【第89話:高地で運動すると危ない】
2km程トラバースして南下した。
重力波センサーの有効範囲から、ロスの少ない位置を選んだ。
器具を設置するアイカを見ていたヴェスタがふと気付いてジュノを見る。
「どうしたのジュノ?」
バイザーの奥にちらりと厳しい視線を感じたのだ。
「‥‥うん。気の所為ならいいけど‥‥ちょっといやな気配があるな」
ジュノは戦闘戦術のプロで、5感やセンサーの値を越える何かを感じ取る能力が有る。
それは同じ性能の装備を持つ相手の裏をかける能力だ。
膨大な作戦記録の知識と現場の地形や気候から、何かを不安として感じ取る。
ヴェスタもアイカの警備に戻り警戒を強めた。
「いきます」
アイカの静かな宣言とカウントダウンからまた重力波が放たれた。
ズンという音ではない感触を受けて、結果表示を見るアイカとヴェスタ。
透明なシールドの中で、二人の眉がさがる。
「うーん‥‥」
「ないですね」
器具を撤収してバックパックにしまうと、ジュノがすっと近づき後ろに二人をかばう。
「動かないで‥‥‥‥」
ジュノのハンドサインは待機。
ヴェスタは緊張しながらライフルのセレクターを確認。
0から3に合わせた。
電源残量を示す細いバーが緑に引かれている。
ヴェスタの為に外付けで付けた残弾カウンターは、マガジンから情報をもらい50と赤い数字で上面に出ている。
「まずい‥‥囲まれているわ」
ジュノが下がりながら言う。
ぽてぽてと足音が聞こえた。
ヘルメットのマイクが集音し、解析して強調表現しジュノに伝えるのだ。
生身の耳で強風の中捉えられる音ではない。
「後ろが手薄‥‥できるだけ離れずついてきて。アイカはまだ撃たないで」
「了解」
「りょうかいです」
ジュノの落ち着いた声に、ヴェスタとアイカも緊張した返事をした。
するっと体重を感じさせない動きでジュノが下がる。
振り向きざまつま先で飛んで、スラスターで浮かぶ。
(見つけた‥‥二足歩行‥‥体高120cmほど‥‥)
目当てにしていた岩の上を蹴って更に戻りながら高度を取る。
撃ちたい気持ちを我慢して距離を詰める。
脅威度が判定出来ないので、最大火力を打ち込むつもりだ。
ヴェスタとアイカがやっと振り向いた頃、ジュノは有効射程に敵を捉え射撃開始する。
ズヴァァン!!ががぁん
ジュノの電磁ショットガンが10本のニードルバレットを円形にばらまく。
距離が近いので、綺麗に集弾してジュノに迫る影に叩きつけた。
スリムな頭部に赤光を放つ目が、殺気を放ち2つ並んでいる。
音速の数倍の速度で叩きつ得られる針はメタルジャケットを裂いて潰れ貫通しなかった。
がばっと頭部が裂けて、ギラリと鋼鉄の牙が並ぶ。
着地前に2射目を更に至近で打ち込む。
ズヴァン!!
これにはジュノの胴体ほどの頭が地に落とされた。
(トカゲ?前足が小さい‥‥一射目は弾き返した)
更に地に落ちた相手の頭頂に3射目。
ズバン!!
流石に頭が砕け散り、尾をふり2m程の全長が転がった。
そこでアイカとヴェスタが追いついて横を走り抜ける。
「反撃!!」
ジュノの叫びにヴェスタが足を止めて振り返る。
膝立ちになったジュノがズヴァンズヴァンと連射する。
ジュノのショットガンは15連射で弾倉の交換がいる。
フォローが必要とヴェスタは影に三連射を打ち込む。
たたたん!きききん
「?!」
ジュノのショットガンを越える弾速のレールガンを弾く黒い影。
ジュノが後ろ向きに飛んでくる。
空中で2連射。
ズヴァンズヴァァン!!
