プロローグ:教育実習の始まり
校門をくぐると懐かしい風が頬を撫でた。
新緑の眩しい季節だ。
私、桜井 結衣は、今日からこの学び舎で教育実習生としての一歩を踏み出す。
教師になる夢を叶えるために、この場所に戻ってこられたことが、何よりも嬉しかった。
……だた一つだけ心残りがあった。
それは、私の心を蝕むトラウマ。
幼い頃、古い洋館で見た一枚の不気味な絵画。
そこに描かれていた顔が、一瞬だけ私を見て微笑んだ気がした。
その恐怖は今も消えない。
だから、私はホラーが大の苦手だった。
……まさか、自分が七不思議が有名な学校で働くことになるなんて。
実習先の希望を出した時にはそんなこと全く知らなくて、後から知るとか情報弱者な自分に嫌気が差す。
「大丈夫、大丈夫。七不思議なんて、ただの作り話。気にしない、気にしない……」
自分に言い聞かせるようにつぶやき、私は職員室に向かった。
しかし、その日の放課後、私の担当するクラスの生徒が、泣きながら職員室に駆け込んできた。
「……音楽室で、誰もいないのにピアノが鳴ってたんです!」
怯える生徒の瞳は恐怖で大きく見開かれていた。
その瞳が、幼い頃の私と重なって見えた。
「誰もいない音楽室から聞こえるピアノの音」、この学校に伝わる「七不思議」の一つ。
「桜井先生、私、学校が怖いです……」
震える彼女の背中を落ち着かせるように撫でる。
このままじゃ、この子のトラウマになってしまう。
私と同じ様になってほしくない!
「大丈夫。先生がその謎の真相を解いてあげるからね」
笑顔でそう言うとホッとした表情になる。
うん、きっと大丈夫。「七不思議」なんて怪奇現象は存在しない!
――こうして、私は、学校の七不思議と向き合うことになった。
ホラー苦手なんだけどね!!