【第94話:ティア6アイカの式神】
「圧倒的な戦力を見せる。ビビったところで責任者を引っ張り出して吊るし上げる」
ジュノの意見だ。
なるほど実現可能で、もっともシンプルだとヴェスタも考える。
「アイ達を仕込んだ『式』を送り込み、双方の意見を徴収したいです。もちろん実力を見せた上でです」
アイカのつくれるティア6の式ならば、それくらいのことができるそうだ。
「それはアイカには負担はないの?こないだみたいに具合悪くならない?」
ヴェスタが心配そうに言う。
にっこりのアイカ。
「平気です。こないだは急だったので、限界まで本気を出しました。間違っても火力が足りないとか嫌だったので」
安全圏で十分圧倒できると言うアイカ。
ちょっと考えたヴェスタが一旦意見を述べる。
「単独行動になる作戦は無しでおねがい‥‥かならず3人で行こう」
うなずく二人にほほえむヴェスタ。
「あと‥‥リステルを探しましょう‥‥あの子以上にこの星で私達を理解している人は居ないわ」
リビングの椅子に座り直し、お茶を入れ直してから、具体策をと話し合っていた。
「聞いてくれるかな‥‥これは私のわがままかも知れないのだけど‥‥」
真剣なヴェスタの眼差しに、二人はうなずいた。
「私はこの世界に介入しようとは思わないわ‥‥王政を覆そうとか、奴隷はダメとかそういうのはないの。最低限の人権とかね、ちょっとだけルールを決めて守らせたい‥ごめんね、その程度の志だわ」
じっと待つヴェスタ。
「良いと思うよ。歴史上にもそういった転換期はあったというし。これも一種の技術供与だよね?知識の供与か?」
アイカもうなずく。
「アイカもできる範囲の事をしたいです。無理して欲しいとは言わないです!‥‥んと‥アイカの大事なのはまずジュノとヴェスタです。それ以外は二人のために救いたいのです」
アイカが口を尖らせ真っ赤になり俯いた。
ジュノとヴェスタは見交わして、柔らかな微笑みを浮かべる。
「それ‥‥とてもいいわアイカ。その方針で行きましょう。三人が嫌だとおもったら抗う‥‥それくらいでいいのだわ」
えっと顔をあげるアイカ。
ジュノも笑って言う。
「わたしも、ヴェスタとアイカがしたいと思うとこまででいいよ。その中で出来ることを教えるよ」
実働部隊としてはジュノに負うところが多いので、頼もしい話だった。
「アイカ、先ずは現状作れる装備を洗い出そう。ティア6にあげる作業が先か?」
ヴェスタの声にアイカも顔をあげて告げた。
「そうですね、まだしてませんでしたが、スパイラルアークの工作室をティア6に上げれば、一気に作れるものが増えますよ!」
ティアを上げると一言であらわせば、そうなる。
母船のナノポッドから取り出せる技術を限定しているのはそこなのだった。
ナノマシンの作る素材を加工して部品に、機械に組み立てるのは工作室という場所で、本来ならばティア10までの装備を余裕で作れるはずが、空間拡張倉庫が動かないのでナノマシンも資源も乏しい。
「思えば本当に深刻な状態からはじまったよね‥‥」
しみじみとジュノが言う。
今3人が使っている工作室はアイカがゼロから作り出したもの。
石板や木材の加工機械から始まり、今現在はプロペラ推進の航空機程度の技術レベルだ。
「本当ね‥‥もっと潤沢にナノマシンがあれば工作室なんてそもそも要らないのに」
ヴェスタも初期を思い出して悔やむ。
効率を考えずジュノを探すため一度、手持ちのナノマシンをほぼ使い切っていた。
「ティア6にあげればジェット推進機でも、ヘリコプターでもVTOL機でも組み立てられます」
アイカも苦労を思い出してか、満足げにうなずいた。
最小のナノマシン消費で組み立てる設備が工作室とも言える。
この工作室のグレードアップに大量のナノマシンと素材を注ぎ込んできた。
船内に場所が限られるので、大型の設備は拠点の作業部屋に出しているが、あれらも含めたティアとも呼べる。
「先ずは前に相談したようにアイカの式を作らせてください。お役に立ちます」
アイカもアイカの前にならんだアイ達もえっへんのポーズ。
あははとジュノとヴェスタも我慢できず笑い声が上がった。
なんだかいつもの空気にもどったなと、アイ達もほっとするのだった。
アイカの式は、そのまま運搬できるよう肩のバインダーに格納される形になった。
両肩に1つずつ細長い式が外側に搭載され、充電もそこで行う。
最終的には2つずつ合計4機搭載予定だ。
ジュノの提案で、かつての自動防御シールド機能が強化され、同じ構造をヴェスタにも配備することが決まる。
胸と背中を挟み込む白い装着フレームは、ジュノの外装と似た意匠で、儀礼と戦闘が同居したような神聖さを纏う。
背部には核パルスジェットのベクターノズル。
ブーツにも可動式の噴射口がつく。
空中機動時のスタビライザにもなり、ホバー移動も助ける。
腰にも花弁のような装甲が増え、そこには分散したバッテリーが眠る。
アイカのパーソナルカラーの朱色の意匠が入り、白い装甲に映える。
完全装備でスパイラルアークから下りてきたアイカ。
ぱちぱちぱち
ジュノもヴェスタも頬をそめて拍手で絶賛。
「すごい!強そうだしかわいい!」
「うんうん、色もアイカにぴったりだよぉ!」
二人にほめられてもじもじのアイカは、早速アイ01とアイ02を式に込める。
この時点で詠唱が入り、魔法として作業するのだと解った。
中身が移り抜け殻になるアイ達の身体は、頭頂部から充電コードを引き出し、アイカの腰部装甲にぷらんと装備される。
「アイ人形も可愛いとか!やばいわ!」
ぎゅむっと抱きつくヴェスタ。
「いいねいいね」
ジュノも反対から抱きつく。
アイカの装甲は部分部分なので、柔らかいところが多く、ふたりも抱き心地的にも満足。
「いきます‥‥」
電磁装着されていた式が外れ、重力制御をはじめて浮く。
すっと右手をあげたアイカが宣する。
「行くのです!式神01、02」
ぱしゅんと圧縮空気で飛び出すと、後部の装甲が割れてデルタ翼が4枚でる。
エアロダイナミックで節約しながら飛ぶようだ。
「お~パルスジェットも吹いたよ!」
ジュノの見立通り、上空に上がりながら、前方のインテークから空気を取り込み、内部で温度をあげて爆発させる。
フラッパーバルブが制御して核融合ジェネレータの排熱をパルスとして、後方に青く燃焼したガスが吹き出した。
これは燃料を多少消費するが爆発的な推進力を得て、上空にショックコーンを描き瞬時に音速を越えたようだ。
「おおぉ!!」
ジュノもヴェスタも大喜びで見送った。
「すごいね?あれ見えてるのアイカ?」
にこっと笑う余裕をみせるアイカはとことこ歩いて近づいてくる。
「もちろんです。基本的にはアイ達が制御していて、判断に迷うと問い合わせてくる感じですね。マクラ達のときより負荷は少ないくらいです」
とんっと軽々と5mほどジャンプすると、アイカも青いジェットを吹いて上空に消えていった。
「‥‥アイカもとんでっちゃったよ?!」
「うん‥‥これはすごいね」
二人の見守る中、上空でアイカが『式神』を回収して戻って来る。
ぱしゅっと最後にふかして着地したアイカに、惜しみない拍手が送られるのだった。




