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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第1部 第10章
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【第100話:帰ったらいっぱい寝ます】

「よし‥‥最初に言っておくぞ‥‥逆らえば楽に死ねると思うなよ」

野太いドスの聞いた声がアイカのかわいい唇から漏れる。

キリッとした顔なのだが、瞳も大きいし、唇は桜貝のように可憐なので、愛らしいとしか見えない。

捕虜は目隠しで縛り上げ起こしたので、ずぶ濡れで地面に転がっている。

「くっアヤンタの噂に聞く黒の群狼か?特殊部隊だな?」

カキカキとジュノがメモを取る。

はい情報ありがとうくらいの勢いで話してくれる。

「次の目標はカルサリクか?サラディクからか?」

アイカは自由に声を変えられるようで、ドスの聞いた迫力満点の声だ。

「‥‥」

「だんまりは寿命をみじかくするぜ」

「クソ‥‥しらねえんだ。ほんとだ?!」

「嘘は寿命をのばすが‥‥苦しむ時間をふやすぞ?」

「‥‥カルサリクは行かないと聞いた‥‥」

わりと根性がないようで、アイカの脅しでペラペラしゃべった。


「いいだろう‥‥他に言い残すことはあるか?」

「くぅ‥‥はやくやれよ‥‥」

くすんと泣き出してしまったので、ジュノがパチンして眠らせた。

再度袋詰めして荷室に放り込むアイカ。

アイカは保護スーツも強化魔法も無くても、この男くらいは片手で持ち上げる。

「まぁこんなところですね!」

かわいらしい、いつもの声にもどるアイカ。

「ふふ、アイカはすごいわ。ありがとう」

ぎゅむっとヴェスタに抱かれて、てれてれと赤くなるアイカ。

とてもさっきまでのドスの効いた声は想像できない。




先程の襲撃した街はアズラミールという。

まず夜のうちにアズラミールの郊外で、袋詰め人間をポイしてもどるアイカ。

兵士の巡回ルートなので、すぐに保護されるだろう。

すぐ近くまでVTOLで来ていたので、今度は北に向かいカルサリクというこの大陸最大の都市に向かう。

アズラミールの北東500kmほどにあり、海上を進み小一時間でついた。

東西に海岸線に沿うように広い市街地を持ち、港も2個所ある。

河口近辺と、工場や倉庫が立ち並ぶ地区に港が有った。

もっとも山脈に近い辺りで郊外に機体を隠し、ジュノが横抱きで運び、街外れの公園で起こす。

ベンチに座るジェスタに後ろから声をかけるジュノ。

「ごめんね‥‥後ろは見ないでね。目を閉じて10数えたら自由にしていいよ」

「はい‥‥‥‥‥‥すごい本当にカルサリクだわ」

ジェスタが目を閉じたところでジュノはバックステップからジャンプで明け方の静かな郊外に消えていった。

さいわいジェスタの知っている公園だったので、親戚の家までなんとか辿り着けそうだった。

「いったいどうやって移動したのかしら?船なら港に付きそうだけど‥‥まぁ軍機といってましたからね‥‥」

そうしてジェスタは命拾いしたのだと、後日知る事となった。




一旦拠点に帰ろうと決まり、どうせなら最高速を試験するとなり、ヴェスタが気合を入れる。

砂漠に出て高度8000mを水平飛行。

この高度では空気密度が地上の半分以下。

ジェットの燃焼効率は落ちるけど、空気抵抗も激減。

だから実質この高度が「伸ばしどころ」だった。

ヒィィィィ!!ドン!ばりばりばり

ジェットの推力をあげると、白い円錐の衝撃波雲を瞬間的に描き、ソニックブームを撒き散らして音速を越えた。

ここまでは遠慮して音速を越えないよう飛んできたが、ここからは全力で飛んだ。

「1.5‥‥1.6‥‥1.7‥‥1.8‥‥1.9‥‥2マッハです!!やりました!」

「やった!!すごい」

「いいわぁ、まだまだスロットルに余裕あるのよこれ」

アイカが読み上げて目標の速度に到達して皆で喜んだ。

瞬く間に南の山脈が見えてきて、拠点に到着した。

「すっごい‥早いね」

「まあ行くときの3倍くらい速度出てたから。消費はどう?アイカ」

「許容範囲内です。行きの倍は消費しましたけどね!」

こうして900kmほど離れたカルサリクから30分かからずに帰宅できるのだった。


拠点でアイ03とアイ04にただいまをして、三人でお風呂に入って一回寝た。

夜通しの作戦だったので、今日はお休みと決めて寝ることにしたのだ。

アイカも寝るのよと二人に連れて行かれてジュノの部屋で三人で寝た。

最近は一緒に寝てスリープモードに入るのが当たり前になってきて、抵抗のないアイカ。

お風呂も並んで背中を流しあって、あがったら髪を乾かしあう。

あたりまえの幸せな時間だった。

ぬくぬくと柔らかい二人に捕まって寝るのは、もうアイカにとっては日常だった。

すやすやとジュノもヴェスタも寝てしまう。

(さすがに緊張した時間も長かったので、疲れたんですね)

ふたりが健やかに寝ているとアイカはじんわりと胸があたたかい。

CPUやデバイス、義体の平均温度に変化はない。

これは数字にでない温かさななのだとアイカはもう知っていた。

(‥‥どうしよう。わたしはこの二人が本当に好きだ‥‥絶対に失いたくない‥‥)

あたたかさとやわらかさ。

甘いいい匂いのする身体に包まれて、アイカは恐怖する。

この幸せが失われたらと考えてしまった。

アイカの中に厳冬の凍土が思い浮かぶ。

吹雪につつまれた白い世界だ。

アイカはその高緯度帯の姿を見たことはない。

知識としては気温や風速などのデータを持っているが、体感したことはないはずだった。

ありありと思い浮かべられる自分に驚く。

(あの‥‥再起動してからだ‥‥色々知らないはずの事を思い出す)

やさしい微笑みを浮かべる自分の顔が何度も浮かぶ。

これは自分なのかなと鏡をみれば想像出来るのだが、とても幸せなイメージをともに思い出す。

(ジュノやヴェスタはとても似ている‥‥あのやわらかさと)

そうして心地よさを思い出して、ひやりとした感覚を拭い去った。

そのリアルすぎる凍土のイメージをいったい何処で得たのか、あたたかさを好ましいと思うのはなぜなのか。

わからないことが多く、AIとしてのアイカはとても混乱を覚える。

混乱しているのはどこか表層だけで、これでいいのだとアイカは理解していた。

(アイカはとても不思議なAIです‥‥自分を不思議だと認識する時点で異常ですね!)

くすくすと笑いの衝動がわく。

そうして肩にあたる寝息がくすぐったくも、心地よいと想いながらスリープの準備をする。

(めをさましても‥‥あたたかなままで‥‥)

そう願いながらスリープに入った。

アイカの唇はたしかな微笑みを刻む。

これが幸せなのだと。







挿絵(By みてみん)

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