【第102話:WE'RE HERE 】
リステルがアヤンタ王国にたどり着いたとき、そこは未曾有の混乱の中にあった。
軍港には続々と各地から軍船が集められ、丘では物資がかき集められていた。
「すいやせんが‥‥補給は3日程かかりやす‥‥」
配下の船員が済まなそうに言ってきた。
軍部優先でかき集められて、コネなしじゃ無理と諦めて戻ったようだ。
「しかたないよね、交代で休ませて。沖のやつらもね」
「へい!ありがてえ」
3日の休暇は長いか短いかとリステルは思う。
島から6日休み無しだったのだしいいのかなとも思った。
揚陸艦4隻は沖合に待機させ、商業港に旗艦だけで入港したリステルは、予定通りでいいのか迷う。
逃げ出してきた島の街ウルヴァシャックの領主はウルヴァン男爵という。
王都マヤカランでは領地はなく、宮廷貴族として抱えられている家だった。
かつては王都近郊に領地をもった子爵家で伝統ある家系だったらしいが、先代あたりでこけて今に至るらしいと、リステルは調べ上げていた。
「いったん辻褄も合せたいし‥‥いってみるか」
王都で男爵が与えられた家も調べてあるので、まずはそこへと考えていた。
港は戦争騒ぎで、兵たちもピリピリしている。
この中で王宮に出向するのは危険かもと考えた。
当初の予定ではこの国の貴族に収まり、こっそり生きていこうと考えたのだ。
ウルヴァン男爵は正妻も伴って島に行ったようで、あちらでは見ていないので、不幸でもあったかなとリステルは考えた。
(責任者は家宰と言うのだったかなこちらでは‥‥そいつを納得させたら次を考えるか)
リステルは護衛すら伴わず、島出身のメイド二人を連れて下船する。
この婦人達はリステルの切り札に付随する人間だ。
(切り札ね‥‥お母さん元気かな‥‥‥‥生きているだろうか?)
メイド達にはリステルを領主代行と認めさせて連れてきた。
認めなければ置いていくと言ったら即答で認めた。
二人は大事な荷物と、そうでもない荷物を抱えて大人しく着いてくる。
港から坂になった市街区に上がっていくリステルは、常にそうしているように情報を集めながら思考を止めず歩き去った。
「街に行ってみたいのです‥‥ダメですか?」
アイカのおねだりに二人がいやという訳はなかった。
「見つかっちゃわないかな?」
「平気でしょ?見た感じ私達と同じ作りだし‥‥ここの人間」
ヴェスタは心配したが、ジュノは楽観。
アイカは情報をもっともらうには、街に潜入したらいいと発案した。
幸い先日の強襲救出拉致作戦中に、一通り現地の風俗や風習に関する情報は得ていた。
ジュノももう行く気になっているので、アイカの横でヴェスタを見ている。
行きたいと顔に書いてある。
ヴェスタも眉を下げつつも同意した。
「3人一緒ならいいよ」
にこっと笑いそう告げた。
なかなか笑顔が上手になったなと、複雑な思いのジュノだった。
新型VTOLのお陰で展開速度が上がり、範囲もかなり広がる。
元の拠点にも一時間かからず到達するので、領主の街ウルヴァシャックでリーシャさんの様子も見てこようと決めた。
こちらの大陸には今帝国の船が来ているので、怖いよねとのヴェスタの意見が採用されたのだ。
先日ジェスタを送ったカルサリクも候補に上がったが、距離的にあまり変わらないしリーシャさんを見つけたら、情報をもらいやすいとも考えたのだ。
拠点には留守番のアイ01とアイ02。
式神も01を置いてきていた。
いざとなれば、式神でアイ達が戦えるし、魔力リンクでアイカの目が届く。
この霊子波をつかったリンクには距離による時差がないので、監視装置としても優秀だ。
先日のアズラミール上空を高高度で通り、岬の先の街ミルザーンの上空も通り、監視も兼ねている航路だ。
「‥‥船がふえてます‥‥20隻はいるかな?」
アイカが画像解析して、報告する。
ヴェスタは機嫌よく操縦中。
「ふむふむ‥‥艦影からすると‥‥輸送船かな‥‥」
「そうですね‥‥帆船のようですが船幅が大きく遅そうです」
「そうか‥‥人を連れて行く気だ‥‥だから集めていた?」
ジュノが思い至りキッと厳しい顔になる。
アイカは心配そうにジュノを見たが、何も言葉は伝えなかった。
すぐに岬の街が見えてきたのも有る。
人気がなく、各所に争った様子と破壊された施設。
「こちらもやられていますね‥‥防衛戦力はなかったのですかね?」
アイカの報告に、ジュノが答える。
「アズラミールもあまり大規模な戦力を持っていなかったようだし、想定していなかったのかな‥‥襲撃されることを」
操縦しながらヴェスタも会話に入る。
「そうだよね‥‥ウルヴァシャックも海軍を持っていないようだったもの」
「おそらく本国の認識が甘かったのだろうね」
ヴェスタの意見を肯定し補足するジュノ。
海を渡るとすぐに懐かしい島影が見えた。
「わぁ‥‥ねね一回最初の拠点も見たいな!よってもいい?」
「いいね!なんだったら下りてもいいよ」
ヴェスタの意見に賛成するジュノ。
「そうですね、3人が最初に下りた地ですものね」
アイカも賛成し、寄り道が決まる。
少しだけ右に進路を穫ればすぐとなりの島も見えた。
こちらのほうが標高が低いので、後から見えたが距離は変わらない。
「おぉ!ちゃんと落書きのこってる!」
「あはぁ、ほんとだ!」
旅立つまえに、滑走路にペンキで書いてきた落書きがちゃんと残っていてテンションの上がる3人。
せっかく滑走路があるのだからと、通常着陸。
どひゅ
ランディングギアが地を掴み、エアブレーキとフラップで下りた。
先に下りて周囲警戒したジュノに後から下りた二人が近づく。
「‥‥ほんの一月前か‥‥ここを出たの」
ジュノのこぼす言葉には淋しげな響き。
理由は自分でも解らなかったがアイカはジュノとヴェスタの手を取る。
二人に挟まれて歩きたかったのだ。
ジュノがにこっと笑い、アイカも笑った。
二人の笑顔で、ヴェスタにも自然な微笑みが浮かぶのだった。
「ここから始まったんだね‥‥」
変化のない3ヶ月の航海と比して、なんという密度の日々だったかと。
3人の心に同じ感嘆があった。
建物の中や、クレーターの様子なども見て、きゃっきゃとしてから目的地へ飛び立つ。
タキシングして離陸すれば、また三人の笑顔の落書きが見送ってくれる。
思いがけない里帰りのような気分を味わった三人は一言だけ追記して行った。
『ここにいるよ!』と。




