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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第1部 第1章
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【第9話:つきのひかり】

ジュノとヴェスタが使っている寝室には、特に施錠できる設備はない。

普段は電動で開くドアが、今は手動になっている程度で、開けば開くドアだ。

そこにヴェスタはしばらく立ち尽くしていた。

3日前の午前中にジュノが通信を入れてくれたので、位置情報を得られ救出できた。

詳しい経緯は掴めていないし、ジュノにも聞いていないのでわからないが、3日立ってもベッドから出たくないほどの事はあったのだと、ヴェスタも理解している。

(ダメだ、ちゃんと話そう‥‥)

決意の光を目に宿し、ノックするヴェスタ。

コンコンコン

優しい音が出たらいいなと思ったが、金属のドアは硬質な音を立てた。

しばらく待つが返事はない。

「ヴェスタです。ごめんジュノ、はいるよ」

ぐいいいと歯車が回る音を立て、抵抗がある引き戸を開ける。

身体が入るくらいの所で、するっと中に入る。

電気がついていないので、真っ暗だった。

通路の電気が開けたドアから差し込み部屋をてらす。

すっとジュノの甘い匂いがして、ヴェスタは安心する。

(やっぱりジュノはいい匂いがするな)

ずっと一人でこもっているので、ジュノの匂いで部屋が満たされていた。

ぺたぺたとスリッパの音を立てて、ジュノのベッドに近づく。

ジュノはいつも上の段に寝るので、今もそこに膝を抱えて座っていた。

昇り降りようにはしごがあるので、そこからベッドにのぼるヴェスタ。

ベッドの上は高さがあまりないので立ち上がれない。

四つん這いで隣にいき、同じ向きに座り壁を背にした。

「すこし話がしたいの」

硬い声だなとヴェスタは思う。

もう随分前から自分の声はこうだなと、がっかりする。

ジュノは膝に顔をうずめ視線を合わせない。

ヴェスタはその弱り果てた姿にまた心が痛み、抱きしめたい衝動を覚えた。

最初の日にそれをして嫌がり泣かれたので、ちょっと触るのは勇気がいる。

そっと肩に手を置いて、お願いだから優しい声をと願い話しかける。

「ジュノ‥‥きいて欲しい話があるの‥‥私のことなんだけどね」

さしてさっきと変わらない声にがっかりしつつも続けようと思うヴェスタ。

正座になってジュノをももに引き倒す。

膝枕したように横座りになるジュノ。

「つまらない話かもしれないけど‥‥私はジュノに会うまでずっと笑うことが出来なかったの」

ジュノも初めてあったヴェスタを思い出す。

全く笑顔を見せないヴェスタに嫌われているのだと思っていた。

「私は生産施設で産まれたの‥‥AI義体の工場だったわ」

現在の銀河連邦諸国の中ではさして珍しいことではなかった。

連邦諸国の出生率はとても低く、人間の人口は減る一方で、AIの義体が世にあふれた。

人間:AI義体の比率が五割を越えた頃に一部のAIが率いる国家が興った。

外縁辺境にある一星系を丸ごと国家として承認するよう要求してきたのだ。

その騒ぎは数年で終わったが、脅威を感じた人間たちは義体と同じ要領でつくれる人間を準備し始めた。

父母の間に産まれるのではなく、父母にデザインされ生産されるのだった。

家や車を選ぶように、自分達の遺伝子をもつ子供を選んで作れるようになったのだ。

出産を経ないそういった世代を、差別することは連邦法で禁じられたが、裏では普通にあった。

「このプロジェクトに選ばれるまでは‥‥父母にも会ったこと無いし、だれも親族には会っていないの」

資産を持つものが望み、そうゆう子供を作ることも議会では目をつぶり人口の増加を推奨したのだった。

卵子や精子を裏で販売し、子供をデザインするのだ。

利口であったり、身体的に恵まれていたり。

ただ美形であればいいなどと。

「‥‥大きくなったら迎えに来るのだと言われて育てられた‥‥‥‥そうゆう道具として」

びくっとジュノが顔を揺らす。

ぽとと雫がジュノに落ちてくる。

「訓練だと‥‥いわれて‥毎日‥」

ジュノが身体を起こしてヴェスタを抱きしめる。

「もういいよ、ヴェスタごめん‥‥」

ぎゅっとジュノがヴェスタを抱く。

ジュノの目にも涙が溢れてきて止まらなくなった。

ヴェスタも手をあげ、すがるようにジュノを抱きしめる。

お互いがまるで命綱で有るかのように、必死にしがみついて泣き続けた。





いつの間にか寝てしまい、二人で手を握りあって寝ていた。

目が覚めたジュノは指を絡めるように放さないでいるヴェスタを見る。

とても整った美しい顔だった。

そっと髪をなでておでこを出す。

降ろされたまつ毛も美しい金色で、絵画のように配置された表情。

(3日くらいかな‥‥それくらいから遠慮がちに笑うようになった)

ヴェスタは自分で言うように会ったばかりの頃は、全く笑わなかった。

(‥‥決めた‥‥私がヴェスタを愛そう‥‥愛して支えよう)

この美しい娘は消費されるために作られ、誰にも愛されず育ったのだ。

笑顔をつくる理由も知らないで。

(ママとパパがしてくれたように、ヴェスタに愛をあげよう‥‥そのために生きる)

ジュノはひどいショックを受け、生きる意味を失っていた。

自分自身を許せず、生きる価値を見いだせなかった。

そうして一歩も前に進めなくなっていたのだ。

今夜、ヴェスタの勇気ある告白をもらい、生きる意味を見つけた。

(‥‥いまのわたしはヴェスタの痛みがわかる‥‥笑えない理由がわかる)

ジュノはすがりつくヴェスタの指をそっと解き握り直す。

力を入れすぎて白くなり、冷たくなっていた指をそっと両手で包む。

自分の胸に抱いて早くあたたまれと心に思うのだった。

こうしてジュノは立ち上がり、より深くヴェスタを理解した。

見方によっては都合がよくさえ有ったのかと、一瞬だけ考えてしまった。

ヴェスタを大切だと思うとジュノのほほには優しい微笑みが浮かぶ。

ヴェスタの指が暖かくなり、やわらいだ。

いつかヴェスタにも、そんなやわらかな笑みを浮かべてほしいなとジュノは思う。

小さな外部確認窓から月光が入り込んだ。

月光が照らすヴェスタの唇にほんのりと微笑みが浮かぶ。

指があたたまったからかなとジュノは嬉しくなった。

今夜もあの巨大な月が登ったのだジュノにはわかる。

目を閉じても消えることのない、冷たく美しい月を思い出す。

昨日までそれは辛いだけの記憶とつながっていたが、今夜美しい少女の顔で上書きされる。

儚いその微笑みを守ると決めた夜だと。





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