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【完結】ヒミツの放課後ホラー ~新米教師と、呪われた七不思議~  作者: ましろゆきな
第四章:消えた生徒たちの写真が飾られた図書室

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第九話:消えた生徒たちと写真が飾られた図書館

「あれ? 今日は高橋さんと小林さんお休みですか?」


 理科室の人体模型の一件が一段落して数日後、結衣は受け持つクラスの生徒の欠席が目立っていることに気がついた。別にインフルエンザが流行る時期でもないし、集団でサボるタイプの生徒たちでもない。


 しかも、他の生徒たちは全く疑問に思っていない。


「桜井先生、どうしたんですか?」


 不審に思う結衣の様子を見て、一人の生徒が声をかけてきた。


「えっと、高橋さんと小林さんが今日お休みだから、どうしたのかなと思って」


 結衣の言葉に、生徒は不思議そうに首を傾げた。


「高橋さん? 小林さん? 誰ですか、それ」


 生徒の言葉に、結衣は思わず息をのんだ。彼女が知っている生徒の名を、他の生徒たちは知らないというのだ。


 結衣の脳裏に、七不思議のことがよぎった。


「この学校の七不思議の一つ、『消えた生徒たちの写真』……」



 結衣は、放課後、高遠にその話を伝えた。高遠は、結衣の言葉に、静かに頷く。


「この現象は、学校のどこかで、生徒たちの存在そのものが、消し去られていることを意味する。そして、その原因は、おそらく図書館の書庫にある」


 高遠の言葉に、結衣は心臓が早鐘を打つのを感じた。


「図書館の書庫に、消えた生徒たちの写真が飾られているという噂がある」


「……どうして、そんなことをするんですか?」


「悲しみを、永遠に閉じ込めるためだ。誰かの悲しみが、この七不思議を引き起こしている」


 高遠の言葉に、結衣は、これまでの七不思議と同じように、悲しい魂が原因だと考えた。


「私、図書館に行きます」


 結衣は、高遠にそう告げた。彼の表情は真剣そのものだったが、結衣の瞳には、もう迷いはなかった。


「わかった。一緒に行こう」


 高遠は、そう言うと、結衣の隣に並んだ。


 放課後、二人は、誰もいない図書館へと向かった。静まり返った館内には、埃っぽい匂いが漂っている。高遠は、迷うことなく、奥にある書庫の扉を開けた。


 中は薄暗く、背の高い書棚が、まるで迷路のように立ち並んでいる。


「この中に、消えた生徒たちの写真があるはずだ」


 高遠の言葉に、結衣は周囲を見回した。すると、書棚の奥に、壁一面に写真が飾られた場所があった。


 そこに飾られていたのは、学校の生徒たちの写真だった。しかし、その写真には、共通して、一つの特徴があった。


 どの生徒も、悲しそうな表情をしていた。


「……どうして、みんな、こんなに悲しい顔をしているんだろう」


 結衣がそう呟くと、高遠は静かに答える。


「この七不思議は、悲しみを閉じ込めることを目的としている。誰かの悲しみが、この七不思議を引き起こしている」


 高遠の言葉に、結衣は、これまでの七不思議と同じように、悲しい魂が原因だと考えた。


 これまでは怪異現象を起こしているのは霊自身だった。でも、今回は誰かが悲しみを「閉じ込める」ことをしている。一体、誰が、何の目的でこんなことをしたんだろう。


 結衣が写真を見つめていると、書庫の奥から低い声が聞こえてきた。


「……その写真の生徒たちは、私の物語の登場人物だ」


 振り返ると、そこに一人の男が立っていた。彼は、この学校の卒業生で、有名な小説家だった。結衣が雑誌で彼の写真を見たことがあった。


「私は、彼らの悲しみを、永遠に保存しようとしている」


 彼の言葉に、結衣は息をのんだ。


「どうして、そんなことを…」


「彼らは、悲しみに満ちた人生を送っていた。しかし、誰にもその悲しみを知られることなく、この学校を卒業していった。……彼らの悲しみが、この学校の闇に、飲み込まれてしまう前に、私が、永遠に、閉じ込めてあげなければならなかった」


 彼の言葉は、結衣の心を揺さぶった。彼は、悪意からこんなことをしているのではない。彼の心の中には、悲しみに満ちた生徒たちを救いたいという、純粋な想いがあった。


 しかし、彼のその行為は、生徒たちを、永遠に、悲しみに囚われさせることになっていた。


「……貴方の行いは、彼らを救うことにはならない」


 結衣は、震える声で言った。


「彼らは、貴方の物語の中に、永遠に閉じ込められてしまう」


 結衣の言葉に、彼は静かに微笑んだ。しかし、その微笑みの裏には、深い悲しみと、そして、諦めが宿っていた。


「私の力は、彼らを救うことしかできない。……この学校の七不思議は、すべて、悲しい魂たちの願いから生まれている。そして、彼らの願いは、この学校の闇に飲み込まれて、永遠に、この場所に留まることになる。…私は、それを、防がなければならなかった」


 彼の言葉は、結衣の心臓を、深く、そして冷たく、凍りつかせた。


 悲しみに囚われたまま、ここに閉じ込められることが救いになるのか?


