【第97話:状況が不透明です】
アイカは隠密移動が得意ではないので、ジュノにかなり後ろに下げられていた。
アイカの腰にぷらんと2つならんで小さなアイ人形がある。
表情のホロがとれたアイ人形本来の笑顔で並ぶ姿は、なかなか愛らしい。
ぶらさげるアイカは勇ましいフル装備の姿。
両肩のシールドに一つずつ付けた式神には、アイ01とアイ02がもう込められてあり、いつでも射出出来る。
胸部のアーマの喉元に、式制御補助のクリスタルが赤く光っている。
アイカの両目は朱色の横スリットが入ったセンサーマスクが隠すが、鼻から下は露出している。
そこに引き結んだ唇がアイカの緊張を示していた。
ジュノの動きは滑らかで躊躇無く、時々後ろを追うアイカですら見失いそうになる。
(あの重量の外装をまとってあの動き‥‥ジュノは本当に人間でしょうか?)
そんな疑問さえ覚えるアイカだった。
「アイちゃんおねがい」
そろそろ街に入る辺りで、アイカは身を隠し、式神を起動する。
ふわりと重力制御で浮いた2つの空き缶のような姿が、ぱんと開いてデルタ翼を出す。
すいぃと一体は上空に上がり、一体はジュノを追った。
アイカは目を閉じ式に意識を向ける。
さすがに空中を行くので、すぐにジュノに追いついた。
重力制御の重心移動だけで動けば、ほとんど音は出さない。
ふわりと追いついた式神02にぱちんとウインクしてくるジュノ。
ジュノもヘルメットのバイザーをあげて、物陰から空気を感じ取っている。
すっと上空から俯瞰した式神01の画像も霊視通信のリンクで共有される。
『アイカもう少し高度あげられる?』
後方のヴェスタからだ。
『りょうかいです、いくらでもあげられますよ』
すうっと視界が広くなり、先行するジュノも地形の把握で助かる。
『なるほど便利だね式神』
ジュノも高評価だ。
本体は金属の外観だが、アルミを極限まで薄くし重量は驚くほど軽い。
小型の融合炉とパルスジェットと燃料がちょっと重量が有るくらいだ。
融合炉の電力で駆動する重力制御だけなら、ほぼ無制限に浮いていられる。
中空にした内部にはヘリウムを充填してあるので、体積と比して驚くほど軽い。
強度はスーツの保護膜と同じ理屈で出してある。
ジュノの視界の先を小隊が整列して通りすぎる。
『兵が巡回している‥‥外出禁止とかになっていそうだね』
ジュノの冷静な判断。
小隊は8人ほどの集団で、歩調がそろい、練度はなかなか高そうだ。
マガジンがないので、先込め式だろうライフルに、長い銃剣を装備し槍のように担いで移動している。
槍に銃を混ぜたような外観で、全員同じ装備に見える。
防具は部分部分に板金鎧をつけ、残りは鎖がじゃらりと垂れている。
頭部にはバケツを被るように板金の兜で目の部分にスリットがある。
『なかなか頑丈そうな見た目だよ』
ジュノの意見に、二人も同意する。
『うんうん‥‥おもそうです』
『動きは遅そうね』
兵たちは背中までの短い青いマントを着けている。
先頭の隊長っぽいのは兜にも青い房飾りが付き、プレートにも意匠が入り豪華そうに見える。
暫く後ろ姿を見ていたジュノが動き出す。
正面の建物は3階建てのビルのように見える。
とんっとジャンプして屋上に出る。
ふわりと式神もついていく。
上空の式神01から見た情報で侵入経路と目的地を決めていた。
足音を響かせないジュノは重力制御の式神と変わらない静粛さ。
3つ建物を越えると高さを変えて4階の屋上にいる。
この街の中心部はかなり人口密度が高く、3-4階建ての集合住宅が並ぶ。
一階は店舗が多いようだ。
『霊子波のパッシブに反応がない‥‥完全に無人の建物が続いたよ』
ジュノの報告には不穏な空気感が有る。
『どこかに‥‥集められている?何処に‥‥どうして‥‥』
先程の巡回小隊が追いついてきて眼下をまた通る。
『巡回は6組み回っているね』
アイカが式神01の情報を確認して報告。
式神にもジュノのヘルメットにも霊子波を捉えるセンサーが有るので、生き物の位置がぼんやりとわかる。
沢山集まっていると大きな反応となる。
今は特に港に沢山集まっており、大半は兵士のものとわかる。
『アイカもう少し高度を‥‥』
『りょうかい』
ヴェスタの指示で式神01が高度を取る。
ぐっと街が半分も写るが、霊子波は弱くなるので捉えられない。
『ここね‥‥』
ヴェスタが画像解析して、ポイントにピンを立てる。
港の北西側にある倉庫街であった。
『千人単位の人を集めるとしたら、そこしかないわ』
建物の大きさと作りから推論した結果だろう。
『アイカお願い‥‥』
ぐっと式神01がよりながら下りていく。
霊子波を捉える高度まで降りると真っ赤に反応がある。
ふっとそこで上空からの画像が途切れた。
ジュノの視界の端で上空に向かい炎が吹き上がっていた。
『魔法です!』
『アイちゃんは?!』
ジュノが式神を心配して言う。
『平気です!ジェットで高空に逃がしました‥‥どうやって捉えたの?‥‥』
ジュノは少し迷う。
強行してひと当りするか、ここで引くかだ。
『状況が不透明すぎる‥‥撤退する』
ジュノの判断は撤退だった。
『アイカ‥‥先にもどって』
『りょうかいです』
ジュノも隠蔽しながら可能な限りの速度で引く。
にわかに港周辺の兵士まで動き始めたのだ。
(発見されてはいない‥‥疑いをもった程度?)
ジュノは上空からの映像をみて、広がっていく兵の動きに索敵の雰囲気を見て取った。
追撃の動きではないと判断したのだ。
『‥‥アイカどう思う?』
ジュノの質問。
『わからないです‥‥撃たれたのは放射系初級魔法フレイムアローのようでした』
黙り込む二人にヴェスタの指示。
『私もジュノの判断に賛成‥‥ちょっと話しが違いすぎる。もどって』
そうして第一時偵察は新たな情報とともに、一旦終了となった。
機体に戻ったアイカとジュノは外装をパージして、それぞれ充電する。
内蔵の融合炉は貴重な燃料で稼働するので、できるだけ外部から充電して消費を抑える。
ジェットをあまり使わなかったので消費は少ない。
操縦室に集まり、ヴェスタの淹れたお茶を飲む三人。
「AIがあちらに居る‥‥ということかな」
普通に考えればそうなる。
魔法はAIしか使えないとアイカは言った。
「‥‥それでも式神を見つけて攻撃するには、そこにいると知って探さなければ出来ないはず」
式神は小さいので、あの高度なら地上からは、点にしか見えなかったはずとアイカは不思議がる。
この件は話し合ってもどうにもならないと保留となる。
次はジュノの発言。
「‥‥これは推論だけど」
ジュノが目を伏せて話し出す。
「動きを見るに、攻め込んだ国はここを占領する気はあっても、統治する気はない‥‥」
俯いたままつづけるジュノは苦痛に顔を歪ませる。
「全滅か‥‥ぞれに近い事をする気だわ‥‥だから集めた」
ヴェスタもアイカも理解できず、苦しさだけを受け取った。




