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第85話 深淵への入り口

「ようこそお越しくださいました」


低く落ち着いた声が、ララ達一同を迎え入れた。


「突然の視察を快く受け入れてくれたこと、感謝します」


ララの毅然とした声に、ゆっくりと顔を上げたドートル侯爵。


太い眉に、口の周りの豊かな髭。

体躯は頑丈で、鋭い目つきが威圧感を増す。


「侯爵様、ほら、ニコッと笑わないとお顔が怖いですよ」


右隣の鉱夫が話しかけると、周りが一斉に笑い出した。


「いや……いつもの顔だが」


髭を撫でる侯爵に、左隣にいる従者がララ達へ笑顔を向ける。


「愛想のない主人で申し訳ありません。

決して機嫌が悪いわけではなく……」


従者の言葉に被せるように、別の鉱夫が話を継いだ。


「今日の侯爵様はご機嫌だよなぁ。だって昨日よりビスがよく採れるし。

やっぱり採掘場を昔の坑道に戻して正解だな」


―――っん?

なんだろう……このモヤっとした感じ。


何がそんなに気にかかったのか、自分でもわからない。

わかるようで、わからない。

ただ、モヤモヤした気持ちだけが広がっていった。


「それではこの鉱山について、簡単に説明させていただきます」


ドートル侯爵がララに向かって声をかけ、坑道の入り口を手で示す。

一同はゆっくりとした足取りで、山の斜面に大きく口を開いたその場所へと移動した。


ゴツゴツとした岩肌に、暗く深い洞穴。

補強に使われている鉱木は湿り気を帯びているようで、黒ずみや苔が張り付いている。

中から吹き出す冷たい風が、ララのシルバーブロンドを巻き上げた。


「真っ暗だなぁ」


中を覗き込んだバートンが、ぽつりと呟く。


「作業中は、ちゃんとランプで灯りをつけていますよ。ほら、壁に掛かっているでしょう」


ドートル侯爵の従者が、数メートル間隔で設置された魔導具ランプを指差した。


「使っていない時は、ちゃんと消してるんですね」


感心した様子のアーロンの言葉に、隣の鉱夫が少し言い淀むように口を開く。


「ビスは貴重ですから……。

ここ数年、採れる量はかなり減ったし……。

このままじゃ、俺たち仕事無くなっちまうかもなぁ」


彼の言葉に、「ドートル侯爵の顔が怖い」と笑いをとった鉱夫が、からりとした調子で話し始めた。


「まぁ、採掘量が落ちたのは心配だけど、いつも侯爵様が気にかけてくださるし、こうやって現場にもちょくちょく顔を見せてくれる。

採掘場の検討も一緒にしてくださるし、きっと大丈夫」


頷き合う鉱夫達から視線をドートル侯爵へ向けたララ。

侯爵は何も言わずに、ただ黙って彼らを見ていた。


一通りビス鉱山の説明を受け終えると、ドートル侯爵の従者から提案を受けるララ一行。


「そちらの小屋にお茶の準備をしておりますので、よかったら」


彼が示した方角は太陽の光が眩しく、輪郭がぼやけて見える。

目を細めたララは、小屋の端に三人の影を捉えた。


隣のランゼルの袖を軽く引くと、視線が合った彼は頷く。

ララも頷き返して、横を歩いていたドートル侯爵に目をやった。


「……お父様」


ドートル侯爵に向けられた言葉に、一瞬にして訪れた静寂。


「……サラナ」


声を絞り出した侯爵は、地面に縫い付けられたように動かない。


サラナは、ゆっくりと侯爵に向かって足を進めた。


「ねぇ、あの、おひげのひとが、おじいちゃん?」


ヴァルドと手を繋いで佇んでいるルーベンが、首を傾げながら呟く。


静けさの中に響く、柔らかく高い幼児の声に、ドートル侯爵の目が見開かれた。

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