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【完結】ヒミツの放課後ホラー ~新米教師と、呪われた七不思議~  作者: ましろゆきな
第三章:深夜の理科室で動く人体模型

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第七話:エクソシスト


「……ん、あれ、ここって……」


「! ――目が覚めたね」


 結衣が薄く目を開けると、天井がぼやけて見えた。消毒液の匂いが鼻をつく。見慣れた光景に、結衣は自分が保健室のベッドに寝かされていることに気づいた。


「よかった。意識が戻ったんだね」


 隣には、結城が心配そうな顔で立っていた。


「結城先生……私……」


「大丈夫。落ち着いて」


 結城は、そっと結衣の額に手を当てた。その優しい温かさに、結衣は心臓の鼓動が少しずつ穏やかになるのを感じた。


「あの後、どうなったんですか?」


 結衣は、理科室での出来事を思い出した。人体模型、高遠の焦った声、そして、自分を襲った得体の知れない力。


「高遠先生が、君を理科室から運び出してくれたんだ」


「高遠先生……?」


「ああ。彼は、この学校の卒業生で、今は、エクソシストでもある。君が、人体模型に引き込まれそうになっているところを、彼が救ってくれたんだ」


 結衣は、結城の言葉に驚きを隠せない。高遠は、やはり自分を助けてくれたのだ。


「人体模型は……?」


「彼の力で、動かなくなった。だが、根本的な問題は、まだ解決していない」


 結城先生の言葉に、結衣は眉をひそめた。


「どういうことですか?」


「あの人体模型には、邪悪な霊が憑りついているらしい。その霊が、美術室の呪いの絵に閉じ込められていた魂を、この場所に繋ぎ止めているんだ。そして、その邪悪な霊は、君の心に、深い憎しみを植え付けようとしている」


 結城先生の瞳は、真剣そのものだった。


「その邪悪な霊は、この学校のどこかに潜んでいる。そして、その目的は、君を呪い殺すことだ」


 結城先生の言葉は、結衣の心を、深い恐怖に陥れた。これまで触れてきた七不思議とは、全く異なる、本物の悪意。


「……どうすればいいんですか?」


「高遠先生が、君に会いたいと言っている。彼は、君を救うために、この七不思議と、そして、邪悪な霊と、戦うつもりだ」


 結衣は、結城先生の言葉に頷いた。もう、後戻りはできない。彼女は、生徒を、そして、自分自身を守るために、この七不思議の、本当の真実と向き合わなければならないのだ。


「わかり、ました……」


 結衣はかろうじてそう答えた。起き上がろうとしたところを結城先生に止められる。


「そんな無理しなくて良い。目が覚めたばかりなんだ。俺が高遠先生を呼んでくるよ」


 結城先生は、もう一度結衣をベッドに寝かせると、保健室を出ていった。


「……高遠先生って、一体、何の先生なんだろ?」


 考えがまとまらず、どうでもいいことが口から出た。まあ、確かに、ここで何を教えているのか気になるけれど。


「倫理がメインだが、社会科を担当している」


「!」


 答えが返ってきて、結衣は飛び起きた。保健室に戻ってきた結城先生は、肩を震わせて笑っているし、高遠先生は少し呆れたような表情をしていた。


「君はなかなかに大物なようだな。さっきまで悪霊に取り込まれていたとは思えないな」


「ははは。――すいません」


 結衣は苦笑いを浮かべた。高遠はそんな結衣を見て、少しだけ表情を和らげた。


「君に話しておきたいことがある。君の身に起きていること、そして、この七不思議の本当の目的についてだ」


 彼の言葉は真剣そのものだった。


「君は、霊の悲しみに寄り添うことができる。それは、この七不思議を解決する上で、非常に重要な力だ。しかし、その力は、悪霊にとっても、魅力的だ。悪霊は、君のその力を、自分たちの力を増幅させるために利用しようとしている」


 高遠は、そう言いながら、結衣に一歩近づいた。


「人体模型は、君を媒介として、この学校に存在する、すべての七不思議の悲しい魂を、この場所に引き寄せようとしていた。そして、それを邪悪な力で支配し、この学校を、悪意に満ちた場所に変えようとしていたんだ」


