第二十一話:七不思議の終わり
「学校の七不思議」、怖いばっかりだと思っていたけれど、悲しい心が生み出した不思議な現象だった。
もう音楽室も美術室も理科室も図書館も屋上にも、悲しむ人はいなくなった。
結衣は、澄み切った青空を見上げていた。かつて、不気味な噂が絶えなかった校舎は、今、穏やかな光に包まれている。
「すべて、終わったんだね」
隣に立つ律が、静かに言った。彼の表情には、もう恐怖の色はない。ただ、安堵と、そして、結衣への深い感謝がにじんでいた。
「ああ、ようやく、この学校も安らかになった」
高遠がそう言って、静かに微笑んだ。彼のエクソシストとしての使命は、これで終わりを告げたのだ。
「先生、よく頑張ったな」
結城が、結衣の頭を優しく撫でた。彼の言葉には、結衣を教師として、そして一人の人間として見守ってきた、深い愛情が込められていた。
結衣は、三人の顔を、一人ひとり見つめた。彼らと出会い、共に七不思議に立ち向かった日々は、結衣にとって、かけがえのない宝物となっていた。
この学校の七不思議は、決して怖いだけの怪談ではなかった。それは、誰にも理解されなかった悲しみと、それに寄り添うことのできる、人の優しさの物語だった。
もう、この学校に、悲しい心が生み出す不思議な現象は起きないだろう。
だが、結衣は、これから先も、目の前にいる生徒たちの、そして、大切な仲間たちの、悲しみに寄り添い続けることを、心に誓っていた。