ざっと音を立ててヴェスタの横に下りたジュノが、アイカに指示。
「アイカ!とても硬い!撃って」
アイカは詠唱を開始する。
たたたんったたたんっとヴェスタはバースト射撃を繰り返すが、全て火花を散らして弾かれる。
「アニマロイド?!」
ヴェスタの声にジュノが短く答える。
「正解!」
アニマロイドは由来不明なほど過去にばらまかれ、あらゆる星系で稀に見られる機械達。
遠い過去にあった超文明の遺産と考えられ、メカニカルな部分しか解析できていない。
非常に高度なその機体が、どうやってなぜ増えるのか誰にも解らないのだ。
遭遇自体が稀で、勝利することは更に稀だ。
そうして味方の死体や、相打った残骸から少ない情報を得た。
銀河連邦ですら完全に解析できておらず、出現は天災扱いされている。
開拓マニュアルにも一応乗っている脅威では有る。
対応方法は速やかな逃亡だ。
「ヴェスタ!もっと引きつけて!10m越えると弾かれるわ」
「うん!」
たたたん!
接近速度が早いので、10mはもう目の前に感じるヴェスタは、どうしても早打ちする。
ズヴァン!!
ヴェスタの弾を嫌った獣が軌道を変えた瞬間に前にでたジュノが至近距離からショットガンを打ち込む。
斜めに吹き飛んだ敵が長い尾を振りながら、がしゃんと転がった。
「ヴェスタとどめ!!」
叫びながら、下がりヴェスタの横に来た敵をショットガンで撃ち抜く。
ズヴァァン!!
さらに左手で手斧を抜き首筋に叩きつける。
ガン!!
その硬い感触におののきながらも首を跳ねた。
ジュノとすれ違ったヴェスタがまだ動いている敵に至近から連射する。
たたたん!たたたん!
1m程の距離で撃たれたレールガンの弾丸が、やっとアニマロイドにとどめを刺した。
「撃ちます!!」
アイカの頼もしい声が二人の通信器に入る。
真紅の魔力を拭き上げて、宙に浮かぶアイカ。
長い長い詠唱の果に、魔法を放った。
突き出した右手がピンク色の輝きを宿す。
『Magic.System: ArcaneCore — Online
Parameter.SealBreak()
Target.lock-on()
Magnetic Photon Lance — Initiate
>> Charge.PlasmaField(120%)
>> Accelerate.Particle(∞-vector)
>> Coil.Wrap(space-time, polarity = inverse)
Execute — Fire! 』
最後の一節が高速で流れアイカの前半分が照り返しでピンクに染まる。
キュシュゥゥゥゥン!!
空気を切り裂く4本のビーム。
直径5cmほどもあるそれはピンクから白にグラデーションする直線を描いた。
拡散するように前方に放った粒子ビームが4体のメカノイドを貫通して爆散させる。
電荷と熱と運動エネルギーが貫きつつ機械の身体を粉砕した。
とすっと宙から下りたアイカが、ペタンと女の子座りになり、両手をついた。
「はぁ‥はぁ‥はぁ‥はぁ‥」
バイザーの中の真っ青な顔色は普通の状態ではないと、周囲警戒しつつジュノがかばう。
「アイカ!大丈夫!?」
ジュノは声をかけながらも周囲を見渡す。
ヴェスタも戻り、アイカの肩に手を添えた。
「アイカ?!」
ヴェスタにアイカを任せ、ジュノは周囲警戒。
「はぁ‥はぁ‥ふりしぼりましたぁ‥‥魔力がきれちゃいそう‥です‥」
これはダメだとヴェスタが横抱きに抱き上げる。
「ジュノ!アイカは無理だわ、歩けなそう」
「‥‥まって‥‥大丈夫かも‥‥敵意が無くなった」
更に遠くからも押し寄せるひしひしとした敵意が引いていった。
ジュノもやっと息を吐く。
「はあぁぁ‥‥生き延びたかも?!」
ジュノは強制排気の白い呼気をヘルメットの下端からぷしゅーと吐き出した。