 高遠の言葉に、結衣は息をのんだ。これまで解決してきた七不思議は、すべて、この日のための布石だったのかもしれない。


「私は、君を守る。しかし、それだけでは、この問題を解決することはできない」


 高遠は、結衣の瞳をまっすぐに見つめた。


「君の力が、この学校の、そして、君自身の、未来を決めることになる。…君は、この七不思議と、どう向き合うか、決めなければならない」

「だとしても、君が無理をする必要はないよ」


 緊張でこわばる結衣の気持ちをほぐすように、結城先生が声をかけた。


「無理だと思ったら、無理って言って良いんだよ。悪霊退治は高遠先生の専門だからね」


「結城、お前な――」


 高遠先生も厳しい空気を和らげた。


「もちろん、無理はしなくて良い。こいつの言う通り、悪霊退治はエクソシストである私の本分だから」


「高遠先生、エクソシストなんですか?」


 エクソシスト、悪魔祓い。そんな存在は、物語の中でしか聞いたことがなかった。理科室で見たのは、悪魔祓いに使う「聖具」だったのかもしれない。


 高遠は、結衣の驚きに少しだけ微笑んだ。


「ああ。エクソシスト、悪魔祓い、祓魔師……呼び方は何でもいい。この世の理から外れたものと向き合い、それを祓うのが、俺の仕事だ」


 彼の言葉は、結衣の知る現実とはかけ離れていた。だが、彼の瞳は真剣そのもので、そこに嘘はない。


「理科室で持っていたのは、邪悪な霊を祓うための聖具だ。あれは、君が想像するような、ただの道具じゃない。何百年もの間、邪悪な霊を祓うために、祈りが込められてきたものだ」


 彼の言葉は、結衣の心を、深い恐怖と、そして、畏敬の念に満たした。


「君は、霊の悲しみに寄り添うことができる。それは、この七不思議を解決する上で、非常に重要な力だ。しかし、その力は、悪霊にとっても、魅力的だ。悪霊は、君のその力を、自分たちの力を増幅させるために利用しようとしている」


 高遠は、そう言いながら、結衣に一歩近づいた。


「人体模型は、君を媒介として、この学校に存在する、すべての七不思議の悲しい魂を、この場所に引き寄せようとしていた。そして、それを邪悪な力で支配し、この学校を、悪意に満ちた場所に変えようとしていたんだ」


 高遠の言葉に、結衣は息をのんだ。これまで解決してきた七不思議は、すべて、この日のための布石だったのかもしれない。


「私は、君を守る。しかし、それだけでは、この問題を解決することはできない」


 高遠は、結衣の瞳をまっすぐに見つめた。


「君の力が、この学校の、そして、君自身の、未来を決めることになる。…君は、この七不思議と、どう向き合うか、決めなければならない」


「私は……悲しい魂たちを解放したいです。この学校で起こっている怪奇現象に怯える生徒たちを助けるためにも」


 結衣は、迷うことなく、はっきりとそう答えた。彼女の瞳には、もう迷いはない。あるのは、生徒たちと、そして悲しい魂たちを救いたいという、強い決意だけだった。


 結衣の言葉に、高遠はほっとした表情を浮かべた。


「そう言ってもらえてよかった。実習中なのに大変なことに巻き込んで申し訳ないが、協力してもらえてありがたい。君のことは必ず守るよ」


 高遠は、そう言うと、結衣の瞳をまっすぐに見つめた。彼の表情には、これまで見せていた冷たさや苛立ちとは違う、穏やかさと、深い信頼が宿っていた。


「さあ、まずは現状の整理をしよう」


 高遠は、結衣に、理科室で見たこと、そして彼女が体験したことを、もう一度詳しく話すように促した。


「君は、人体模型の中にいる、悲しい魂と接触した。そして、彼女は、呪いを解き放つためには、憎しみを解放しなければならないと言っていた。この『憎しみ』こそが、この七不思議の鍵だ」


 高遠は、そう言うと、保健室のベッドに座り、結衣に、エクソシストとしての彼の知識を、少しずつ語り始めた。


「邪悪な霊は、負の感情を糧に成長する。そして、この学校には、悲しみや苦しみだけではない、深い憎しみが、どこかに溜まっている。その憎しみが、あの人体模型に憑りついた邪悪な霊を呼び寄せ、悲しい魂を、この場所に縛り付けているんだ」


 高遠の言葉に、結衣は息をのんだ。これまで解決してきた七不思議は、すべて悲しい魂に寄り添うことで解決してきた。しかし、今回は違う。


 悪意と、そして憎しみ。


 結衣が、これまで触れてきたことのない、全く新しい敵と向き合わなければならないのだ。


「その憎しみを、どうやって見つければいいの?」


 結衣の問いに、高遠は静かに答える。


「それは、君にしか見つけることができない。…憎しみに満ちた場所は、悲しみを糧に、君の五感を欺く。だが、君の、悲しみに寄り添う力は、その欺きを見抜くことができる」


 結衣の手を握る高遠の言葉に、結衣は心臓が温かくなるのを感じた。彼の真剣な眼差しは、彼女を孤独な戦いから解き放ってくれるようだった。


「……ありがとう、高遠先生」


 結衣の言葉に、高遠は静かに頷いた。その様子を、保健室のドアの隙間から見ていた結城は、小さくため息をつく。


(……やれやれ。俺も、もう少し積極的にいればよかったかな)


 彼の心の中で、ほんの少しの嫉妬心が芽生えたのは、否めなかった。しかし、彼は、結衣の安全を第一に考えていた。彼女の隣に高遠がいることは、彼にとっても心強いことだった。


