榊原律エンディング:屋上にて
「結衣先生、ここにいたんだね」
放課後、屋上で空を眺めていると、律に声をかけられた。彼の声は、いつもと変わらない、優しい響きだった。
「榊原くん、どうしたの?」
「うん。――ここからの景色、いいよね。いろんなものが見える」
律は、屋上の柵に寄りかかり、校舎から帰っていく生徒たちを眺めていた。その楽しげな話し声が遠くに聞こえる。その様子を眼下に見ながら、彼は柔らかな笑みを浮かべた。
「ねぇ、結衣先生」
律は、視線を結衣に向けた。その眼差しは、真剣味を帯びていた。
「――俺がここに来た目的は果たした。最初の予定通り、元の学校に戻るんだ」
結衣は、わかっていたこととはいえ、その言葉に、胸の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じた。
「そうなんだ。……淋しくなるな」
「へぇ、そう思ってくれるんだ」
律は、どこか嬉しそうにそう言った。
「俺がいなくなったら、本当に淋しく思ってくれる?」
「うん。もちろん」
「それって、俺が望みを持っていいってことだよね」
「え?」
結衣の問いかけに、律は静かに答えた。
「ここには目的があって来たけど、あなたに会えたことが一番の収穫だったよ。……必ず、また会いに来る」
律は、そう言うと、結衣に向き合った。そして、そっとその手を取った。彼の掌は、温かく、そして優しかった。
「ずっと会いたかったんだ。今度こそ、離れたりしたくない。俺はあなたがいてくれないとだめなんだ。――だから、ちょっとだけ待っててほしいんだ。いつか、何もかも終わらせて、あなたのところに戻ってくるから」
律の言葉は、彼の結衣への深い想いと、そして、彼自身の決意が満ちていた。結衣は、何も言わずに、ただ静かに、彼の温かい手と、真っ直ぐな瞳を見つめていた。




