【第90話:もうかえりたいよ】
アイカを横にして、緊急モードで酸素濃度をあげた。
「アイカぁしっかり‥‥」
うっすら目を開けたアイカが青い顔で力なく笑う。
「ごめんなさい‥‥酸素濃度が普段より下がってるの忘れてました‥‥今分圧あげたのですぐ‥‥」
そこまで話す間にだんだん声が小さくなり、ふっと目を閉じるアイカ。
「少しやすんでいて‥‥」
頭のしたにタオルを畳んで敷いて、ジュノの横に戻るヴェスタ。
残骸にしゃがみ込んで調べている。
「ジュノ‥‥アイカは暫く寝かせたほうがいい。多分高山病みたいになってる」
ちらとアイカを見たジュノは真剣な顔でヴェスタに言う。
「ヴェスタ‥‥コイツら‥‥くっそ硬いと思ったら‥‥これチタン合金だわ」
ぺしぺしと剥がれた装甲パーツを手に打ち付けるジュノ。
「今マインビームで吸えないか試したら、この装甲部分は吸えるよ。本体はなにか対応出来ない金属があるのか、吸えないわ」
ヴェスタはびっくりして残骸を見た。
体表を覆う鱗のような鎧のようなパーツが幾つか落ちていた。
ヴェスタも背中のハードポイントからマインビームを出して当ててみる。
「おぉ‥‥ホントだ。アニマロイドはナノマシン分解出来ないと習ったよ」
うんうんとジュノもうなずいた。
「わたしもそう習ったけど‥‥まあラッキーくらいに思おうか?アイカを休ませながら回収しちゃおう」
ヴェスタもちょっと微笑みをぎこちなく返す。
「うん、ジュノは警戒してて、私見て回るよ」
「了解!」
ジュノの明るい笑顔で、やっとヴェスタも息を吐き出す。
(ジュノが笑ったから‥‥もう大丈夫だ)
ヴェスタも少し明るさを取り戻し、あちこちの残骸を調べてみた。
身体に付いているパーツは分解出来ないが、落ちている鱗は吸い込める。
ジュノの言ったとおりだった。
(これ‥‥大発見なのじゃ?!‥‥連邦でも災害扱いの謎機械を‥‥こんなに倒したの聞いたことない)
むしろ何人逃げ出せたくらいの記録が多い。
ファーストアタックを取れたのが大きいなと、ヴェスタでも解った。
あの気配のなさで物陰からあの数で襲われたら、10秒で全滅しただろう。
ぷらぷらと取れそうになっている鱗を引いて取るとマインビームが吸ってくれる。
(本体と込みと反応すると吸えないのかな?)
ヴェスタは腰の後ろからナイフを抜き出し、ごりごりと鱗を外してみた。
「おお!吸えるよ!」
ジュノに見せようと思い、尻尾を持ちずるずると引きずっていくヴェスタ。
「みてみて!ジュノ新発見」
「ん?なぁに?」
ヴェスタは実演して見せて、アニマロイドの分解を提案した。
「わかった、斧は通ったからこれでやってみるよ。ヴェスタは残骸集めてきて」
「りょーかい!」
ちょっと楽しくなったヴェスタはたたたと走って残骸を集め始めた。
「8匹もいたのね‥‥アイカの撃ったやつすごかった。バラバラになってたよ」
アイカの戦果分はほとんど吸い込めて、残っている装甲の方が少なかった。
「あれって荷電粒子ビームだったね?色合いが」
ヴェスタも何度か撃ったことがあり、直近ではジュノの救出時に撃った。
「そうだね‥‥あの出力ってこのティア5のフル装備を越える電力じゃないかな?不思議だよね」
そうゆう比較もあるかとヴェスタは感心した。
「そっか?アイカの中から出てきたのかな?」
「そこは魔法だからとしか‥‥わかんないよね~」
にっこり笑ったジュノのお陰でヴェスタもやっと身体の力が抜けてぺたんと座った。
「はぁ‥‥なんか緊張が抜けたら力もぬけたぁ」
「うんうん、そうゆうもんだよ。少し休んでて」
ジュノはそういって、残った残骸をガシガシと斧で分解する。
ヴェスタはアイカのところまで四つん這いで行って、様子を見る。
「うん‥‥顔色良くなった‥‥」
透明なバイザーの向こう側でくったりと寝ているアイカは、少し汗もかいたのか濡れた肌を健康的なピンク色に染めていた。
血行が戻ったのだろう。
地面に転がしておくのが可哀想だなと、自分のふとももに乗せるヴェスタ。
膝枕にしてそっと手を添えた。
アイカが良くなったと想うと、ふわりと自然な笑みがヴェスタを彩った。
ジュノが戻ってきて横にペタンと座った。
「ふう終わったよ。うん、アイカ顔色良くなったね」
そっとアイカのバイタルも確認したジュノ。
「目が覚めればもう大丈夫そうだ」
にっこりとジュノが笑い、ヴェスタもほっとする。
「もう来ないのかな?アイツ等?」
ジュノは思案顔だが、悲観はない。
「推測なんだけどね‥‥重力波に反応したんだと想う」
「ええ?」
「最初の一発目をうった後から、ざわざわと嫌な気配が有ったんだよね‥‥今はもうしなくなったから平気だと想う」
ジュノの特殊センサーの性能におののくヴェスタ。
「ヴェスタって何か特別なセンサーついてるの?」
「あはは!そうそうカンがいいのよ!」
ふふっと笑うジュノはたのもしく魅力的で、ヴェスタはうっとりとながめた。
30分ほど休んだらアイカが目覚めた。
「ごめんなさい‥‥戦闘中に」
ぎゅっとジュノが抱きしめた。
「いいの‥‥とても助かったよアイカ。今日のエースはアイカだよ」
えへへと照れるアイカに、アニマロイドの説明をしてみたヴェスタ。
「なるほど‥‥興味深いですね。一匹持ち帰りたいくらいです」
「一匹くらいならわたしが持って帰れるけど‥‥VTOL作ってから回収に来たほうが良いかもね」
くるりと見渡すジュノ。
戦闘の起こったこの台地はそれなりの広さが有り、未整地でも機体を下ろせそうだった。
「チタンの量が十分なのです。うれしいです」
アイカもストレージの明細を確認してニッコリとした。
はっと気付いたアイカ。
「もしかして‥‥事前調査でチタンを検知したのは‥‥こいつらのせい?」
「わあ‥‥あるかもそれは」
純度の高いチタン合金を、鉱脈と誤認した可能性を考察するアイカ。
「スペクトルを分析推論したデータだから‥‥あるかもです」
アイカも納得の事態だった。
「そっかあ‥‥あんなのいるんじゃ、これ以上調査するの怖いね」
「はい、重力波で反応する説を考えると、これ以上は危険すぎます」
ヴェスタの意見をアイカも補強する。
「‥‥撤収しましょう。誰も失わず勝てたのはジュノと幸運のお蔭と思います。2度は当てにできない」
「了解」
「では帰りましょう」
ジュノもアイカも賛成して、撤収することとなった。
もう午後にだいぶ入ったが、下りてからごはんにしようねと、下山を優先した。
ちらと雲の霞の奥をみやるヴェスタは、そこしれない寒気をもまた感じていた。
(‥‥スペクトル分析の結果だけかしら‥‥都合が良すぎるような)
まるで餌に飛びついた獲物のように襲われたと、ヴェスタは感じたのだった。
ヴェスタは強風と低温以外の怖気を感じながらジュノ達を追いかけた。