 結衣は、目の前の小説家に問いかけた。


「悲しみが闇に飲み込まれるって絶対なの?」


 彼の作品に閉じ込められた生徒たちの写真を見つめ、結衣は続けた。


「そんなことはない。悲しみは辛い感情だけど、それだけじゃない。悲しみを乗り越える力は皆持ってる。そして、大切な誰かが悲しんでいたら、手を差し伸べることだってできる」


 結衣の言葉に、小説家は静かに微笑んだ。しかし、その瞳の奥には、深い悲しみと、そして、諦めが宿っていた。


「……私は、彼らに手を差し伸べることができなかった。彼らの悲しみが、この学校の闇に、飲み込まれていくのを、ただ見ていることしか、できなかったんだ……」


 彼の言葉は、結衣の心を締め付けた。彼は、過去にこの学校で、誰かの悲しみを救うことができなかった。そして、その後悔から、この七不思議を生み出してしまったのだ。


「悲しみを乗り越えるには、時間がかかる。でも、このままじゃ、彼らは、永遠に、悲しみに囚われたままよ!」


 結衣がそう叫ぶと、小説家は、ゆっくりと、しかし、悲しみに満ちた声で答える。


「……私の、この作品は、彼らの悲しみを、永遠に、保存するものだ。そして、その悲しみが、この学校の闇に、飲み込まれないように、私が、守ってあげなければならなかった」


 彼の言葉は、結衣に深い衝撃を与えた。彼の作品は、悪意から生まれたものではない。それは、彼の、彼らを救いたいという、切ないほどの愛の結晶だったのだ。


 しかし、その愛は、結果として、生徒たちを、永遠の悲しみに閉じ込めていた。


「……貴方の愛は、彼らの悲しみを、解き放つことはできない。彼らを救うには、貴方の愛の物語を、彼らに、届ける必要がある」


 結衣は、高遠の言葉を思い出し、小説家にそう伝えた。


「彼らを閉じ込めたのがあなたの優しさなら、きっと彼らを開放するために手を差し伸べることも、同じ優しさだと思う。誰かを思う心が、あなたの強さじゃないかな」


 結衣は、静かに、しかし力強く、小説家にそう語りかけた。彼の瞳には、深い悲しみと、そして、諦めが宿っていた。しかし、結衣の言葉は、その心の氷を、ゆっくりと溶かしていく。


「……私の、強さ……」


 彼はそう呟くと、静かに、しかし、はっきりと、頷いた。


「わかった。君の言葉を、信じよう。……どうすれば、彼らを、私の作品から、解放できる?」


 彼の瞳に、再び希望の光が宿った。彼は、もう、悲しみに満ちた過去に囚われてはいない。彼は、結衣の言葉に導かれ、未来へと、一歩、踏み出そうとしていた。


「彼らが、悲しみを乗り越えるための、新しい物語を、貴方が書くのよ」


 結衣の言葉に、彼は息をのんだ。


「彼らの悲しみを、作品の中で、肯定するの。そして、その悲しみを乗り越えて、前に進んでいく、新しい物語を、彼らに、届けてあげて」


 結衣の言葉は、彼の心に、深く響いた。


「……ああ、そうか。そうだったのか」


 彼は、もう、悲しみを閉じ込めるために書く必要はない。彼は、悲しみを乗り越えるための、希望の物語を、書くことができるのだ。


「ありがとう。君は、私を、救ってくれた」


 彼の言葉は、結衣の心に、温かく響いた。


 新しい物語が、悲しみに囚われた生徒たちに綴られた。


 彼らは、悲しみを乗り越えるための希望を手に入れた。夏目が紡ぐ言葉に力づけられ、うつむいていたそれぞれの顔が、未来を見つめるために前を向いた。


 夏目 暁人は、万年筆を握ったまま、静かに写真の生徒たちを見つめていた。彼の表情には、もう悲しみも諦めもない。あるのは、彼らを救うことができたという、深い安堵と、そして、彼らが未来へと歩み始めたことへの、心からの喜びだった。


「ありがとうございます、夏目先生」


 結衣は、そう言って、彼の書いた物語に、そっと触れた。物語は、悲しみを乗り越え、希望へと向かう、生徒たちの新しい物語。それは、夏目が、彼らを救いたいと願った、愛の結晶だった。


 その瞬間、書庫に飾られていた写真が、淡い光を放ち始めた。光は、まるで生きているかのように、螺旋を描きながら、空高くへと昇っていく。


「……彼らが、解放されたんだ」


 高遠の声が、静かに響く。


 光が消えた後、書庫には、もう、生徒たちの写真はない。代わりに、壁には、彼らが、希望に満ちた表情で、新しい物語を生きているかのような、美しい風景が描かれていた。


「この七不思議は、解決したな」


 高遠は、そう言いながら、結衣に、静かに微笑んだ。


 結衣は、高遠と、そして夏目、二人から感謝を伝えられた。その言葉は、彼女の心を、深く、そして温かく、満たした。


 しかし、この学校に潜む悪意は、まだ消えていない。


「……次の七不思議は、どんな姿で、私たちを待っているんだろう」


 結衣は、そう呟き、二人の隣で、静かに、未来を見つめていた。

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