強く胸を抱いていたのだ。
「あぁ‥ぁ‥あいか‥‥よかったぁ‥‥」
真っ赤な顔でぽろぽろと流れ落ちる涙は、意味を変えてヴェスタを癒やす。
だだっと入ってきたジュノにも顔をあげて笑ってみせるヴェスタ。
「アイカは!?」
ジュノはまだ不安そうだが、ヴェスタの表情から、大丈夫だったと気付いてはいる。
「無事だと思う、心音があったわ」
スリープ中の義体は極端に心拍も血圧も下がり、呼吸は非常に稀になるのだった。
「エンジニア席に連れて行って、強制復帰させよう」
ジュノにもやっと笑顔が戻り、ぽろりと涙がこぼれた。
こくとうなづいたヴェスタがアイカを抱いて立ち上がる。
あーんといつまでも泣き止まないアイ01を抱き上げ、ぎゅっとするジュノ。
「アイちゃん大丈夫、ママは大丈夫よ」
そういって頬に押し付けられて、アイ01も気付いてジュノを見た。
「もうだいじょうぶ」
ジュノの顔にぎゅっと抱きついたアイも、やっと泣き止むのだった。