 その夜、結衣と高遠は、誰もいない理科室で、人体模型の謎を解き明かすための話し合いを始めた。


「この憎しみの出所を探す必要がある。手がかりは、理科室に残された、不気味な声と光……そして、君が人体模型の中で見た、あの女性の言葉だ」


 高遠の言葉に、結衣は頷く。


「彼女は、憎しみが、自分を縛り付けているって言っていました」


「憎しみは、負の感情を糧に成長する。この学校には、悲しみや苦しみだけでなく、強い憎しみが、どこかに溜まっているはずだ」


 高遠は、そう言いながら、理科室の隅に置かれた、埃をかぶった薬品棚を指差した。


「この学校の歴史を調べれば、何か分かるかもしれない」


 翌日、結衣は、この学校の古い資料を調べ始めた。理科室の七不思議は、過去に起きた、ある悲しい事件と深く関わっているようだった。そして、その事件の裏には、結衣が想像していたよりも、ずっと根深い憎しみが隠されていた。


「この七不思議を解決するには、憎しみの正体を突き止めなければならない」


 高遠はそう言いながら、結衣に、エクソシストとしての彼の知識を、少しずつ語り始めた。


「邪悪な霊は、負の感情を糧に成長する。そして、この学校には、悲しみや苦しみだけではない、深い憎しみが、どこかに溜まっている。その憎しみが、あの人体模型に憑りついた邪悪な霊を呼び寄せ、悲しい魂を、この場所に縛り付けているんだ」


 高遠の言葉に、結衣は息をのんだ。これまで解決してきた七不思議は、すべて悲しい魂に寄り添うことで解決してきた。しかし、今回は違う。


 悪意と、そして憎しみ。


 結衣が、これまで触れてきたことのない、全く新しい敵と向き合わなければならないのだ。


「その憎しみを、どうやって見つければいいの?」


 結衣の問いに、高遠は静かに答える。


「それは、君にしか見つけることができない。……憎しみに満ちた場所は、悲しみを糧に、君の五感を欺く。だが、君の、悲しみに寄り添う力は、その欺きを見抜くことができる」


 結衣の手を握る高遠の言葉に、結衣は心臓が温かくなるのを感じた。彼の真剣な眼差しは、彼女を孤独な戦いから解き放ってくれるようだった。


「……ありがとうございます、高遠先生」


 結衣の言葉に、高遠は静かに頷いた。その様子を、保健室のドアの隙間から見ていた結城は、小さくため息をつく。


(……やれやれ。俺も、もう少し積極的にいればよかったかな)


 彼の心の中で、ほんの少しの嫉妬心が芽生えたのは、否めなかった。しかし、彼は、結衣の安全を第一に考えていた。彼女の隣に高遠がいることは、彼にとっても心強いことだった。


 その夜、結衣と高遠は、誰もいない理科室で、人体模型の謎を解き明かすための話し合いを始めた。


「この憎しみの出所を探す必要がある。手がかりは、理科室に残された、不気味な声と光……そして、君が人体模型の中で見た、あの女性の言葉だ」


 高遠の言葉に、結衣は頷く。


「彼女は、憎しみが、自分を縛り付けているって言っていました」


「憎しみは、負の感情を糧に成長する。この学校には、悲しみや苦しみだけでなく、強い憎しみが、どこかに溜まっているはずだ」


 高遠は、そう言いながら、理科室の隅に置かれた、埃をかぶった薬品棚を指差した。


「この学校の歴史を調べれば、何か分かるかもしれない」


 翌日、結衣は、律とともに、この学校の古い資料を調べ始めた。理科室の七不思議は、過去に起きた、ある悲しい事件と深く関わっているようだった。そして、その事件の裏には、結衣が想像していたよりも、ずっと根深い憎しみが隠されていた。


「この七不思議を解決するには、憎しみの正体を突き止めなければならない」


 高遠はそう言いながら、結衣に、エクソシストとしての彼の知識を、少しずつ語り始めた。


「邪悪な霊は、負の感情を糧に成長する。そして、この学校には、悲しみや苦しみだけではない、深い憎しみが、どこかに溜まっている。その憎しみが、あの人体模型に憑りついた邪悪な霊を呼び寄せ、悲しい魂を、この場所に縛り付けているんだ」


 高遠の言葉に、結衣は息をのんだ。これまで解決してきた七不思議は、すべて悲しい魂に寄り添うことで解決してきた。しかし、今回は違う。


 悪意と、そして憎しみ。


 結衣が、これまで触れてきたことのない、全く新しい敵と向き合わなければならないのだ。


「その憎しみを、どうやって見つければいいの?」


 結衣の問いに、高遠は静かに答える。


「それは、君にしか見つけることができない。…憎しみに満ちた場所は、悲しみを糧に、君の五感を欺く。だが、君の、悲しみに寄り添う力は、その欺きを見抜くことができる」


 高遠は、そう言って、結衣の手を、優しく握った。


「……大丈夫だ。俺が、君のそばにいる」


 彼の言葉は、結衣の心を、深く、そして温かく、包み込んだ。

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