【第87話:よるにうかぶおもい】
夕日のあとの薄暗がりで、大きな焚き火をした。
保護スーツで近辺の背の低い木々を引っこ抜いてきたのだ。
離着陸時にちょっと気になる程度だが、何度も来ることになるので整備の一環として行う。
どうせならキャンプファイヤーしたいとジュノが騒いで、訓練校の恒例なのと率先して準備した。
三角に組み合い、1m以上積み上がった幹。
真ん中のスペースに小枝や、燃えそうなものを大量に放り込んだ。
「よっしおけーアイカやっちゃって!」
「はーい」
ぴっと櫓のように組み上がった木々に指差すアイカ。
詠唱とともに真紅の魔力が指先に集まり、こぶし大の炎の玉になる。
『System.Command: ignit small object()――Execute』
ひゅんと飛んで当たると速やかに着火した。
ヴェスタは丸い目で驚いた。
「すごぉい‥‥べんりだなぁ。前に小さい焚き火するだけで苦労したのにね」
そういってジュノの肩をポンとするヴェスタ。
「ほんとだね、ふーふーして着火したよね」
あの小さな島で二人でした焚き火を思い出すジュノ。
ちょっとセクシーなヴェスタのポーズもおもいだして頬が熱くなる。
ぱちぱちっと爆ぜる薪が赤々と炎をあげた。
「わぁ結構燃えるのね」
ぎゅっとヴェスタがジュノに抱きついてくる。
「うん、景気いいでしょ!」
「あはは!そぅだね!」
すぐいちゃいちゃする二人を置いといて、アイカはアイ達二人と準備する。
晩御飯のデザートとして食べるマシュマロだ。
焚き火をしたら食べようと、アイカが貴重な在庫から持ち出していたお菓子だ。
細い枝の先をアイカがナイフで皮むきし、アイ達が一抱えもあるマシュマロを刺していく。
アイ達が小さいので大きく見えるが、それでもサイズは大きめ。
アイカの口には一口で入らないサイズだ。
3個だけ準備したそれを真ん中に置いて、スープのカップと携帯食が今夜のメニューだ。
「ごはんだよー!」
アイカの声に二人も振り返り、手を繋いだまま歩いてくる。
「ふふ、まるで恋人同士ね」
『ねー』
アイ達も声を揃えて言う。
アイカは微笑ましくてついついくすくすと笑う。
アイカが笑うのが嬉しいアイ達もにこにこだ。
「あら、なんだか楽しそうね」
「おぉ!マシュマロだ!」
「デザートですよジュノ!」
すいと持っていきそうになるジュノを止めるアイカ。
あははと笑い声が響いて、とても遭難中のメンバーには見えなかった。
ヴェスタは初めて焼くマシュマロが焦げてしまい、涙目。
それでもとろとろの中身の甘さで、にっこりと笑顔になった。
「焦げても香ばしくていいかも!!」
ヴェスタの笑顔にアイカもジュノも少し安堵の笑みをこぼす。
上手に笑うようになったなと。
アイ03とアイ04が上下に分かれてラランと和音を奏でる。
AI達は楽譜データがあれば、好きに声で演奏できるようだ。
アイカが主旋律をとり、シンプルで懐かしい感じの歌を歌ってくれた。
情感がこもるパートに美しい和音でハモリも入れる3人に、すっかり聴きほれるジュノとヴェスタ。
長い旅が終わりを迎え、お別れを言う歌だった。
並んで座りジュノの肩にもたれたヴェスタは、ふとさみしくなって涙が落ちそうになる。
再開を約束して終わった歌にほっと胸を撫で下ろしたヴェスタ。
なんだかすっかり子供のように心が動いたなと不思議に思う。
静かな夜と、ふるような星空。
薪の爆ぜる音とちょっと焦げた香り。
澄んだアイカの声と、腕の中のジュノの温度にすっかり酔ってしまったようだ。
タランタランと楽しげに和音を奏でるアイカとアイ達の伴奏で、楽しげな曲をジュノが歌う。
ヴェスタの手をとって軽やかなステップも披露した。
シンプルなステップを覚えて、アイカも入り3人で火の前で踊る。
近づいたり離れたりする動きに、くすくすと笑う。
ならんで円になりくるくるまわると、あははと笑い声が響いた。
アイカの肩の上でアイ達も楽しそうな笑顔。
そんな夜を大切に胸にしまい込んだ3人は、温め合うように寄り添って水上機の中で並んで眠った。
大きくもない毛布がちゃんとジュノにかかっているか、きになるヴェスタは位置を直す。
ジュノはヴェスタが寒くないかなと気になって、毛布を直す。
真ん中でアイカは微笑んでスリープに入ったようだ。
今夜は寝るようにと二人に頼まれたから。
そうして何度も毛布を直しあって、目が合うとにこっと笑う。
月明かりでほんのり見える微笑みは、互いの心を温めてくれた。
寄る辺ない淋しさを感じて、互いの温度が支える想いをじんわりと味わう。
これもまた幸せだなと、二人は思うのだった。
やっと眠りに落ちるヴェスタの寝息を感じて、ジュノは吐息をもらす。
時々ヴェスタはとても小さな女の子に見えるときがある。
本当は自分よりもずっと大人で、思慮深いヴェスタが妹のように感じる瞬間が有る。
ジュノはヴェスタの自然な微笑みに涙しそうになる。
その微笑みを奪ったヴェスタの過去に胸が苦しくなる。
(昔の話をすると‥‥ヴェスタはすごく不安定になる)
今夜もジュノの訓練校での話しをしたあとだ。
ヴェスタは頼りなく淋しそうな顔でふるえる。
つい抱き寄せたくなるしぐさだ。
伏せたまつげの下に、美しい翡翠の瞳が潤むとジュノの胸も締め上げられるような痛みを覚える。
(‥‥最後は笑ってくれてよかったな)
アイカもジュノの意図を解ってくれて、手伝ってくれた。
過去にどんなことがあったのかヴェスタは詳しく言わないし、ジュノもたずねる気はない。
ただ、今のヴェスタを幸せでくるんで、笑顔にしたいとだけ思う。
月明かりに浮かぶヴェスタの寝顔。
本当の年齢よりもずっと幼く見えるその寝顔がジュノは好きだ。
(ずっと守るんだ‥‥大切なヴェスタ)
ジュノの心もまたヴェスタを想うことで癒やされていく。
ヴェスタの寝顔はジュノの、いつまでも消えることのない胸の重さも、少しだけ軽くしてくれた。




